忍者ブログ

空箱

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

アイスクリーム

欲を吐き出した後の倦怠感に包まれて、弛緩する身体をシーツに預ける。遅れてゆっくりとレオナの上に預けられる体重をそっと抱き留め、荒い息を吐く。胸の上にぺとりと預けられた頭を撫でれば、レオナの物とは違う、真っ直ぐで癖の無い髪がしっとりと指に絡み付いた。まだレオナの物はジャミルの中に埋められたまま、ジャミルの息遣いを感じている。
「……アイス、食べたい」
ぽつりと胸の上に落ちた声に、冷凍庫の中身を思い出す。確か以前買い物に行った時、ジャミルが勝手にカゴに忍ばせたアイスクリームのパッケージがまだ残っていた筈だ。
「……持って来るか?」
アイスと、スプーンと、それから水分補給にビールもついでに持ってくるか。肘を付いて身を起こそうとするレオナの肩にするりと腕が絡み付き、押し止めるように体重が乗せられる。圧し掛かり、見下ろすジャミルの双眸が笑みに細められていた。
「違う、ダッツの、新しいやつ」
「はあ?んなもん、うちに無えだろ」
「コンビニに売ってた」
「今から買ってこいって?」
「うん」
「ふざけんな」
ぐしゃぐしゃと綺麗な髪をかき混ぜてやるも、ジャミルはけらけらと笑っていて全く堪えた様子が無い。
「コンビニまですぐだろ」
「なら自分で行けよ」
「ヤダ」
「俺だって嫌だ」
「なあ、レオナ」
「あ?」
「アイス、食べたい」
額を合わせて、キスをするような至近距離で、ジャミルがねだる。外では何でも一人で出来てしまう優等生として知られるジャミルが、交渉術も何も無く、ただ望めば何でもレオナが叶えてくれると信じて甘えているのだと思うと、それ以上拒絶するのは難しかった。先に惚れた方がなんとやら、思わず深い溜め息を吐いてやれば勝利を確信したジャミルが幼い顔で笑う。どの道、そんな無防備な笑顔を見せられてしまったらレオナに勝ち目は、無い。
「何処のコンビニだ」
「駅前の、ポストがある方の」
「遠い方じゃねぇか」
レオナが身を起こせば、楽しげに笑うジャミルがゆっくりと膝を立てて体重を浮かせる。ずるり、とすっかり力を無くした物が抜け落ちて満足げに喉を鳴らしていた。ついでとばかりにジャミルの細い指が萎えたレオナのものに絡みつき、被されていたゴムを器用に抜き去ると、くるりと丸めて結んでティッシュで包んで放る。
「ナイッシュー」
すとん、と綺麗な放物線を描いてゴミ箱に吸い込まれたのを見届けて上機嫌な声を上げるのを聞きながら、レオナは床に落ちていた下着やらスウェットやらを拾い上げては身に付けて行く。汗で気持ち悪いが、深夜のコンビニに行くだけなら許されるだろう。
「で?何味だ?」
「アーモンドのやつ」
「んなもんあったか?」
「出たんだよ、つい最近」
ベッドの上、シーツに絡まりながら猫のように伸びをする姿を横目に、さすがにTシャツは脱ぎ捨てたものを再び着る気にならずにクローゼットを漁り、洗剤の香りが残る新しいものを頭から被る。乱れた髪を適当にかき揚げ、財布を尻ポケットにねじ込み、スマホを探す辺りでもぞりとシーツにくるまったジャミルがベッドから降り立ちぺたぺたとレオナの後を着いて来るようになった。床の上に丸まったジャミルの下着に埋もれていたスマホを発掘し、電池の残量を確かめてから玄関へと向かう。サンダルを突っ掛けながら、ぺたぺたとマイペースな足音を頭だけで振り替える。
「ダッツのアーモンドな、他にはないな?」
まあ何かあればスマホで連絡してくるだろうと、礼儀として一応聞いておいた、程度のものだった。だがすぐ返ってくると思われた返答はなく、不審に思って見下ろした先には、先程まではえらく上機嫌だった筈のジャミル尖った唇があった。
たぶん、これは、ジャミル自身でも理解しきれない感情に戸惑っている時の顔。はっきりと本人からそうだと言われた事は無いが、それなりに長い付き合いだ、間違ってはいないと思う。すぐにでも扉を開けようとしていたのを一旦止めて、ジャミルに向き直る。下手に急かせば、ジャミルは処理しきれなかった感情を飲み込み無かった事にするだろう。今までのように、優等生らしく、聞き分けの良い振りをするのだろう。
ずっとそうやって生きてきたジャミルを、長い時間をかけてようやくここまで懐かせ、レオナにだけは甘えるようになったのに、今さら我慢はさせたくない。
「……なんか他にもあるなら、言ってみろよ。待っててやるから」
ことさら優しく声をかけて、頬に張り付いている黒髪を指で掬い、耳にかけてやる。迷うように揺れた夜の色の瞳がじっとレオナを見上げ、それからきゅ、とまるで拗ねたような顔をする。
「……やっぱり一緒に行く」
「……なら、服着て来い。流石に裸じゃ外に出せねえな」
何を言い出すのかと思いきや、また随分と可愛らしい事を。ぱたぱたと急ぎ足に部屋に戻る背中を見送りながら、レオナは一人密やかな笑いを漏らした。



既に日付も変わった時刻の住宅街はしんと静まりかえっていた。素肌に薄手のパーカーと膝下までのパンツを履いただけのジャミルに、乳首透けてるぞと言おうかどうしようか悩んで、止めた。どうせ会うとしたらコンビニ店員くらいのものだから気にする事も無いだろう。つい突いてやりたくなる気持ちを我慢すれば良いだけの話だ。
人目が無いからと、堂々と手を繋いでやればジャミルの機嫌は戻ったようだった。ふんふんと何か鼻唄を歌っている。
月は明るく、通りすぎる風は少し、生ぬるい。繋いだ手が汗ばんでいた。少し力を入れて握ってやれば、絡んだ指に同じように力が籠り、そしてジャミルがレオナを見る。目があうと、闇に同化してしまいそうな瞳が、満足げな三日月の形になっていて、釣られたようにレオナの顔も緩む。
言葉は無かったが、なんとなく、それで良いのだと思う。広い夜空をまるで二人だけのものにしたかのような満たされた気持ち。知らない歌を歌うジャミルの何処か弾んだ声を聞きながら、繋いだ手を頼りに、二人で夜を歩いた。



辿り着いたコンビニの扉が開くと、汗を纏った身体がひんやりとした空気に晒されて心地が良い。繋いだ手を離し先に店内へと入っていくジャミルの後を追う。
一直線に向かったのはお菓子のコーナー。袋詰めになったスナックをじっくり吟味しているのを見て、レオナは入り口に戻って籠を手にした。時間にして大した時間をかけずにジャミルの元に戻った筈だったが、戻った時には既にいくつか選び取られた菓子が無言で籠に放り込まれる。新商品と書いてある物、ジャミルが良く好んで食べている物、それからもう一つ見覚えのある袋にレオナは片眉を上げた。
「……お前、これ嫌いだって言って無かったか?」
「そうだったか?」
「チーズが臭いって言ってただろ」
「でもレオナ、それ好きだろ」
このチーズ味のポテトスナックは、以前やはり何かのついでにジャミルが勝手に籠に放り込み、そして帰るなり開封して食べ始めた物の、一枚食べたきり顔を顰めてレオナに残りを押し付けて来たと記憶している。あえてジャミルが苦手な物を次も買うことは無いだろうと、特に感想も告げずに黙々と消費することに専念していた筈だったが、しっかりバレていたらしい。どうだと言わんばかりに笑うジャミルを誉める代わりに髪をかき混ぜてやれば、止めろと笑いながらパーカーのフードを被られてしまった。



飲み物の並んだ冷蔵庫の前で、一人一本ずつ缶入りのアルコールを選び、あとは目当ての物を籠に入れれば終わりかと言う頃に、あ、とジャミルが声を上げる。
「なんだ?」
「こっち」
問いには答えずに腕を捕まれ、引っ張られるままに着いて行くと、そこは店を入ってすぐに通り過ぎた場所だった。ジャミルの視線の先に並ぶ品物を見て、レオナは首を傾げる。
「……まだあるだろ?」
「味付きとか、イボ付きだって」
「あんま良いもんじゃねえと思うが」
「レオナ、どれなら入る?」
「買うのかよ」
「変なやつ試してみたい」
これかこれ、と二種類を指差されて渋々パッケージに書かれた情報から入るかどうかを考える。両方ラテックス製なら、まあ、多分、なんとか入るだろう。まるで玩具を買ってもらう前の子供のように目を輝かせてレオナと一緒に覗き込むジャミルがおかしくて、つい、伸ばした手でジャミル背中からパンツの中へと手を滑り込ませる。ウエストがゴムで出来たそれはいとも容易くレオナの侵入を許し、生肌の尻を掴めた。
「っっ!……おい、」
咎める声には構わず、小さな尻を育てるようにやわやわと肉を揉み、先程までレオナを咥え込んでいた場所に浅く指先を埋め込んでやれば息を飲むような音と、ぴくりと震える肩。下手に暴れて目立つことを嫌ったのか、身動ぎはするもののレオナから逃れられる程には至らない。それを良い事にもう少し深くまで指を差し入れぐるりとかき混ぜてやれば、流石に危機感を覚えたらしいジャミルに思い切り太股を叩かれた。
「お前の中に入るもんだろうが。こっちにも聞いておかねえと」
「オヤジくさ……」
「後で泣かせるから覚えてろよ」
可愛げの無い事を言う罰とばかりに軽くジャミルの好きな場所に指先で振動を送ってやれば、ひぅ、とか細い悲鳴が上がり、ビクンと肩が跳ねさせた身体がたまらず、と言った様子でレオナにしがみついたので、満足して指を抜いてやる。
それから、先程適当に選んだ箱を籠へと放り込む。どうせ一個使えば飽きるか、むしろ封を開けただけで満足して結局使わずにゴミになるのが目に見えている。
「あとはもう無ぇな?」
聞けど、先程よりも目深にフードを被ったジャミルはレオナの背後に回って執拗に脹ら脛をサンダルの爪先で蹴っていて表情を窺うことは出来なかった。痛いという程では無いが鬱陶しい。だがまあ、そうされるようなことをした自覚はあるので子供染みた仕返しに笑いを誘われながらも、甘んじて受け入れることにする。



レジに向かい、店員が出てくる頃には脹ら脛への攻撃は止まったがジャミルはレオナの背に隠れたままだった。下手に情事の名残を纏わせたままの顔を人目に晒すのはあまり良い気分では無いからそれは良いのだが、会計を済ませ、店の外に出てもレオナの背中に張り付いたままなのは少々居心地が悪い。
「おい」
歩けばついてくるが、返事は無い。
「ジャミル」
呼べば、軽く背中を殴られた。今度は一体なんなんだと振り向こうとするも、それを阻止するようにTシャツの裾を掴まれ、腿の裏を膝で蹴られる。
「お前な、言いたい事は口で言え、口で」
振り返ることは出来なかったが、足を止めて待つ体制に入る。時間にすればほんの数秒の間、それからトドメとばかりに背中に額が勢い良くぶつかる感触。
「……アンタのせいでシたくなってきたのでキリキリ歩いてください」
一瞬意味を考えてから、思わず声を上げて笑ってしまった。もう一発背中を鈍く殴られたが可愛いものだ。買い物袋を持たない手で背中を探り、ジャミルの手を掴んでも逃げられはしなかった。指を絡ませ、ぐい、と引っ張り歩き出す。
「帰ったらたっぷり可愛がってやるよ」
漸く歩き出したジャミルの顔はフードに隠されて見えない。だがきっと耳まで真っ赤になっているのだろう。普段、したくなったら勝手にレオナの物を舐めて跨がるくらいの事をしでかす癖に何を今さら恥じらっているのか、何処で羞恥心を覚えたのかわからない。だがわからないからこそ、ベッドに押し倒してやるのが楽しみになる。

帰りの道は、行きよりも随分と早く家に辿り着く事となった。

拍手[1回]

PR

comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]