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空箱

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7

することをして、シャワーを浴びて、またベッドの上。
夜ともなれば涼しい風が通り抜けるサバナクロー寮では、レオナの身体の上にぺったりと俯せでくっついたジャミルの体温がちょうど良い暖かさだった。レオナの胸に耳を押し当てて心音を聞いている頭をのんびりと撫でながら、穏やかな時間の流れを噛み締める。
「……先輩、将来の夢、ありますか」
唐突な問いに首を捻る。
恐らくは、本気で将来の夢が聞きたいわけじゃない。レオナがそんなものを持ち合わせていない事なぞ百も承知の筈だ。
「……ツラと身体は良いけど中身最悪な男と二人で海辺の小さな家で静かに暮らす事だな」
「趣味悪……」
「照れるなよ」
「俺は中身も最高な男なので心当たりありませんね」
「何処がだよ」
くつくつとレオナの上の身体が笑いに揺れる。恐らくは、正しい回答が出来たのだろう。思いついた言葉を適当に並べただけの荒唐無稽な夢物語。以前ならそんな紛い物を語る事なぞあり得なかった筈なのに、ジャミルが部屋に訪れるようになってからつい誘われるままに空想する事が多くなってしまった。あまり良い趣味では無いとは思うが、そうでもしなければジャミルとの間には何も生まれない。そうまでして繋ぎ止めて置きたいと思う程度には、愛着があるつもりだった。
「じゃあお前の夢は何なんだよ」
「……顔と身体しか取り柄の無い男と何処か人気の無い……森の中の家とかで慎まやかに生きる事ですかね」
「真似すんなよ両想いじゃねえか」
「そうですね式はいつ挙げますか」
「明日でいいだろ」
「適当だな」
「仰々しくやって欲しいのか?やるぞ?国から正式にお前を嫁入りさせたまへ候って手紙出させるぞ?」
「勘弁してください」
「じゃあ明日な」
「……本当にするんです?」
「お前がいつやるかって聞いたんだろ」
「プロポーズされてませんけど」
「……俺がするのか?」
「したければ、どうぞ」
「遠慮する」
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ」
「お前が恥ずかしがるだろ」
「臆病物」
所詮は戯言。わかっていてもその言葉には少々頭に来た。ジャミルの身体を抱え込むようにして体勢を入れ替え、至近距離から見下ろす。すっかりレオナの影に覆い隠されてなお揶揄するような笑みを浮かべるジャミルと視線を重ねて目を細め、牙を見せつけるように口角を釣り上げて笑う。
「てめぇは、俺のモンだろ」
「は、……」
それなりに気合を入れて低音を浴びせてやったつもりではあったが、想定以上に効果はあったようだ。はく、と言葉を失った唇が動き、そして逃れたいのに逃れられないとでもいうように揺れる瞳がレオナを見上げていた。わかりやすく言葉に詰まった顔。常の澄ました顔よりも随分と幼く見えて気分が良い。少しでも気を緩めればすぐさま尻尾撒いて逃げてしまいそうな獲物の両手を握りシーツに縫い留め、額を合わせて覗き込む。
「返事は?」
「……異議は、無いです……」
「なんだそりゃ」
それでもまだ抵抗しようとしているのか、不思議な答えが返って来て思わず吹き出す。
「……凄く悔しいし先輩の顔に苛々する……!!」
「んな真っ赤になりながら言われてもな」
「うるせえです」
抗議のようにじたばたと抑えつけた身体が暴れるが可愛い物だ。本人とてただ駄々を捏ねているだけで本気で抜け出そうとしている訳では無い。すべては茶番、朝になれば消える。
悔し気に眉を寄せて、うー、だか、あー、だか唸り声を上げる唇を唇で塞いでやれば、まるで待ち構えていたかのように舌が差し出されて逆に強請られる。なんだかんだとジャミルもこの茶番を楽しんでいるのだろう。素直な唇に免じて求められるがままに舌を絡ませ、存分に温もりを分け与える。性欲を煽る訳でも、欲のままに貪る訳でもない、穏やかに幾度も水音を立てながら呼吸を重ねていく心地良さを知ったのも、そういえばジャミルからだったなとふと思う。
「ふ、は……」
合間に密やかに漏れる喘ぎが空気を揺らす。抑えつけていた筈の指先が握り返されてじんわりと熱い。まるで一塊の別の生き物にでもなったかのように境界線が曖昧になっていた。
「ん、……レオナ先輩」
「あ?」
「左手、貸してください」
とろりと眼を瞬かせたジャミルに強請られ素直に左手を渡すと、そのまま手の甲が唇の辺りに寄せられ、そうしてちゅうと強く指の付け根に吸い付かれる。一度、二度、巧く行かないのか何度かレオナの手を見て様子を確かめながら吸い付いてはちくりとした痛みを齎す。何がしたいのかわからずにただ好きなようにさせていたが、数回吸い付かれて漸く満足気に解放される左手を見れば、薬指の付け根に随分と大きな痣が出来ていた。キスマークと呼ぶには随分と色気のない鬱血に首を捻る。
「婚約指輪の代わりに」
「ロマンチックなんだか物騒なんだかわからんな」
「俺の愛の結晶なんだからもうちょっと感動してくださいよ」
「ただの打撲痕にしか見えねえ」
「愛が足りないんじゃないです?」
愛、の余りにも白々しい響きに思わず二人で笑う。だが贈られたのならば返さなければならない。男として、王家に連なる者として、愛には愛を返すべきだろう。確かに受け取った証として、これみよがしにジャミルの目の前で婚約指輪とやらに口付ける。
「俺の所じゃあ、指輪を贈るような習慣は無ぇんだが」
それから、ジャミルの目尻に唇を押し付け、頬、顎、そして首筋へと滑らせる。清潔な水の匂いとジャミルの匂いが織り交じった香り。後で煩いだろうから痕は残さない程度に、けれど肌を余す事無く味わうように唇を、指を、舌を這わせて行く。
「その代わり、娶った女には違う贈り物をする。なんだと思う?」
唇は鎖骨を食んだ後に胸元に吸い付きながら指先は腰骨から足の付け根、その合間を通りつい先程まで散々味わった場所へとたどり着く。まだ柔らかいそこに指を一本埋めても簡単に飲み込んでゆるりと絡みつく粘膜。さすがに危機感を覚えたジャミルが、先輩、と咎めるような声と共に腕に触れるがもう遅い。
「俺の国ではな、娶った女には子供を作ってやらなきゃいけないんだ。意味は、わかるな?」
「う、っそだろ……もう今日は無理……!」
「せっかくお前に良いモン貰ったんだ、俺からの礼も受け取れよ」
「ゃっ……あ、っ無理だってば!」
「俺の愛が受け取れねえって言うのか?」
自分から悪ふざけを始めた手前、何も言えなくなったジャミルに勝利を確信して頬が緩む。すっかりと夜風に冷えたようでいて、蕩けたままの内側は未だに熱い。少し腫れぼったくも感じる粘膜に更に一本、二本と指を押し込んでやればずぶずぶと泥濘のように受け入れてきゅうきゅうと締め付けて離さない。
「ちゃんと、孕むまで愛してやるからな」
「………ッくそ、」
小さく毒吐くのすら心地良く、込み上げる笑いで肩を揺らしながら再び唇にかぶりつく。今度は先程までの微温湯のような優しさでは無く、欲のままに貪る勢いで口内を荒してやれば、動きを止めるべく腕を掴んでいた指先が首の裏へと回されて引き寄せられるままに体重をかけて圧し掛かる。
まだ、朝が来るまでは時間があった。

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