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空箱

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おしおき

ホリデーと言えど、王族にとっては呑気に休んでいる暇は殆どない。連日のように晩餐会だの式典だのご挨拶だのと、他の生徒のように遊び惚けていられるわけでは無い。
その全てに真面目に出てやる義理は無いが、どう足掻いても逃れられない物も幾つか存在する。
国内外の要人を招いた晩餐会。王族の端くれとして、夕焼けの草原に尽してくれた者を労い、もてなし、そして来る翌年にも縁を繋げるように尽くす七面倒な行事。
勿論最初は逃げようとした。だが昼過ぎに目を覚まし、誰にも見つからない場所に逃げようとする前に待ち構えていた義姉に捕まり、散々着せ替え人形にさせられた挙句チェカに纏わりつかれて会場まで引き摺られて来てしまった。
これが兄であれば力尽くで逃げる事も出来た。だが恐らく兄もそれをわかっていて自分の妻子を遣わせたのだろう。
レオナは義姉に逆らえない。彼女は何も知らなくとも、罪悪感がレオナを逆らえなくした。


煌びやかさには欠けるが、常よりも豪勢に飾り付けられた大広間。平民出身の事業家や芸術家など普段社交界とは程遠い人も多く招待されている為か、晩餐会とは名ばかりのカジュアルな立食パーティの形式だったのはレオナにとってありがたかった。きっちり席順まで決められ、閉会の時間まで椅子に縛り付けられるそれとは違い、隙を盗んで逃げだしやすい。
兄の仰々しい挨拶の言葉の後に乾杯、とグラスが掲げられるのを合図に晩餐会が始まると、広間が一気に浮ついた雑音の塊になり、ささくれ立つ心を宥めるようにグラスに口をつける。輝石の国産だという炭酸の効いた葡萄酒がいがらっぽい喉に染み渡る。声が出ない程では無いが、時折引っかかって掠れた声が出そうになるのであまり喋りたくない。そもそも、今は人の輪の中で陽気に笑っている男が明け方までレオナは離さなかった所為で酷い体調なのだ。正直な事を言えば今すぐこのまま地べたに座りたい。欲を言えば、自室のベッドで惰眠を貪りたい。
嫌われ者の王弟に媚びを売ろうとする者は多くないが、居ないわけでもない。その全てを適当に受け流しながらゆっくりと人の波を掻い潜り、少しずつ会場の扉へと向かう。まだ兄や義姉、甥は我先に話しかけようとする人に囲まれて動けないだろう。逃げだすならば早い方が良い。
入口に立つ警備の者に白い眼を向けられながらも何食わぬ顔で扉を通り抜け、廊下に一歩足を踏み出してしまえば三十分も居なかっただろうに窮屈さで詰まっていた呼吸が漸く自由になった気分で深く息を吐きだす。身体は重いが足取りは軽い。次第に遠ざかる喧噪を背中に、さて何処へ逃げようかと思案し、今まさに廊下の角を曲がろうとした時だった。
レオナ、と聞き覚えのある声に呼ばれて思わず足が止まる。この時に迷わずに走ってでも逃げていれば良かった。振り返れば今まさに扉を通り過ぎたファレナが、この茶番にも等しい宴の主催者が、怒ったような顔をして大股に近づいて来る所だった。
「あに、き……」
何故、と問う間も無く、腕を掴まれると廊下を曲がってすぐそこにある扉を開けて引きずり込まれる。恐らく晩餐会が始まるまでは待機室として利用されていたのだろう部屋、明かりの落とされた室内にも人のいた気配が残っていた。入ってすぐに、立ち止まり振り返った兄に閉じた扉に背を押し付けられた、と思った頃には分厚い唇が口を塞いでいた。
「んんんぅ、……っ」
押しのけようとした手も囚われ、体重をかけて圧し掛かられては身動ぎすらままならない。まるで扉に磔にでもされているかのような体勢でたっぷりと舌を絡めて、溶けあう唾液に混ざる仄かな葡萄酒の香り。逃れようと顔を反らしてもすぐに追いすがる唇が呼吸ごと奪い去ってゆく。酸欠に喘げばより深くまで舌を招き入れる事になり、ぞわぞわと余計な感覚まで尻尾の付け根から這い上がってきそうになるのをぎゅうと眉間に力を込めて抑えつける。
まるで外界から隔てる壁のように垂れ落ちる兄の髪に包まれながら、逃れても、応えても、執拗なまでに絡みつく舌に昨晩を想い出してしまいそうになる。
「ふは、ぁ……っは、……」
漸く解放されたと思う頃にはじっとりと肌が汗を帯び、足りなくなった酸素を補うべく荒くなる呼吸に胸を喘がせる事しか出来なかった。額が触れ合う程に間近にある二つの瞳に射られてしまうと、頭上に掲げられた両手が大きな掌で一つにまとめて縫い留められただけで思うように動けなくなってしまう。本気で抜け出そうとすれば敵わないわけはない筈なのに、力が入らない。
「何処へ行く気だった?」
「あにき、……」
「サボるなと、言った筈だが?」
お前こそ主催が客を放り出して何をしているのだと言い返してやりたい。だが実際には唇が音にならない重たい息を吐いただけだった。今更、恐怖を感じているわけでは無い。むしろどちらかと言えば諦念。この男に抗う事の無意味さを、レオナは誰よりも知っている。
「悪かった。……大人しく戻るから、」
言い訳を許さぬように一度唇が触れ、そして目の前で大きな口が弓なりに吊り上がる。
「悪い子には、お仕置きが必要だな?」
「……っ本当に、もう逃げない、から」
言い訳無用とばかりに再び唇が塞がれ、足の合間に差し入れられた膝がレオナの片足を掬いあげて固定する。いとも簡単にサッシュベルトが解かれて背中から滑り落ちた手が尻尾の付け根をするすると撫でてひくりと肌が震えた。
「んんぁ、……は、……ぅ……」
付け根の上を円を描くように指が滑り、とん、とん、とノックするかのように薄い皮膚の下の骨を叩くとその奥までがじんわりと熱を滲ませてしまう。その熱が膨らむ前に逃れたくて頭を振ると、今度はすぐに唇が離れる代わりに首筋に、そして鎖骨にと唇が吸い付き、甘く歯を立てられる。
「っっっ……兄貴、早く、戻らないと……」
「ああ、そうだな。誰かが探しに来てしまう前に戻らねば」
「だったら、……」
「良い子に、罰を受けてくれるな?」
ぬろ、とざらついた舌が鎖骨から顎の下まで這い、本能的に身が竦む。この後レオナは好きにして良いというのなら勝手にしろと思うが、この様子だと二度と逃げ出す事は出来ないだろう。誤魔化しが効かなくなる前に解放してもらわなければ連れ戻された後、きっとレオナが苦しい思いをする。
「わかった、……っわかった、から……早く……」
は、と籠る熱を吐きだす。心得たとばかりに尻尾の下へと滑り落ちた手が尻の合間を通り、明け方まで酷使された場所に浅く指先が埋まる。
「……ふふ、まだ柔らかいな……」
さも嬉しそうな呟きに唇を噛み締めて耐える。確かめるようにくぷくぷと浅い場所で縁を撫でていた指がゆっくりと中へと埋められてゆく。乾いた指が粘膜に引っかかって痛みすら感じるというのに、まだ昨夜の熱を忘れられないそこがじんわりと熱を持ち、隙間を埋めてくれる体温に絡みつこうとしているのが自分でもわかってしまっていたたまれない。
ゆっくりと感触を確かめるように中を探り、絡みつく粘膜を広げるように指が曲げられ、撫でられ、それから指がそうっと抜けて行く頃には咥えるものを失った場所がじくじくと疼いていた。ふ、ふ、と浅く息を吐きだしながらなんとか耐え、抜けた指の行く先を目で追うと片手で器用につけていたネックレスを外している所だった。
「これが何かわかるな?舐めなさい」
目の前に掲げられた兄のネックレス。小指の先程の大きさの、色とりどりの小石を丁寧に磨き上げた物を連ねた紐部分の先に、ひときわ大きな宝石がつけられた物。それは一見すれば普通の装飾品にしか過ぎないが、見る者が見れば兄専用の魔法石だとわかるだろう。大っぴらに王が自ら刃とも同義の魔法石を持ち歩く事は出来ないが万が一の為に、と護身用に常に服の下に隠してつけていることはレオナも知っている。だが、それを、何故。
唇に押し付けられた魔法石に不穏な物を感じながらも大人しく唇を開き、舌の上に乗せる。つるりとした表面は飴玉のような感触だがうっかり飲み込んでしまえば苦しい思いをする事は想像に難くない大きさ。命じられるままに殉じる姿を装い兄を伺い見るも、楽しそうに眼を細めて眺めているだけだった。ころり、ころり、意図がわからないまま舌で転がすと紐部分となる小石の所為で唇を閉じる事が出来ずに唾液が石に、顎にと伝い落ちて行く。肌を粟立たせるその感触を厭い、せめて少しでも垂れ落ちないようにと顎を上げようとすれば石を挟むように口の中へと指が二本差し込まれてぞろりと舌の脇を撫ぜる。
「ふぁ、……ッ、あ……ぁ」
硬質な石と指が交互に敏感な粘膜を撫ぜて力の抜けたような声が漏れた。いよいよ閉じられなくなった唇からはだらだらと唾液が溢れ、そうして顎に伝う物を兄が舐め取る。からり、くちゅり、ころり、ぬるり。連なる小石の先からも唾液が滴る程に散々口内を弄られた後に魔法石と共に指が引き抜かれて熱い溜息を零した。すっかりと力の抜けた身体は兄の片手と膝でなんとか体重を支えられるのがやっとで、支えを失ってしまえばすぐにでも崩れ落ちてしまいそうだった。強まる疼きに思考がぼんやりと霞掛かっている。ただ兄に身を委ねていれば朝が来るベッドとは違い、その後には人前に戻らなければならないのだから冷静さを取り戻さなければいけないと思うのに、すっかり躾けられてしまった身体は考える事を放棄してふわふわとした心地を漂っていた。
「良い子だな」
幼子にするように頬を、口の端を啄まれ、強請るように揺蕩う意識のままに唇を追いかける。笑うような吐息が濡れた唇を擽り、そうして褒美のように唇を食まれて瞼を伏せる、が。
「ぁ、……っ嫌、だ……兄貴……」
再び背中から潜り込んだ手がずるりと濡れた物を伴って尻の合間に触れる。綻びかけた入口にひたりと押し当てられた硬質な塊。漸く兄の意図を察して逃れようと藻掻くが、熱に蕩けた身体では碌に力が入らなかった。それどころかつぷりと小石が埋められるとぞくぞくと期待が背筋を駆け上がる。
「――ぁ、……」
「我慢しなさい」
反射的に唇を噛み、耐える。その間にもぷつりぷつりと入口をわざと引っ掛けるようにして小石が詰め込まれて行く。先に埋め込まれた石が後から押し込まれた石によって粘膜を不規則に擦りながら更に奥へと潜り込む度に小波のように快感が走り抜けて息が上がる。途中で確かめるように指を差し込まれてぐるりと掻き混ぜられると容赦なく小石があちこちを抉り、ひぅ、と歪な吐息が漏れる。
「お前には、罰にならないかもしれないな」
「ぁ、っあ、あ…ッあぅ」
指が引き抜かれてほっとするのも束の間、ひたりと押し当てられた比べ物にならない程に大きい塊。ぐ、と押し込まれみちみちと入口を広げられると、喜ぶように勝手に内臓が蠢きじゃりじゃりと小石を鳴らす。
「っっぁにき、駄目、だ……ッ無理……ッ」
このまま快感に酔いしれて兄を満足させれば終わるのであれば、それで良かった。だがきっとそうでは無いと漠然とした不安がある。確信と言っても良かった。
「なあ、……も、反省したから……っ」
やめてくれ、と告げようとした声はぐっと勢いよく残り全部を押し込まれて悲鳴に変わった。込み上げる快感に頭が真っ白になり言う事を聞かない身体ががくがくと跳ね、うねる。
「あっ、あ……っあああ……あ」
埋め込まれた石を食い締める粘膜に潜り込んだ指がごりごりと石を掻き混ぜて高みから下りて来られない。なんとか逃れたくて身を捩ると後頭部がごんと鈍い音を立てて扉にぶつかり、晒された首筋にすかさず兄が舌を這わせて流れ落ちる汗を舐め取る。
「あにき、あ、あ……っ、あにき……!」
じゃりじゃりと中で掻き混ぜられる小石の音が聞こえるようだった。痛いくらいに疼いた場所を容赦なく石が抉り、力を抜けば楽になるとわかっているのにどうすれば力が抜けるのかわからず、勝手に小石の一粒一粒までわかりそうな程に食い締めては終わらない快感にのたうつ。
「――………ッァ、」
視界が眩み、落ちる、と思う間際で不意に指が引き抜かれ、漸くすとんと力の抜き方を思い出し、弛緩する身体を兄に受け止められる。それでも、急に着地までは出来ない。泥濘のような快感の底で足掻き不規則に跳ねる身体を抱き締められたまま再び唇が重ねられる。
「んん、……っふ、……」
引き攣る呼吸を取り戻させるような、緩やかな口付け。吐き出すタイミングを教えるようにちゅ、ちゅ、と幾度も音を立てて啄まれてやっと地に足がついたような気がした。それと同時にすっかり力の入らなくなった足が今にも崩れ落ちそうになっていた。兄が支えてくれていなければすぐにへたり込んでいただろう。
「落ち着いたな?」
まだ呼吸は荒いし、頭が熱くてぼんやりとしていた。正直、このままベッドに縺れ込んで兄の熱を埋め込まれたい。だが見上げた兄の瞳にはほんのりと熱を孕みながらも凪いでいた。この場にあっても王の仮面を被ったままの、冷静な瞳。
「――……っは、」
ひやりと、冷たいもので胸の内を撫ぜられて思わず自嘲するような笑いが漏れた。兄はそれ以上何を言うでもなくレオナを扉にもたれ掛からせるとサッシュベルトを拾い上げ、身繕いをさせて巻き直す。
「……こんなんで、出れるわけないだろ……」
口の中が干からび、吐き捨てる声は掠れていた。
「罰だと言っただろう」
「っは、こんだけ煽っておいて、真面目な顔しろって?行った所でどいつもこいつもちんぽにしか見えねえよ」
「レオナ」
ぐ、と膝で踵が浮く程に尻を押し上げられて呻く。過ぎ去った筈の嵐はまだすぐそこに居る。連れていかれそうになるのをなんとか歯を食い縛って堪える。
「私は、構わない。お前が此処に私の首飾りを咥え込んで欲情しているから様子がおかしいのだと公表しても」
とん、とん、と軽く膝で蹴り上げられるだけで疼きが蘇る。
「……っふざけんな……」
「早く私に抱かれたいのに、待たされているから機嫌が悪いのだと皆に教えてやろう」
ぐりぐりと膝頭が押し付けられれば中までうねり、小石が音を立てる。
「……止めろ、」
「今日も明け方まで愛し合っていたと教えて、」
「もういいっ……!」
力任せに兄の肩を押しのければ思いの外すんなりと離れて行く。だがそれは同時に支えがなくなり自分の足で立たなければならないという事だ。ごり、と中を抉られてよろめいた足は再び兄の肩にしがみついてなんとか踏み止まる。
「ならば、行こうか。くれぐれも粗相の無いようにな」
差し出された右の掌。まるで、女性をエスコートするかのようなそれを反射的に払い退けた。
兄は楽しそうに笑うばかりで、覚束ない足取りで歩くレオナの腰を支えて誘導すると扉を開けて先にどうぞと促される。
「………ッくそ、」
腰の手も払い退け、一歩一歩、慎重に歩く。下手に力を抜けば落ちてしまう、だが余り力を入れると要らない物を連れて来てしまう。
「戻る前に、一度化粧を直すと良い。私が何も言わなくとも皆に知られてしまう顔をしている」
誰のせいだと毒吐いてやりたいが、下手に唇を開けば変な声を上げてしまいそうで、唇を噛み締めるしかない。
「お前に紹介したい人がたくさんいるんだ。頑張ってくれよ」
再び支えるように背中に当てられた手を、もう一度払い退ける気力はもうレオナになかった。

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