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空箱

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部活の話

コート内を縦横無尽に駆け巡るボールを視界に捕え続け、隙あらば味方へと繋ぐ。味方が保持しきれずにパスされたボールは素早く正確に適切な味方へと渡し、時には敵の手からボールを奪う。ジャミルが点を決める訳でも、敵の攻撃から守る訳でも無いが味方はジャミルを中心に動く、そんなポジション。
週末の部活恒例、上級生との練習試合。今日は調子の良いフロイドが恵まれた体格とセンスで一人で盛り返してはいるが、どうしても全体的な経験の差でジャミルのチームは圧されてしまう事が多い。それでもなんとか食らい付こうと必死で味方から投げられたギリギリのパスを両手で受け取る。
咄嗟に次に渡す相手を探すが、皆がっちりとマークされ迂闊に投げる事が出来ない。自ら突破しようにもゴール下を守る先輩に押し勝つビジョンが見えない。そんな中でふと、上級生と肩で押し合いをしているフロイドと眼が合う。
「来い」
と、煌く色違いの瞳に言われた気がした。何かを考えるよりも先に身体が動く。フロイド目掛けてドリブルを始めたジャミルを止めようと上級生が動いた隙をついて反対側から顔をのぞかせたフロイドに目掛けて、思い切り足を踏み込み横に飛ぶ。着地地点に組んだ両手が待ち構えるように差し出され、片足で跳び乗るや否や、ぐん、と身体が持ち上げられる。
「いっけえ~」
人を一人放り投げたにしてはずいぶんと気の抜けた声援を受けながら高く、先輩をも優に超える高さを飛ぶ浮遊感がもたらす高揚に自然と口の端が吊り上がる。少しでも高く、長く、飛べるように背を撓らせ、両腕で高く掲げたボールを腹筋の力で持ってぐっと集めてリングに叩きつける。
ダンクシュートなんて、初めてやった。
味方の沸き立つ声を聴きながらリングにぶら下がって足元へと視線を落とせば床ははるか下にあった。よくこんな高さまで放り投げたなと今更ながらフロイドの無茶苦茶っぷりに笑ってしまう。ジャミルでなければ空中でバランスを崩して大怪我いただろう力業だ。
地面に降りれば、いえーい、と先程ジャミルを軽々と放り上げた大きな掌が目の前に翳される。それを思い切りばしんと引っぱたいて自陣へと戻る。今のゴールでフロイドだけではなく味方の士気も上がったようだった。今日こそは、勝ってやる。
いや、絶対に勝つ。

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