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空箱

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過去の話

物心ついた頃から、カリムのすぐ傍にはいつでも死があった。怨恨、嫡男の座、有利な取引の為の材料、数え上げればキリがないほどたくさんの理由でカリムの命は狙われる。
死にたくない、と思う。だがその一方で、カリムが死なない為にたくさんの人が苦労し時には命を落とす事を、カリムは知っていた。 
ジャミルと出会ったのは五歳の頃だった。父の右腕でもあるジャミルの父親に連れられてやってきた同い年の子。可愛い顔をしているのに、緊張のあまり引き攣って歪んだ笑顔を必死に浮かべていたのを覚えている。今のジャミルからは考えもつかない。カリムが遊びに誘っても、贈り物をしようとしても、不安げに揺れた瞳はいつだってジャミルの父からの是非が無いと何も応えてくれず、彼の心に触れる事は出来なかった。 
それが変わったのは数年後に正式にジャミルがカリムの従者になってからだ。常にカリムに付き従い時には盾にも剣にもなる、カリムの為だけに生きる生き物。その為の訓練をたくさんしてきたと言っていた。同い年のジャミルが、カリムが遊んでいる間にもその為の努力をたくさんしてきたのだと言っていた。その努力に見合う価値が、カリムにあるのだろうかと幼いながらに思った覚えがある。 
従者となればカリムとジャミルは毎日何処へ行くにも何をするにも一緒だったし、二人きりになる時間もたくさんあった。一月もすればすっかり慣れ、ふとした瞬間にジャミルが微笑んだ時の心の高鳴りは今でも忘れられない。使命を全うすべく神経を尖らせた顔でも、張り付いたような笑顔でも無い自然な表情。いつもは吊り上がっていた眉がへにゃりと垂れ下がり、零れたのは控え目な笑い声。思わずジャミルをぎゅっと抱き締め「大きくなったらおよめさんになってくれ!」とプロポーズした。絶対に誰にも取られたくないと思った。ジャミルは従者だから、大人は反対するかもしれない、それでも絶対に結婚するんだと、そのためだったらなんでもやってやるんだと意気込むカリムだったが、「私は男です」と恥ずかし気に、だがばっさりと断られたのも良い思い出だ。 


その、ジャミルが。最近では「せめて二人きりの時は友人のように接してくれ」というおねだりにようやく応えてくれるようになったジャミルが。自身を「俺」と称するのになんとも言えない顔になってしまったカリムに楽し気に笑うようになったジャミルが。中身は案外意地悪で、優しくて、楽しい事が好きで、カリムと同じ子供なんだと、漸く心に触れさせてもらえるようになったジャミルが。 
大勢の大人の男に囲まれて、服を引き裂くように剥がれ、いつも綺麗に整えられた髪もぐしゃぐしゃに乱され、拘束する縄を解かれた代わりに細い手足を大人の手で押さえ付けられて犯されていた。上がる悲鳴は涙に濡れて言葉にならず、ただ痛みに耐え切れず音が出ているだけで、肉を打ち付けるような音と共に絶え間なく響く。男たちの背に隠れて詳細には見えない、けれど合間から力なく揺れる足と男達の下卑た笑い声がジャミルの身に起きていることをまざまざと伝えていた。 
カリムが誘拐されるのは、慣れていた。今日だって「またか」と思っただけだ。縛られ、埃っぽい暗い部屋の隅に転がされ、ただ時間が過ぎて助けが来るのを待つ、あの退屈な時間。暗殺に来たのならばまだしも、誘拐されたという事はよほど犯人たちが追い詰められない限りはカリムに手を出す事は無い。殴られたり蹴られたり、時には瀕死の状態になるまで刺されたりと痛みを与えられる事も無い訳では無いが、交渉が上手くいかない時に人質に八つ当たりするのは多分、さほどおかしな事では無いのだろうと思う。カリムが何か抗おうとしたところで、複数の大人相手に幼い子供が一人で何か出来るわけもない。死にたいわけではないが、死にたくないわけでもない。此処で死ぬのならばそれがカリムの運命だったというだけの事だ。 
だがジャミルは違った。あくまでカリムの付属物でしか無く、犯人たちが求める巨額の富の対価にはならない。誰かが「女の方は殺してもいいんだろ?」と言い出したのが最初。ジャミルが女では無い事がわかれば諦めてそのまま何事もなく終わるのだろうと思っていたカリムを他所に、軽々と広い場所へと引き摺り、止める処か笑いながらジャミルを暴いていった。反射的に抵抗しようとするジャミルの頬が何度も大きな掌で叩かれ、ぐったりと動きが鈍くなった所で何かを尻に塗り込め、カリムの腕程もありそうな大きく膨れた性器を押し込んだ。人の声とは思えないような悲鳴が上がり、逃れようと闇雲に逃れようとする身体を別の誰かがが抑えつけて口を大きな掌で塞いだ。一人、二人とジャミルに集る男が増え、ジャミルの姿は男達の向こうに隠されてしまった。 
カリムはそれをただ見ている事しか出来なかった。腕は後ろ手で縛られ、今カリムが何かしようとしても役に立たない事もわかっている。だが目の前でジャミルが傷ついているのに何もしてやれない事が歯痒く、苦しかった。 
足元に陣取り小さな身体を揺さぶる男が四人目にもなる頃にはジャミルは時々呻き声のような物を上げるだけで反応すらも鈍くなっていた。男たちに揺さぶられるまま弛緩した手足が揺れ、垣間見える顔は青白く表情を失ってただ濡れた瞳が虚空を映していた。まるで人形のように男達に操られるがまま体制を変え揺さぶられ、ぐちゅぬちゅと粘着質な水音が耳にこびりつく。身を起こされ、唇に腫れあがった汚らしい性器を押し付けられ押し込まれても時折咳き込むだけでされるがままだった。 容赦なく口の中に吐き出された白濁した物がどろりと口の端から溢れて垂れ落ちる様にどうしようも無く落ち着かない気分になる。可哀想に、今すぐ助けてあげたい、出来る事なら変わってやりたいと思う気持ちがある筈なのに、それと同じくらいにもっと見て居たいという声が心の奥底から聞こえる。痛々しくて見て居られないのに、目が離せない。


ジャミルがどれくらい長い時間、男達の玩具にされていたのかはわからない。解放され、カリムの横へと放られたジャミルは息をしているのか確認したくなるほど生気を失い、ぐったりとしていた。至る所に白くどろりとした液体がへばりつき、所々血が滲んで居たり鬱血している。足の間のその奥、真っ赤な鮮血と白濁が閉じ切れなくなった場所からどろどろと絶え間なく溢れていた。ただ茫洋とした瞳が余りにも無機物のようで、恐ろしくなって声を掛ける。 
「ジャミル……」 
応えは無い。だが、ひゅ、と息を吸う音がした。 
「ジャミル……なあ、ジャミル……」 
もう一度呼びかける。機械的に瞬くだけだった眼がとろりと周囲を彷徨ってから、ゆっくりとカリムを捉えた。爪先から、頭のてっぺんまで、時間をかけて視線を彷徨わせた後にふわりと、まるで花が綻ぶかのような笑みを乗せてジャミルが息を吐く。 
「……無事で、良かった……」 
かさつきながらも心の底から安堵したようなその声を聴いたにゾクゾクと痺れるような物が全身を駆け上がった。身体が、熱い。心臓が今にも爆発してしまいそうな程に脈打ち、下肢に熱が集まるのを感じた。今すぐジャミルを抱き締めたいのに、縛られたままのカリムではそれも出来ない。そのまま眠りに落ちてしまったジャミルを前にカリムは身を丸めてその熱に耐えるしか無かった。 


その後、いつも通りに二人は無事救助された。ジャミルはすぐさま家の抱える医師、魔法士、薬剤士、父の権力総動員で人を呼び集め治療にあたる事となり、それから一カ月も面会謝絶とされた。
漸く会えるようになり、ジャミルもすっかり元気になったように見えたがその後も療養生活は終わらず、更にはカリムだけは何故か面会時間は二日に一度、30分だけと時間を細かく定められ、常に複数の大人が一緒にいて二人きりにもなれず、今までのように遊ぶ事も出来なかった。 
ジャミルの何処が悪いのか、何故まだ療養しなければならないのかを大人たちに聞いても誰も言葉を濁すばかりで教えてくれない。すっかりジャミルと共に在る事が当たり前になってしまったカリムにはジャミルの居ない生活に我慢出来なくなるまでそれほど時間がかからなかった。会わせてもらえないなら、こっそり会いに行けばいい。ジャミルがカリムを拒むとは思えない。大人たちの「大人の考え」という物で理不尽に会わせてもらえないだけなのだと思っていた。 


深夜、眠い目を擦りながらそっと部屋を抜け出す。きっとジャミルも寝ている頃だろうが、どうしても直接会いたかった。会って、ただ寝顔を眺めるだけでもいい。そう思いながら辿り着いたジャミルの病室の扉を起こさぬようにそっと開けると、中からは人の声がした。医師が様子を見ているのかもしれないと緊張しながら隙間から中の様子を伺う。だがそこには想像していた医師の姿は無く、代わりにカリムの父が居た。裸の父が、裸のジャミルを組んだ腿の上に抱えて抱き締めてキスをしていた。それを嫌がる所か求めるようにジャミルの腕は父の首に巻き付き、自ら唇を押し付けているようだった。時折密やかに会話を交わしては笑う気配。内容までは聞こえないが、少なくともお互い合意の上での行為のようだった。 
「ッッんぁ、……っあ、」 
不意に父がジャミルの腰を掴んで持ち上げるとずるりと尻の合間から太く反り返った性器が覗き、手を離せばそれはまた抵抗なくジャミルの尻の奥へと飲み込まれて行く。 
「あ……はぁ……ぁ」 
仄かに空気を震わせるジャミルの声が、甘い。訳もなく身体が熱くなる。あの時ジャミルを散々痛めつけた物が今もまたジャミルを犯しているというのに拒絶する所かさも気持ちよさそうに鳴いていた。それどころか父の首にしがみついたまま自らゆるゆると腰を上下に揺らしてはひっきりなしに甘い声を上げていた。父の掌が優しくジャミルの髪を撫で、引き寄せられるままにまた重ねられる唇。 
何度も体勢を変え、キスを交わし、揺さぶられる度に猫のような声でジャミルが鳴く。これ以上見てはいけないものだとわかっているのに張り付いたように眼が離せない。股間がずきずきと痛かったし、口の中がからからに乾いていた。飲み込んだ生唾がごくりと過剰な音を立てる。 
無意識に前へと踏み出した爪先が、扉を蹴り、突然ぱたりと視界が遮られて我に返る。扉が閉まる音は中の二人にも聞こえただろう、慌てて走ってその場から逃げ出す。逃げだす事しか出来なかった。 


次の面会の日、ジャミルはいつもと何も変わらなかった。父との情事を見られたとも知らず、見た目だけならば元気そうに見えるジャミルだった。父との事を聞きたいという欲はあったが、聞いては行けないこともわかっていた。喉元まで出かかった言葉をなんとか飲み込み、カリムもいつも通りを装ってジャミルと接する。だがその心の内は以前までとはすっかり変わってしまっていた。 
初恋だった。一瞬で振られてしまったがあれは確かに恋だった。 
酷い目に会わせたく無いと思った。だがそれと同じくらい、あの日、大勢の大人に囲まれて傷つけられるジャミルが忘れられず夢に見ては夢精した。 
父の代わりにジャミルに甘えられたいと思った。抱き締めたいと思った。その為に強く、賢くならねばならないとも。 



成長するにつれ、いろいろな事を知り、学び、身を守る術を得る。二人が大きくなるにつれてカリムが危険な目に会う頻度は減り穏やかな日々を過ごしていた。そんなNRC入学を間近に控えた時に起きた誘拐。油断していた訳では無い、ただ少しばかり状況がこちらに不利だったという所が大きい。共にジャミルが居る事が心強くも有り、心配でもある。もしもジャミルに危険が及ぶような事があれば身を挺して庇ってやりたいが、それだけは絶対にしてはいけない事だと理解していた。主が下僕の役割を奪ってはいけないと、主に護られるような下僕は無能の烙印を押しているに等しいのだと 常日頃から教え込まれていた。これだけカリムに尽しカリムの為に身を捧げるジャミルの評価を下げるわけにはいかなかった。
犯人達の交渉は長引いているようで、常にピリピリとした空気が流れていた。 縄抜けするだけならすぐ出来る。だが縄抜け出来た所で銃で打ち抜かれてしまえば意味が無い。ジャミルは隠しナイフの一つも持っているだろうが、カリムは丸腰な上に相手は銃で武装した男が三人。そう簡単に敵う相手ではない。眼と唇の動きでジャミルに相談してみるも、 やはりあまり良い案は思い浮かばないようで機が来るのを待つしかないようだった。
昔ならばこんな事を考えずとも助けが来るか、それとも殺される瞬間をただぼんやりと待てばよかった。それが今ではなんとか二人で無事に助かる方法を模索している事が、少しだけおかしかった。自分の為には出来なくても、他人の為になら出来る事も、ある。 
死にたくないと思った。死なせたく無いと思った。


状況が変わったのは、囚われてから三日後の事だった。水だけは辛うじて与えられていたが、食べ物は碌にもらえずにすぎる空腹で胃がしくしくする中、難航する取引に耐えかねた男が「カリムを暴行し、その証拠なり映像を送り付けて話を進めやすくする」という話を提案した。うまく行けば、確かに早く取引を終らせなければカリムが死んでしまうかもしれないという危機感で話が進めやすくなるかもしれない。だがカリムにその価値はあるのだろうか。
父は救おうとしてくれるだろう、愛されているという確信がある。だがこの誘拐を巧く利用してカリムを亡き者にしようとする人間は大勢いる筈だ。父が一族の長という立場ではあるが、だからと言って全てを支配下に置けているわけではない。もしかしたらこの誘拐自体、家族の誰かが企てた物かもしれない。
苛立ちを募らせた男達の値踏みするような視線がカリムに集まる。ジャミルが傷つかないなら、それでもいいと、カリムも思っていた。 ここでカリムが犠牲になるのはジャミルの落ち度では無い。
「なあ、俺をアンタらの仲間にしてくんネェ?」 
カリムに伸ばされようとする手を遮るように、今までカリムと共にただ黙って人質となっていたジャミルが口を開く。その聞きなれない雑な言葉遣いに、内容よりも驚いてしまった。馬鹿な人質の戯言として無視しようとする男達になおもジャミルは言葉を続ける。 
「腹減ってンだよ、なんか食わせてくれたらご奉仕するゼ?」 
胡乱げな男たちの視線が集まるのを見てからジャミルが赤く長い舌を見せつけるように差し出す。唾液に濡れた舌先が、ソフトクリームを舐め取るように上下に卑猥に動かされ、それから口角を釣り上げて笑った。 
「この坊ちゃんヤろうってンだから、男イけんだろ?処女が良いってンならご期待には沿えネェけど」 
何を、言い出すのかと思った。ジャミル、と思わず名を呼んでも全くカリムを省みず、ただ綺麗な顔を挑発的に歪ませて笑っていた。 
だが男達には十分に効いたようだった。なら、やってみろと引き摺られ、ソファに座る男の足の合間に座らせられたジャミルが躊躇いなく股間へと顔を埋める。後ろ手に縛られている為に器用にも口で金具を外し、布の奥へと鼻先を突っ込み男の性器を舌と口で運び出す手腕は余りにも手慣れていた。くっせぇ、と聞きなれない言葉で笑い、臭いと言いながらもためらいなく貪る勢いでしゃぶり付く。 
興味を持った他の男がジャミルの背後にしゃがむと心得たように下着ごと服をずり下す動きに合わせて腰が揺れ、早くと誘い込むように丸みを帯びた褐色の肌が突き出されていた。ジャミルに舐めさせている男が長く綺麗な髪を無造作に掴んで頭を自由に使い始めても逃げる所か恍惚と瞼を伏せて卑猥な水音を響かせていた。 
背後の男が油のようなとろりとした物をジャミルの尻に塗りたくり、中へと指を押し込むと驚くほどにすんなりと飲み込むとジャミルを嘲り笑う。すぐさまもう一本、二本と指が飲み込まれて何度か確かめるように抜き差しされた後には性器が宛がわれた。 
「んんぅ……っっんふ、……」 
かつての時のような、痛そうな様子はなかった。それよりも何処か甘えるようにさえ見えた。苦しい体制を強いられながらも男達に満足の行く奉仕をしているようだった。出すぞ、と口を使う男が両手でジャミルの頭を抱えて遠慮なしに揺さぶり、しばらくすると低く呻いて動きを止めた。そうしてジャミルの頭を遠ざけると名残惜し気にジャミルの唇が男の性器に吸い付き、ちゅうと音を立ててから離れる。ぱかりと口を開けて差し出した舌先には白い物が絡みついていた。唇の周りについたものまで残さず舐め取り味わうように口をもごもごさせてからごくりと音を立てて飲み込む仕草には男も満足したように笑っていた。背後から覆い被さる男も次第に高まってきたのか腰を押し付ける速度が速くなり、ぱんぱんと肉のぶつかる音が響いていた。過剰な程に上がるジャミルの声はかつて病室で聞いた時のように、甘く媚びていた。男の腿に頬を押し付けて懐きながら犯されるのが何よりも好きだと言わんばかりに嬉し気に鳴く。 
ほら、お坊ちゃんにも見せてやれよこの淫乱と両肩を掴まれ無理矢理立たされたジャミルの顔がカリムへと向けられる。男の手で辛うじて体重を支えるジャミルの身体が背後から貫かれる度に不安定に揺れ、さっきよりも良く締まると男が嘲笑う中、一瞬、ジャミルと視線が合い、そして反らされた。甘く鳴きながらも笑みを象っていた口角が戦慄き、くしゃりと今にも泣きだしそうに顔が歪む。
「あっ、ぁ、奥、……ッもっと奥まで犯して……ッ――!」
すぐに顔を伏せられてしまい見えたのは一瞬の事だった。さも感じ入っているのだと言わんばかりに強請る言葉を叫ぶ声は悲鳴のようだった。


そうして、気付く。突然のジャミルの変容はカリムを守る為の物だと。つい先程まではカリムを標的にしていた筈の男達の興味はすっかりジャミルに奪われてしまった。それどころか本来の目的まで忘れているのでは無いかとすら疑うくらいにジャミルに夢中になっている。三人の男に囲まれ代わる代わる犯されて喜び、自ら手を伸ばして奉仕することを求め、白濁を美味しそうに飲み干して犯される事を甘く強請る姿に興奮しない男などいない。現に、悲しい事にカリムとて腰が重くなっている。ジャミルをそんな目にあわせたい訳じゃなかった。そんな事をさせたいわけではなかった。
だが実際には何も出来ないばかりかジャミルに助けられ、ジャミルの痴態に興奮している。 
強く、なりたかった。 
ジャミルを守れるくらいに強く、ジャミルを抱き締められるくらいに強くなりたかった。 
火照る頬に流れる物を拭う事も出来ず、カリムはただジャミルを見て居る事しか出来なかった。

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