さて、どうするかな、と出来るだけ怯えた顔を作りながら考える。
ジャミルの腕を掴むのはスカラビア寮の最上級生、それからその後ろに取り巻きの二人。風呂を済ませて自室に戻ろうとした所で捕まった。入寮の時に人の好さそうな寮長を差し置いて我が物顔であれやこれやと命令していたから顔は良く覚えている。あの時と同じく、この男の太鼓持ちをしていた後ろの二人の顔も。
「主の尻拭いは従者の仕事だろ、来い」
「ら、乱暴な事しないでください……!」
出来るだけか弱く見えるように気をつけて、引き摺られるままに足元をよろめかせてみたりしながらついて行く。三人の上級生に囲まれて入学したての一年生が引き摺られているというのに寮生たちは皆そそくさと目を合わさずに逃げていく、それだけでこの三人の評判がよくわかる。
事の発端は、カリムが運ぼうとしていた朝食を彼らにぶちまけてしまったことだった。事故現場そのものは見て居なかったが、大して焦る事もなくその場はカリムに一言二言嫌味を言った後に、着替えて来ると去って行った様子からしてそもそもカリムの不注意ではなく、彼らの計画的犯行だったのかもしれない。
カリムの不注意での事故なら多少はまあ、丁寧にお話をお伺いしてやってもいいが、元より因縁をつける為に彼らが自ら引き起こしたというのなら何も遠慮する事は無い。
とは言え、人目のつかない場所で彼らを物理的な手法で片付ける事は容易いが、そんな事をすれば余計に面倒な事になる気がする。ジャミルよりも一回りも二回りも大きい彼らはそれなりに腕に自信があるようだから、下手にプライドを傷つけては余計な執着を植え付けるだけだろう。ジャミルに負けた彼らがその邪な感情を向けるのはカリムだ。面倒な事になるに決まってる。
ユニーク魔法を使うのも一つの手ではあるが、まだ入学して一カ月やそこらで奥の手を使ってしまうのも気が引ける。何せジャミルも初めての外の世界なのだ。最初からユニーク魔法に頼り切った生活をしていたら後々困る気がする。
カリムは、生まれてからこれまでずっと「跡継ぎ」として育てられている。血族だけでも膨大な人数になるアルアジームの長となるべく育てられている。よほどの立場の者を相手にする時以外は敬語を使うなと言われているし、望めば何でも叶うと、その力がアジーム家にはあると教えられている。それが当たり前の世界で生きている人間だけに囲まれて生きているうちは良いが、こうして外に出れば反感を買う事も多いだろう。きっと「こういう事態」はこれからも何度も遭遇する筈だ。
先程だって、「汚れた服を弁償しろ、アジーム家のお坊ちゃんなら安いもんだろう」という嫌味に「わかった!今日中に用意させるからサイズをジャミルに伝えておいてくれ!」と何の含みも無い笑顔で言い放っていた。それは、きっと、寮という小さな世界での上下関係に固執する彼らにとっては火に油を注ぐ結果にしかならない。
連れて来られたのはスカラビア寮内の空き室だった。とうにかく派手に豪華にと考え無しに金を注ぎ込んで建て替えた所為でこの寮は空き室が多い。利便性の高い部屋から埋まって行くものだから、こんな建物の端の部屋など、通りかかる人すらまだ居ないのではないかと疑う程だ。
放り出されたベッドはまだ新品で埃も少ない。反射的に防御反応を取ろうとしてしまうのをなんとか宥めて力を抜き、それからのそのそと身を起こして男達を見る。扉を背にベッドを囲む男達は明らかに自分たちが優位と信じているからかにやにやと笑っていて思わず吹き抱いてしまいそうになるのをぐっと堪える。
「……あの、俺、どうしたら……?」
それなりに本音の問いを、大袈裟に縮こまり怯えた振りをしながら向ける。この程度の目をした男達ならリンチと言っても大した事はしないだろう。それならば多少の痛みは我慢して最初は大人しく殴られておくべきだろうか。承認欲求ばかりが強い取るに足らない存在ではあるが、現在寮長よりも権限があるかのように振舞える程度には寮内カーストの上位に居る存在は、出来れば敵対するよりも抱き込みたい。
「大人しくしてりゃあ、痛い思いはさせねえよ」
そう言って伸ばされた六本の腕がジャミルを殴る事は無かった。代わりに腕を、足を捕らえて真新しい制服が剥がされて行く。
「あ、あの……?」
「やっぱお前いいな、その顔そそる」
ベッドに乗りあがった男達の一人に背から抱きかかえられ、一人に下を脱がされ、そうしてその上に圧し掛かったリーダー格がジャミルの顎を掴んでにんまりと笑う。
なるほど、そっちか。
殴られるよりはマシな気もするが、下手なセックスに付き合わされるのも面倒臭い。早速ジャミルの唇に唇を押し付けて来ようとするリーダーに反射的に唇を開いて受け入れようとしてしまい、慌てて頭を振り、身を捩って逃げようとする。
「止めてください……!」
咄嗟に出した声は憐れっぽく聞こえただろうか。少々威圧的になってしまった気がする。怯え切った人間が思わず出してしまった緊張感のある声という事にしてくれ。
「お前もヨくしてやるから、大人しくしてろ」
逃れられぬように再度顎を掴まれて無理矢理口を開かされ、そうして何かが口の中に放り込まれる。味からしてリラックス効果や媚薬に近い成分だろうか、それにしても混ざり物が多い安物だ。この程度、ジャミルに効くわけも無いが余りに手慣れた動きからして彼らは常習犯なのかもしれない。ならば一度被害にあってみるのもまあ良いか、と追いかけるように唇を塞ぎべろんべろんと何の技巧も無く口内を舐めまわされながら考える。
今までジャミルがこういう事をしてきた相手は皆、地位も、金も、余裕も兼ね備えた大人の変態ばかりだった。余裕のない若者が何をするのかを知る良い機会だろう。それを活用する機会についてはあまり考えたくも無いが。
「んんんんーー!!!」
精一杯怯え嫌がる振りをしながら、ジャミルは気合いを入れた。
「あっあっあっあっやらあ!もうやらあ!」
痛い。辛い。セックスって下手な奴相手だと此処までしんどくなるのか。
「そこ、そこ気持ちいぃ、気持ちいいですう……ッ」
そこが気持ちいいって言ってんだろ変なトコばっかがしがし突いてるんじゃねえ人の話を聞け。
「も、イきたいい……ッあ、っあ、っイきたいですぅ……お願……ッあ」
お前らが下手くそ過ぎてどう頑張ってもイける気がしないからせめて手を使わせろ自分で勝手に扱いてイくから。何で一度もイけてない俺が自分のちんぽも扱けずてめぇらのちんぽ扱いてやんなきゃなんねぇんだ。俺がケツでイけないってどれだけ下手なんだよ逆にちょっと自信無くしたぞどうしてくれる。
「イく、……ッイっちゃう、イっちゃうよお……っっ!!」
全神経集中させてイこうとしてるんだから邪魔するなお前の舌で舐められてもどうしてそこまで俺の性感に響かないのかが気になって気が散る、頼むから一分待て一分待ったら好きなだけ舐めまわしていいから。
「………ッっひゃああああああああん!!!」
やっとイけた。初めての癖に淫乱だのびっちだの散々言ってくれるが俺がどれだけ努力したと思ってる。いや何で努力したんだっけ?とそこまで考えてからようやく夜のご接待業務が身に染み過ぎている事実に気付いて一人でちょっと凹む。いやだって、こういうタイプはジャミルがイけばイく程喜ぶから、相手よりは多くイかないと、と無意識に考えていた。
考えているのにジャミルがイけないままあいつらは既にジャミルの中に二回ずつ吐き出してる。この早漏どもと罵ってやりたいのをぐっと堪えてぐったりと身体を弛緩させてみせた。
疲れた。
とにかく疲れた。
今まで散々変なプレイでしか性欲発散出来ない変態クソ爺どもと罵った数々の自称紳士たちごめんなさい、ひたすら縛られたまま卑猥な言葉を言われるだけとか、一時間くらいずっとただ全身舐めまわすだけとか、ケツの穴で何が入ってるのか当てさせられるとか、あんなよくわからんプレイでもジャミルがイける程度には上手かったんだな、と謎の感動がある。
「お前、本当にいいな。こんな、二回ヤってもまだ足んねえなんて初めてだぞ」
そう言って男がまた一人、ジャミルの足を抱えて合間に陣取る。嘘だろまだ元気なのかよ。これが若さか。
「お前も気持ち良いんだろ?気持ち良いよな、ケツでイくくらいだもんな」
あ、そうか、普通はそんな簡単にケツでイけないのかと気付いても後の祭り。すっかり馬鹿になった場所にずっぷりと男の物が埋め込まれる。勢いがあれば良いってもんじゃねえんだよそんなんだから今まで誰もケツイキ出来なかったんだろうがと怒鳴りたいのをぐっと堪え、叫ぶ。
「も、もう、やだああああああああああ!」
悲しいかなジャミルの心からの悲鳴は「そんな事を言ってもお前の此処は喜んでるぞ」と何処のAVで覚えてきたんだと言わんばかりの台詞によって無視されてしまった。
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