※現パロ
泊り慣れたレオナのアパルトメント、普段なら二人で一緒に風呂に入り、ベッドに潜り込んだならばその後は思う存分熱を分け合うのだが、明日は二人で初めて行く夢の国。開園までにたどり着く為に早起きをするし、園内ではたくさん歩くのだから、存分に満喫する為にも今日は体力温存の為に「しない」と約束した筈だった。
だが、普段よりも随分と早い時間だな、とか。
背中をぴったりと包み込むレオナの体温が温かいな、とか。
寝間着替わりのTシャツの下に潜り込んだレオナの手がジャミルの腹をのんびりと撫でるのが気持ち良いな、とか。
そんな事を考えながらベッドに並んで横になるも、明日を楽しみにし過ぎて浮足立つ心は中々睡魔を連れて来てくれず、同じように手持無沙汰を持て余すかのようなレオナの指先が唇をなぞるのに、つい吸い寄せられるようにして赤子のようにちゅうと吸い付く。一瞬ぴくりと震えた指先が、ゆっくりと唇を割り開くようにして潜り込み、舌の腹をそっと撫ぜられると身体の奥の方がきゅうと暖かくなって、思わず喉が鳴る。
「ん、……んん……」
戯れに逃れようとすれば、飴玉のようにレオナの指が口内で転がる。逃げて、追いかけて、また逃げて、押さえ付けるように舌の奥の方を撫でられるととろとろとした熱が血の巡りと共に全身に広がってゆく。腹を撫でていた筈の掌がいつの間にか胸元へと移動し、くすぐるような繊細さで先を捏ねていた。下心にしては優しく、無視するには甘い。たった指先一本、それが皮膚の薄い部分をそうっとなぞり、意識がそちらへと向いた頃にかりかりと先を引っ掻かれると自然と膝を摺り寄せてしまい、間に挟み込んだレオナの足の存在を思い知る。
本格的にその気にさせられる前には止めさせなければと思う物の、燃え上がるには程遠い、穏やかな気持ち良さにもっと浸って居たくなってしまって、つい、ねだるように口の中をゆったりと掻き混ぜる指に舌を這わせてしゃぶりつく。
「ふ、……は、……」
応えるようにもう一本口の中に指が増え、骨ばった関節が上顎を擦るだけで思考がふわふわとしてくる。口内の柔らかな粘膜を探られて唾液が溢れて止まらないのに、口を閉じられないように開かれた二本の指先が飲み込む事すら許してくれない。
「ぁ、あ、……ッ」
ぴん、と胸の先を指で弾かれてぞくぞくと熱が込み上げる。尻に当たっているレオナの物が熱く硬さを帯びている。ましてやそれを擦り付けるように揺すられると、その熱を受け入れて気持ち良くなることを覚えてしまった場所がじくじくと疼く。
「やぁ……らへ……」
「ん?」
「ひょふあ、らえあっえ……」
「何言ってんのかわかんねぇな」
言葉は穏やかに優しいのに、耳に触れる息が熱い。笑う吐息ですら脳にまで響くような、濡れた低音。止めようと、レオナの手に触れるも、そのタイミングでぎゅうとすっかり充血した胸の先を強く引っ張られてぴんと背筋が強張る。
「っふぁ、……、あ、あふ…」
捏ねたり、弾いたり、引っ掻いたりと忙しない指先に簡単に煽られて熱が籠る。止めさせなければと思うのに、もっと気持ち良さに浸っていたいと思う気持ちが巧く拒ませてくれない。もうすっかりジャミルの唾液でべたべたになったレオナの手がいとも簡単にジャミルの下顎を三本の指で掴み、深く差し込まれた骨ばった二本の指の関節が上顎をごりごりと擦り上げるだけで何も考えられなくなってしまう。時折痛いくらいに胸を引っ張られ、じんじんとした熱が生まれては小波のように肌を伝っていく。尻の合間に埋めるように擦り付けられるレオナの物がどんどん硬さを帯びているのがいやでも伝わり、釣られるようにどくどくと心臓が脈打っていた。
なあ、とすっかり主導権を握っている癖にレオナが強請るような甘い声を耳元に落とす。わかっている癖に敢えて訪ねて来る意地の悪さ。すぐに陥落させられてしまうのは癪で、口内を好き勝手に荒す指に柔らかく歯を立てる。
ふ、と笑う吐息が耳に落ちた。
「っぁ、あ……っあ、やぁ……っあ、やえ……っ」
中からも外からも下顎をがっしりと掴まれたかと思うと、唾液をたっぷりと纏った舌がジャミルの耳孔を犯す。小さな穴にねじ込むように舌先が潜り、凹凸をなぞるように舌先が蠢いてじゅるじゅると音を立てて啜られるだけでまるで頭の中を犯されているような錯覚に襲われる。逃げたくても顎を掴んだ手はしっかりとジャミルの頭を固定していてぴくりとも動けない。止めようとしていた指先はいつしかレオナの手に縋りつくことしか出来なかった。ぞわぞわと肌が粟立ち、勝手にひく、ひく、と跳ねる身体を制御出来ない。
「ヤりてぇ」
熱の籠った吐息が濡れた肌を擽り、耳の付け根にちくりとした痛みが走る程に吸い付かれる。それだけでも脳が蕩ける程に気持ちが良かった。ずるりと指が唇から抜け漸く口を解放されたというのに、もう拒否する言葉を紡ぐ事は出来なくなっていた。体制を変え早くもジャミルに圧し掛かろうとするレオナの首に腕を回し、自ら引き寄せる。
濡れたエメラルドが弓なりに撓り、そして何も言わずとも望んだ通りに唇が重ねられる。熱い舌を絡ませながら性急に下着を脱がそうとする手に合わせて身を捩り手伝い、下着が抜き去られたその足で合間に陣取ったレオナの腰に絡みつく。
ひと眠りすればなんとかなるだろうとか、歩くだけなら大した事無いだろうとか、一回だけなら大丈夫だろうとか、頭の中で必死に言い訳する。
明日の事は、きっと明日の自分がどうにかすると信じて、ジャミルの意識は熱に溶けて行った。
目的地の開園時間は八時。家から現地までは一時間程度。
多少の余裕を持って一時間半前に家を出るとすると出発時間は六時半。
寝起きは二人ともあまり良くない。それでも普段ならば人の世話を焼く事に慣れたジャミルが目覚ましを頼りになんとか起き、ついでにレオナを起こして世話を焼いてくれたのだろうが、流石に寝ないと不味いと気付いて慌てて眠りについたのが起床予定時間の三時間前。しかも、つい調子に乗って散々抱き潰してしまった後。
予定よりも15分程遅れてなんとか起きたレオナがジャミルを叩き起こし、散々泣いてむくみが取れない顔で「眠い腰が痛い動きたくない」と駄々を捏ねるのを宥めすかし、どうにか外に出れる状態にまで持って行くのに更に15分。
とろとろと覇気のない足取りでレオナの後を大人しくついてくる姿に無茶をさせたとは思うが、普段のいかにも真面目な優等生然とした澄まし顔と違い、レオナへの甘えを全開にして素直に駄々を捏ねる姿につい口元が緩んでしまう。
アパルトメントの地下駐車場、ラギー曰く「いかにもボンボンが親に買ってもらった車」と称する、事実その通り親に買ってもらった車のキーを開けて運転席に座ろうとすると、ジャミルがむすくれた顔で助手席の扉へと手をかけていた。
「後ろで寝ててもいいが」
「結構です」
いかにも不機嫌ですと言わんばかりの声と、敬語。思わず笑ってしまうのも仕方が無い事だと思う。
それ以上言葉をかけるのを諦めて後部座席に荷物を放り込み、ジャミルも大人しく助手席に収まったのを確認してからアクセルを踏む。まだ早朝と言うべき時間の浅い色の青空でも寝不足の目には少々眩しい。さっそく窓にもたれてうとうととしているジャミルを横目に、レオナもくあと欠伸を一つ零した。今日は良く晴れそうだ。
30分程で目を覚ましたジャミルは先程までよりは随分とすっきりした顔をしていた。本来はもっと近所で寄る筈だったコンビニに立ち寄り朝食を調達する。ひと眠りして体調がマシになった分、地を這っていた機嫌も直ってきたようで再び車に乗って走り出す頃には鼻歌なぞ歌いながらレオナの買ったサンドイッチの包装をぺりぺりと剥いていた。
はい、と唇に取り出したサンドイッチが当てられたのにかぶりついて一気に半分程口に入れる。片手で食べながら運転が出来ない訳でも無いが、ジャミルに世話を焼かれるのは嫌いじゃない。残った半分をジャミルが小さく何口か齧り、そしてレオナが飲み込んだタイミングでまた口元に運ばれたサンドイッチを残り全部口の中に入れる。
「水飲みます?」
「まだいい」
その代わりに寄越せとばかりに口を開けてやればジャミルが楽し気に笑いながら新しいサンドイッチをレオナの口元に運ぶ。もうすっかり上機嫌のようで何よりだと笑いながら再び齧り付く。
甲斐甲斐しく世話を焼かれながら車は目的地に近づきつつあった。食事を終えると目に見えて落ち着かなくなってきたジャミルがスマホを弄り始める。横目に見れば、何やら公式サイトで食べ物やアクセサリーを物色しているようだった。
「これ食べたい」
「場所調べとけ」
「あとこれも」
「好きなだけ食え」
「レオナこれつけて」
「はあ?女物だろそれ」
「可愛いだろ」
「俺が可愛くなってどうする」
「自信無いのか?」
「ふざけんな世界一可愛くなるに決まってんだろ」
「じゃあ世界中に見せびらかさないと」
せっせと画面を開いては見せて来るジャミルと軽口を叩いて笑う。目的地はもう目の前だった。
広い駐車場に車を止め、今日の為に用意した服に着替える。ど派手な蛍光色を下地にキャラクターが印刷されたTシャツ、キャラクターの耳を模したアクセサリー、前に行った時に買ったものを取って置いたというポップコーンを入れる為のバケツ、ここ以外ではつけられないようなキャラクターの形の浮かれたサングラス、諸々。
やるなら徹底的にと臨んだが、実際着てみると余りにも浮かれていて、お互いを指差してげらげら笑いながら入口へと向かう。何処から集まって来るのか、既にそこは開園を待つ人でごった返していた。よくある私服姿の者も多いが、二人以上に気合いの入った格好をしている人も多い。人ごみに紛れる頃にはすっかり自分たちの恰好など気にならなくなってしまっていた。
開園を待つ間にパンフレットを開いて、まず最初に目指すアトラクションを確認する。その後に回るルート、食べ物の場所、欲しいグッズの場所、パレードの時間、場所、どのあたりで見るかの計画。相談しているだけであっという間に時間は過ぎて開園時間。
ゲートを潜り、見える光景に浮足立つのは小さい頃、親に連れて来てもらった頃から変わらない。気付かぬうちに、足が速くなる。ちらほらと駆け出すグループが視界端に映る。横目にジャミルを見れば丁度視線がかち合った。幼馴染の男の前では何でも出来る優等生の姿であろうとしているジャミルが、隠し切れない興奮に目を輝かせていた。だがきっとレオナも似たような顔をしているのだろう。
言葉は無かったが、走り出したのは同時だった。睡眠不足だったというのが嘘のように身体が軽い。むしろ睡眠が足りていないからハイになっているのかもしれない。並んで駆けるうちに次第に笑いが込み上げて来て、わけもなく二人で笑いながら競うように走った。
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