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空箱

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8

ベッドの上で怠惰に寝転ぶレオナの足の合間に陣取り、緩い熱を蓄えたまだ柔らかな塊に丹念に口付けを落として舌を這わせる。たっぷりと唾液を擦り付けるように大きく出した舌でなるべく下品に、水音を立てるようにしてやれば持ち主とは違って素直なそこがむくむくと膨らんで硬さを帯びるのが楽しい。
「お前、それ好きだよな」
「ほふぇ?」
のんびりとジャミルの頭を撫でていた手が耳の裏をそろりと撫でる擽ったいともむず痒いとも言い難い感覚に息を震わせ、ちゅうと先端に吸い付いてから唇を離す。
「舐めるの。それともそう躾られてるのか?」
レオナの眉がぴくりと寄せられ、手の中で熱が震える。その反応に満足しながら少し考えてみるも、よくわからなかった。
「そうかもしれない」
「難儀なこった」
「でも、言われてみれば確かに命じられてもいないのに、自然と咥えていたな」
普段、レオナから舐めろと言われた事は殆ど無い。そうしなければいけない決まりも無い。今までこれを好きとも嫌いとも考えた事は無かったが、自発的に舐めたいと思ったのだから好きといっても間違いでは無いのだろう。
「クソビッチじゃねえか」
笑う声に色が滲んで来ているが、続きをよりも会話を楽しんでいるようだったので硬さを帯び始めたそこを掌で緩やかにと撫で擦る。分厚い皮膚の内側でぽってりとした熱が育っている。これが、後でジャミルにも快感を与えてくれるのだと思えば、期待で自然と吐息が濡れる。
「レオナ先輩だって舐められるの好きでしょう?」
これ見よがしに大きく出した舌で裏筋をべったりと舐めあげてやれば耳を撫でていた指が止まり、息を詰める音。
「っ……まあまあだな」
「誰と比べてるんです?」
「……」
余りにもわかりやすくしかめっ面をするものだから思わず笑いが漏れる。お詫びの代わりに先端のつるりとした皮膚を舌先で擽り溢れた唾液を啜ると、綺麗に割れた腹筋が目の前で深い溝を刻んでいた。
「っ、てめぇこそ……誰に教わったんだよ」
「知りたいです?クソビッチの男遍歴」
「暇潰しくらいにはなるだろ」
「一晩じゃ語り尽くせませんけどね」
「ほんとにクソビッチじゃねえか」
手の中で育てられた熱はすっかり硬さを帯びている。っは、と笑う吐息にも似た熱が吐き出されるのを心地よく聞きながら、合間に幾度もキスの雨を降らせてやった。
「でもまあ……先輩の舐めるのは好きですよ」
「クソビッチのお眼鏡に敵うちんこだったか?」
「そうですね、自ら舐めてやりたいと思うくらいには」
「光栄だな」
ジャミルの人種とは少し違う形のそれ。硬さもジャミルが知るモノよりも硬くなりきらず、その代わりにむっちりとした熱の塊が柔らかく中を押し広げる時の事をふと想像してしまって知らず膝を摺り寄せた。早く息苦しいくらいの重量感に喉奥まで埋め尽くされたくて、溢れる唾液で口の中がじくじくしている。
「……本当に、好きでやってるんだな?」
不意に落ちる静かな声に、思わず見上げれば検分するような細められた双眸とかち合う。
この期に及んで、今更そんな事を聞くレオナに思わず笑ってしまう。傍若無人のエゴイストに見えてこれだからこの男は。
「――先輩のそういうところも好きですよ」
「……もう黙って咥えとけ」
本人なりに失言であったと照れているらしい。込み上げる笑いを隠し切れないまま後頭部を無造作に掴まれて押し付けられるそれを頬張った。


レオナの温もりに包まれながら、行為後の倦怠感を大事に抱き締めるように身体を丸める。身体はすっきりした筈なのになんとなく離れがたいこの時間が、ジャミルは嫌いではない。
「先輩の初めての男って、誰でした?」
黙っていたら間が持たないという訳でも無いが、こういう時はどうでも良い話がしたくなる。ふと唇を突いて出た問いだって、本当にただの思い付きだ。それなりにデリカシーに欠けた酷い問いだという事には口にしてから気付いたが、すぐにレオナ相手だからまあいいか、とどうでもよくなる。
「……物好きが何人も居てたまるかよ」
レオナの胸元に額を預けて懐いているから顔は見えないが、とても顰め面をしているであろう事は容易につく声。
「じゃあ、今までずっと……」
「お前はどうなんだよ」
思い浮かべた名前を唇に乗せる前に遮るようにして問われ、ゆるりと笑いつつも首を傾ける。
「……あまり覚えてませんね。名前も知らない相手だったので」
「はあ?」
「俺には物好きが何人もいたんですよ」
「なるほど。これ以上無いくらいわかりやすい」
レオナが何を察して何を思ったのかはわからないが、そっと抱き寄せられてぴったりと余韻を残した肌が密着し、体温が蕩ける。足を絡ませながらまだ湿った胸元に顔を押し付けて、汗と精の香りが残るレオナの匂いを胸いっぱいに吸い込むとジャミルまでもがレオナの一部になったかのような錯覚に陥る。
「……俺も、その物好きの一人か」
ぽつりと落ちる独り言めいたレオナの声に応える言葉を、ジャミルはまだ持ち合わせていない。
聞こえなかった振りをして、ただぎゅうと広い背中を抱き締めた。

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