屋上へと続く階段を上りきった先の立ち入り禁止の張り紙がされた扉の向こう。
浅い屋根に守られた僅かなスペースが三人のいつもの場所だった。
休み時間を、昼食を、放課後を、時には授業中にもよく集まった。
それは一人きりの時もあればたまたま三人揃う時もあり、其の日はギルベルトのみが一人、授業を抜け出して低位置となった扉の蝶番がある側の壁へと凭れて居た。
穏やかな日差しに心地良い少し湿った空気。昼食を食べ終えた五時限目、眠気を誘うには充分な気候にやる事も無くただ居るだけのギルベルトが睡魔に負けてしまうのは必然と呼ぶべくも無い、ただ当たり前の事だった。
遠くグラウンドから聞こえる体育の授業の声や、音楽の授業が何処かであるのだろうか、不ぞろいな合唱が春風に乗って流れて来る。
夢と現を行き交うような曖昧な心地を楽しんでいれば自然と身体はずり下がり、すっかり地面へと仰向けに寝転がってしまったら後はもう、身を委ねるだけだ。
そんな時に不意に静かに錆付いた扉が耳障りな音を立てて開かれる。それと同時に聞きなれた声。
「ありゃ、先客が居った。…しかも堂々と寝とるがな」
潜められた声は一応の気遣いなのか、優しい耳障りで脳を擽る。それに続いてもう一つ馴染んだ声が聞こえたのを境にギルベルトは夢の国へと旅立った。
ギルベルトはよく夢を見る。
それは空を飛ぶようなファンシーな夢から手に血塗れた剣を取り数多の敵を斬り殺す夢まで多種多様だが一貫して主人公はギルベルトで、取り巻く環境がそれぞ れに違うだけだ。それら全てを書きまとめていけばギルベル度の冒険記として一冊のハードカバーの本が出来そうなくらいに。
だが其の日の夢は何かが違った。自分が主役であることには変わり無いが自分は異世界の騎士でも空を飛べる魔法使いでも無く、ただ自分であるだけだった。自 分という男が一人、真っ暗な世界で寝転がって居る。目には何も映らないのに誰かの声が、息遣いが聞こえる。苦しげなその声は助けを求めているようで必死に 追いかけようとするのだが何か、ゲル状のモノに身体を絡めとられて動け無い。身じろげば弾けるような淡い音を立てて崩れるのに何故か起き上がる事が出来無 い。やがてそのゲルは音を立ててギルベルトを飲み込み初め――
「あ、…ッ起きてもた…ァ…」
びく、と身体を硬直させて見開いた目に映った光景にギルベルトは瞬き一つする事が叶わなくなった。
扉に折り重なるようにして身を預ける二人はどう見ても自分の良く知る友人たちで、スキンシップを好む男とセクハラが一種の習慣ともなっている男は気付けばべたべたと密着している事が多いのも知っているのだが。
…何故、二人共下着ごとズボンを膝上までずり下ろしてあまつさえアントーニョの股間からはすっかり勃起した物が揺れていて背後から覆い被さるフランシスの腰がぴたりとアントーニョの尻に密着しているのですか親父様。
「フラン、…ッぁ、ギル、起きた…って…んっ」
アントーニョが聞いた事も無いような甘え声を震わせて呼び掛けるもフランシスはちらと此方を見て口端を釣り上げるだけで。ゆるゆると押し付けられる腰は、 つまり、あれが、それで、そうなって居る訳で、言葉の割りには止めさせようという努力が見え無いアントーニョはむしろもう扉に縋りつくように頬を擦りつか せて揺さぶられる度にあえかな声を上げる。
苦しげな息遣いと、押し潰された水音が断続的に響き渡る其処は夢の中でも何でも無く、現実だった。
真っ白になった頭の中で目の前の光景だけが鮮明に存在を主張する。
「っや、ぁ、ッあ、もぅ、あかん、フラン…ッ」
悲鳴のような声を甘く響かせながらアントーニョは最早扉に爪を立てるようにして辛うじて上体を支えている様子でフランシスに揺さぶられるままに身を躍らせる。その度に震える性器から溢れ出た液体が地面の色をぽつぽつと変えて行く。
そして遂に。声にならぬ声に唇を喘がせながら青ペンキが剥がれかかった扉へと掛けられる白濁、フランシスも時を同じくして達したのだろうか、数回大きく腰を前後させた後に深く息を吐き出しながらアントーニョの耳元で何事かを囁いていた。
「な…な…な…お前ら…」
漸く動いてくれたギルベルトの唇はだがしかし文章を生み出すにはまだ早かった。言葉が零れ落ちたことすら気付かぬ程に呆然と見詰めるギルベルトを二人は漸くはっきりと視界に入れ、一度二人で目を見合わせてからへらりと笑った。
「ギルもまざる?」
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