忍者ブログ

空箱

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

てのひらひとつで

果てた直後の、荒い呼吸が二つ。
そのまま力尽きたかのように背に圧し掛かる重みが暑苦しいが、嫌いでは無い。ぬるりと密着した肌が汗で滑り、二人分の体重をを受け止めるシーツがじっとりと湿っていた。未だ落ち着かずに暴れる脈動は二つある筈なのに、まるで一つの生き物に融合したかのように背中が自分以外の体温に溶けていた。


どちらからともなく、スマホの簡素なメッセージ一つで約束を取り付けてはこうしてただ溜まった物を発散させるだけの関係に名前は無い。二人の間にあるのは手軽さと、相性の良さと、ほんの少しの執着。それだけあれば身体を重ねる事は簡単だった。
今までずっと抱えていた枕に顔を埋め、落ち着かない呼吸を整えるように深呼吸をすると肺を満たすのは仄かなレオナの香り。きっと、今ジャミルのうなじに顔を埋めて余韻を噛み締めている頭の匂いを嗅げば同じ香りがするのだろう。不思議と、不快だとは思わなかった。


暫く言葉もなくただじっとそうしていた後に、ゆっくりと背に張り付いていた温もりが剥がれ、濡れた背中の上を涼しい風が通り過ぎる。腰を掴んだ掌はまだ熱いのに、ぞろりと、硬さを失った物がジャミルの中から抜け落ちて行く。そのほんの僅かな違和感とも燻ぶりとも言えない感触に、んん、と手足の先を丸めて喉を鳴らせば、ぐしゃぐしゃと労うように後頭部が無造作に撫でられた。まるで犬でも撫でるかのような手付きに緩い笑いが込み上げる。どんな顔をしているのかが見たくなって、ごろりと転がって見上げたレオナは、想像していたものよりもずっと穏やかな瞳でジャミルを見下ろしていた。月明かりに照らされた、普段見ない表情に誘われて両腕をレオナへと伸ばす。一度だけ、片眉を上げたレオナがジャミルの手を取り、その指先に、手の甲に、掌に唇を押し付けてからジャミルの腕の中に納まる。きっと、女を相手にする時は当たり前の行為なのだろう。彼の国はレディファーストだと聞く。だが、昼間はそんな姿を見せない癖に、ジャミルが相手であろうと夜になればそうして気障ったらしい事をするのが、なんだかおかしかった。
「……ご機嫌だな」
冷えた空気を押しのけるようにして再び向かい合ってジャミルの上にのしかかるレオナが、笑う。太い指先がジャミルの顔を撫で、汗で張り付いた髪を払う手付きは優しい。首に回した腕を引き寄せれば、笑う吐息一つで望みのままに唇が重なる。
「ん、……」
乾いた唇を舌を濡らすように、とろりと絡まり合う。熱の名残を吐息に含ませて、はふ、と漏らした息すら飲み込まれる。指を入れたレオナの髪は汗でしっとりと湿り、よく指に絡みついた。より深くまで蕩けたくて、綺麗な形をした頭を抱え込めば察しの良い舌先が欲しい物をくれる。
微温湯をそうっと掻き混ぜるような穏やかな触れ合いは、終わる時も静かな水音一つを残しただけだった。おまけとばかりに頬に、こめかみにと唇が触れてそのくすぐったさに思わず笑い声が漏れる。肌よりも、心がくすぐったい。
このまま、穏やかな余韻を抱き締めて眠りたい気もするし、もう少し、足りない気もした。でもどちらを取るかは決めかねて、心地良さにぼんやりと揺蕩う心地で間近の瞳を見上げれば、穏やかなエメラルドがすうっと眇められる。
「……そういや、試してみてぇ事がある。いいか?」
今までにあまりない問いに一度瞬き、ことりと首を傾ける。この男に全幅の信頼を寄せている、というわけでは無いが、カリムのようにこちらの想像もつかない突飛な事をしないという信用はしている。そもそも、嫌がらせの類ならばわざわざこうして窺うような事をせずに実行する男だ。ジャミルの意思を確認してくれるだけで、どうぞ、と望むものを差し出してやりたくなるのだから、大分絆されている。まだ、何を試してみたいのかも聞いていないというのに。
「まあ、悪いようにはしねえよ」
無言の間をどう捉えたのかはわからないが、額をぴとりとくっつけて、そっと頬を大きな掌で包み込み、駄目か?と月明かりに煌くエメラルドを弓形に細めて問う、そのジャミルの心をいとも簡単に鷲掴みにする手管にぐうの音も出ないのが悔しい。普段あれだけ怠惰で傲慢な王様の姿を見せて置きながら、こういう時だけ甘えるように強請って見せる、その綺麗な顔がもたらす威力を本人はきっと理解していない。そうやって甘えられる事にジャミルが弱いのだということも、知らない、と、思いたい。
「……駄目じゃ、無いですけど」
「うん」
「せめて何するのか、説明してもらえません?」
「……説明が、難しい。まあ、まずは体験してみろ」
そう言って嬉しそうに笑う顔が少し幼く見えるのがまたずるい。それとも、これは絆されているが故の幻覚か何かだろうか、そう思わないとやってらない。
礼のように音を立てて唇端にキスを落としてから、ごろりとレオナがジャミルの右側に寝転がる。促されるまま頭の下に潜り込んだ腕を枕にすれば、すぐ傍にレオナの顔があった。平常時の体温を持った右掌がジャミルの体液に濡れた腹の上に置かれ、ぬるりと、吐き出した物を塗り広げるように撫でられて緩やかに抱きかかえられる。レオナの温もりに包まれ、足が絡みつく。そうして再び重ねられた唇。ゆるりと、穏やかな熱を分け与えられるままに絡めとり、飲み下す。
「ん……?」
じわりと、触れられている腹に熱が滲む。火傷するような温度では無いが、何か、煽るような、高揚感を齎す、熱。
「……心配すんな」
合間の吐息で囁かれ、そうして再び唇が塞がれる。舌は眠気を誘うかのような穏やかな温もりしか伝えないのに、腹に触れた掌が、熱い。表面だけではなく、レオナの掌から滲みだす熱はもっと奥の、臓腑にまで染みていた。
そして気付く。これは、魔法の力だ。
「……あつい、……」
率直な感想を伝えるも、ああ、とさもわかりきっていたかのような生返事しか返ってこない。それなら、多分、大丈夫なのだろう。レオナが何をしているのかはわからないが、レオナの想定内の出来事であるなら、良い。
人に、力を送り込むというのには、それなりに技術が居る。悪意を持って破壊しようとすれば簡単に内側から身体を壊す事も出来るし、怪我を治そうとして細胞を活性化する為に力を送るのだとしても、その力が強すぎれば心臓発作を起こして死ぬ事もある。だからこうしてただ為すがままに力を送られているのは中々に恐怖感があるのだが、そこにマゾヒズム的な物を感じてぞくぞくしているところも、ある。レオナの魔法の扱いについて信頼はしている。だが、為すがまま、ほんの少しの気の迷いでも簡単に殺してしまえる場所にジャミルの命を投げ出していることには違いない。
「――……ぁ、……」
レオナの掌は、ただ肌に触れているだけだ。送られている力も、攻撃的な悪意あるものではない。どちらかと言えば、優しく撫でるような心地よい物。それなのに腹の奥が疼いていた。先程までみっちりとレオナを受け入れて味わっていた場所がじくじくと炙られている。
「……は、……ふ、……」
合間に漏れる吐息がレオナの唇の中に吸い込まれる。じんわりと汗が滲む程に身体が発情しているのに、苦しい程にキスだけは甘い。触れられているだけなのに、まるでレオナの掌がジャミルの内側まで潜り込み直接神経を撫ぜられているかのようだった。疼くその場所を、的確に何かが擽っていた。
「……ぁ……れおな、……」
「ん?」
「……、」
こわい、と口にしかけて、止める。身の内から何かに侵食されて行く感覚にざわつく心を、なんと表現して良いかわからなかった。怖い、だけではない。未知なる世界の扉を開いてしまうような、底知れない高揚感もある。けれど。
「……大丈夫だ」
左手が、大きくて暖かな掌に握られる。たったそれだけで縮こまった心が解けてしまうのだから単純だ。そっと右手を腹の上に置かれたレオナの掌に重ねて、指を絡める。
「ぁ、……あ、ぅ……」
ぐ、と少しだけ力を込めて腹を押されると、それだけでぐずぐずに蕩けた中身が痺れるような心地好さを連れて来た。薄い腹にレオナの指がめり込んでいる。まだぽかりと口を閉じきれない場所は空っぽのままなのに、幸福感にも似た何かで満たされている。ジャミルの身体の中で快感と言う水風船を揺すられているかのように、何もかもが気持ち良い。一撫でされるだけでたぷんと快感が波打つ。鷲掴まれた腹の内側で、たぷりたぷりと快感が膨らむ。
「っは、……ぁ、あ、だめ、来る……っ」
「いいぜ。イっちまえよ」
縋るように額をレオナの方へと押し付ければ、そっと寄り添うように顔が重なる。腹の中の水風船が、ぐっと握りこまれて今にも快感を弾けようとしていた。普段の、レオナに導かれて引き摺り上げられるのとは違う、一歩ずつ、確実に階段を踏みしめて快感を積み重ねて行くような、静かで、ともすれば竦んでしまいそうな快感の先に向かおうとしていた。縋り付く物を求めて爪先で手繰るシーツがぐちゃぐちゃに乱れ、強張る指先がレオナの手の甲を掻いた。
「あ、あ、……っふ、やだ、ぁ、あ、あ……っっっ!!」
腹の中で水風船が弾け飛び、全身に中身をぶちまけて駆け巡る。内蔵どころか脳まで快感に浸されて、気持ち良いということしかわからない。
「ぁぁあぁあ……」
決して激しくはない。穏やかに、染み込むように快感に浸された身体が言うことを聞かずにがくがくと震えていた。それを押さえつけるように腹を押さえる手に力が籠り、今まで以上に熱い何かが流れ込んでくる。
「ーー……っっっっ!!!!」
上げた筈の悲鳴は音にすらなれなかった。死んでしまうのではないかと恐怖する程の快感に満たされて、ジャミルの意識はすぅっと落ちていった。
気を失っていたのは一瞬の事だったようで、瞼を持ち上げるとすぐ間近に満足そうなレオナの顔があった。
「上手にイけたじゃねえか」
そう言って、まだ痺れたような感覚の残る身体を抱き締められ、頬に口の端にと口付けられる。
別に、嫌だったわけではない。気持ち良かったのは事実だし、レオナがそれで満足したのなら、文句は無い。だが、これだけは言ってやらねばならないと、ジャミルは口を開く。


「……へんたい」

拍手[0回]

PR

comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]