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4.アイラブユー

アントーニョが笑わなくなった。
それどころか電話を掛けても家を訪ねても拒まれるようになった。急ぎの用がある、先約がある、今日は調子が悪いから、様々な理由を持ってしてロヴィーノと 会う事自体を避けるようになった。のらりくらりと、だが常とは違う何処か歯切れの悪い断り文句ばかりを何度も突きつけられて自然とロヴィーノの心に不安と も苛立ちともつかない蟠りが腹の底に溜まり行く。何故、どうして、思い当たる節が無いとも言い切れないがそれを認めたくなくて思考はただ問い掛けばかりが 渦巻き、叫び出しそうな程の淀んだ何かが身体を支配する。それとなく弟に聞いてみても弟とは普通に会うし常と変わらぬ姿であるらしい事を聞いて余計にロ ヴィーノの胸に不快感ばかりが増してゆくばかりだ。
そもそも昔からアントーニョはロヴィーノ達兄弟に対してべたべたに甘かった。本当は怒ると怖いのだとフランシスに聞いた事もあるが全く信じていなかった。 否、信じられるはずも無かった。ロヴィーノを見ればいつもにこにこと暢気な笑みを浮かべてこちらの気持ちなどお構いなしに暖かな腕に抱き締められてばかり だったのだ、怒る姿だって出会った最初の頃に数度見ただけだが決して恐怖を感じるようなものでは無かった。
それが突然、ロヴィーノの存在を無視しようとしているような拒絶。会話をするのすら億劫だとでも言いたげに視線を合わせぬままに紡がれる会いたく無いとい う意味合いの言葉の羅列。アントーニョに拒絶されるなどと未だかつて想像すらした事が無かった。あの暖かな存在が、受け入れてくれなくなるなど。
「…っくしょ、どうしろってんだこのヤロー…」
鬱々とした物ばかりが溜まっているのに常にアントーニョのことばかりが頭の中をぐるぐるして憂さ晴らしすら出来無い。する気力が沸かない。日がな一日ベッ ドの上で蹲りただ怠惰に、無為な時間を過ごすばかりだ。時々心配したフェリシアーノが様子を見に来るものの、会話は全て思考の斜め上の辺りを滑るばかりで 正直、此処最近どんな話をしたのかは全く覚えていない。
「もー、にーちゃんいい加減にしないと黴生えちゃうよー」
「うるせーほっとけあっち行けよコノヤロー」
扉越しに兄を心配するフェリシアーノの声を追い払って深く溜息を吐き出す。アントーニョから会う事を拒否され始めてからもうどれくらい経つ?余りにも何度 も断られるものだから連絡すら怖くて取れなくなった。声すら暫く聞いて居ないのだ。思い出そうとしても脳裏に浮かぶのは優しい過去の思い出ではなく最近の 冷たいアントーニョばかりで切なさだけが膨らんで行く。会いたい、せめて声だけでも、だけど怖くて身動きが取れない。
あの日、酒に飲まれて勢いで押し倒さなければ。そのまま行為へと雪崩れ込まなければ。次の日の朝、アントーニョが余りにもけろりとしていたからその時はた だ満たされた気持ちだけで一杯だった。だが其の後すぐ。こちらから幾ら誘っても応じなくなったという事はあの日の出来事が原因なんだと思われる。けれど何 故。強引にことを運んだ自覚はあるが、アントーニョとて最後の方は自らロヴィーノの上に跨り腰を振るほど興が乗っていたではないか。どちらのものともつか ない体液を纏わりつかせ、程よく筋肉の乗った身体をしなやかに躍らせて幾度も掠れた声でロヴィーノを呼んだではないか。欲を宿した濡れた瞳が柔かく笑みの 形に歪むのを見て一度は想いが通じ合っているのではないかとまで思ったのに。
ぐるぐる、ぐるぐる。思考は同じところばかりを延々と巡り続けて果てし無く、鬱々とした感情だけを振り撒いて止まる事を知らない。次第に溜まり行くどす黒い物がついに身体に収まりきらなくなって弾け飛んだ。
「っっっあああああああああもうちくしょうコノヤローふざけんな!!!」
勢い良く部屋を飛び出して吠える。数日ぶりにまともに顔をあわせたフェリシアーノが驚いたような顔をしていたが構うことは無い。今まで身体を押さえつけて いた薄暗い感情が暴発して止まる事を知らない炉のように燃え上がっている。会いたいなら会えばいい。アントーニョが嫌がる理由なぞ知るものか。会って、話 して、此処最近の拒絶の理由を聞いて確り納得するまで説明させてやる。



そうして勢いのままに辿り付いたアントーニョの家。断りも無く玄関の扉を開ければそれは常と変わらず容易く開かれた。相変わらずの不用心さにどす黒い物が また容量を増すのを感じながら足音荒く家の中を探し回る。リビング、キッチン、バス、トイレ。そして最後に辿り付いた寝室へと足を踏み入れればベッドの上 にシーツ一枚だけ纏わせ惰眠を貪る姿があって。
「テメェは一人で暢気に昼寝かよコノヤロー!!」
姿を見ただけで胸中で渦巻いていた物が晴れてゆく自分が嫌だ。びくりと肩を震わせて目を覚ますアントーニョが起き上がるのを阻止するように足音荒くベッドへと近付けば其の上へと覆い被さるようにして乗りあがる。
「え…あ、ロヴィ…?…どないしたん、こない急に…」
目を白黒させて驚くアントーニョの顔が酷く頼り無い。自分はよほど恐ろしい形相をしているのだろうか、怯えを孕んだ翡翠の瞳に見詰められて身体の奥が疼く。
「うるせー、こうでもしねーとテメェは俺と会わねぇだろーが」
「ちゃ、ちゃうねん!会いたく無かった訳とちゃうんやで!?」
「じゃあなんだってんだよ」
慌てて言い繕おうとした言葉を遮れば途端に言葉を詰まらせ視線を泳がせる、その顔。まるで悪戯を咎められた子供のような幼い顔は見た事が無い。焦がれた相 手のそんな庇護欲をそそるような顔を見せられて憤りが少しだけ落ち着きを取り戻す。誘われるように頬へと掌を触れさせてそっと撫ぜる。柔らかな丸みを帯び たそこは柔かく肌に吸い付いた。
「言えよ。本当に俺が嫌なら…もう…、二度と来ねぇから…」
無いとは言い切れない可能性に、ただ言葉にするだけでも沈みそうになるロヴィーノの心を、ちゃう、と消え入りそうな声でアントーニョが救う。
「嫌、ちゃうねん、…嫌いともちゃう…けど」
「けど、何だよ。」
「俺、ロヴィの親分やから、あかんねん」
「何が」
「ロヴィには幸せになって欲しいねん」
まるで言葉の拙い幼子と会話しているような歯切れの悪い言葉と意味の繋がらない言葉の数々にロヴィーノの眉間に皺が寄る。ロヴィーノと会わない事が何故ロ ヴィーノの幸せに繋がるのか、わけが判らない。だが不意に思い出す。先走って身体を先に繋げてしまったけれど、ロヴィーノは想いを相手に伝えたことがま だ、無い。根本的な事実に気付いて愕然としながらも今が言うべきチャンスなのだと俯くアントーニョの頬を両手でそっと包み込んで視線を重ねる。唇が触れそ うな程に近くに顔を寄せ揺れる翡翠を真っ直ぐに見据える。
「俺は、お前が好きだ。お前の傍に居れば幸せになれるし会えねえと凄く、辛い。…愛してるんだ、アントーニョ」
今まで言う機会を逃していたという理由を盾に唇を割る事の無かった想いが滑らかに滑り落ちて行く。翡翠を見開き固まっているアントーニョの唇へとそっと触れるだけの啄ばむだけの口付けを落とした。
「…え…いや…けど…」
「お前の翡翠色の瞳も、子供みたいに柔かい頬も、太陽の下で輝く笑顔も底抜けに明るくて能天気な所も全部…全部、愛しいんだ。いつも俺の瞼の裏にお前の姿が焼き付いて夜も眠れ無いくらいにいつもお前を想って離れられねー、愛しているんだ」
戸惑いを露にするアントーニョに重ねて畳み掛ける。一度言葉にしてしまったらもう引き返すことなど出来無い。覚悟を決めてしまえば迷う事は無い、今まで素直に言えなかった想いを唇に乗せて囁く。
「でも、俺、親分やし…」
「そんなの関係無ぇよ、お前は、俺の事どう思ってんだよ…受け入れられないって言うなら二度とお前の前には現れねーよ」
「っそんなん嫌や…!!」
不意に伸びたアントーニョの両腕がロヴィーノの首を捉えて引き寄せる。自然とアントーニョの上に倒れることとなった体がひたりとシーツ越しに重なり温もり が滲み出す。ぎゅっと抱き締める腕の強さに顔を首元へと埋めることになったロヴィーノにアントーニョの香りが纏わりつく。
「二度と会わんとか悲しいこと言わんといて、そんなん絶対嫌や…!」
「な、ならお前、俺のモノになんのかよ…」
突然の勢いに飲まれて思わずどもりながらも問い返す声が自然と震える。この男相手に期待してはいけないと理解しているはずなのに高鳴る鼓動が抑えられない。抱き返す腕すら持てずに硬直したようにロヴィーノはただアントーニョの腕の中でじっと次の言葉を待つ。
「自分と離れるくらいやったらなんぼでも俺なんぞやるわ。やから会わないとか言わんといて。」
呆気ない程にすぐ帰って来た返答に思わずロヴィーノはぽかんとアントーニョを見詰めた。この男は結局、分かっているのだろうか。あまりにも考えなしに紡が れる言葉の羅列に、もしかしたら己の想いを含めた今まで全ての会話は全くの無駄だったのでは無いかと悲観的な思考すら過ぎる。
「お、俺の恋人になれって言ってんだぞ、親分でも保護者でもねーんだぞ」
「わかっとるよ」
「う、浮気とかしたら駄目だからな!そんな事したら相手を殺してやるんだからな!」
「絶対せぇへんて約束したる」
「…もう、二度と離してやんねーぞ…」
「ええよ。ロヴィと離れ無いで済むならなんでもかめへん」
どれもこれも。わかっていっているのか、分かっていてこの返答なのか。胸にあった筈の心臓が耳元で激しく脈打っている。信じていいのか、今度こそ、想いが通じ合ったのだろうか。
「…お前は、俺の事どう思ってんだよ。」
「何言うてんの、俺は昔っからロヴィのことが世界の何よりも一番大事なんやで」
結局。それは親分としてなのか恋焦がれる相手としてなのか判断につきかねるのだが。
とりあえず、拒絶はされていない。そう、知ると同時にロヴィーノの身体から力が抜ける。細かい事はどうでもいい、とりあえず言質は取れた。後はこれから じっくりみっちり教え込んでやればいい。お前が了承した事柄はそういうことなんだと、例え分かっていなかったとしてもこれから身体でもって知ればいい。
「お前、その言葉、覚えてろよ…」
手始めにまずその唇からロヴィーノは侵略を開始した

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3.友情≠愛情

フランシスの家に遊びに来たアントーニョと二人、のんびりとソファに並んで腰掛けて何でも無い会話の最中に不意に重なった視線と落ちた沈黙。それはただ何 気ない偶然だが二人にとっては一つの合図にもなった。一本の糸で繋がれたように引き寄せられる唇が静かに重なり、両腕が相手の体躯を緩やかに拘束する。柔 らかな感触を楽しむように数度啄ばんだ唇に舌を差し伸ばしてやれば薄く開いた合間から濡れた粘膜の中へと迎え入れられて相手の体内への侵入を許される。 ゆったりと、焦らすような緩慢さで硬い歯列をなぞり奥に縮こまった舌先を探り当ててやれば喉を鳴らしながら絡み付いてくる温もり。背を、癖のある後ろ髪を 撫でながらぴったりと隙間無く身体をくっつけて唾液を混ぜあう淫靡な音で空気を揺らしてやれば腕の中の身体は簡単に煽られて下肢を押し付けるように擦り付 けて来る。
浅く、深く、絡み合う舌の根がじんと熱を持ち、漏れる吐息が気だるくなった頃に漸くソファへと優しく押し倒してやれば期待が蟠る股間をぐいと押し付け、
「あ、そういやぁな、」
は、と互いに浅く息を零す合間に突然言葉を紡ぐ唇に再び触れようとしていた動きを止めてフランシスは何?と先を促すように優しく問い返す。
「あんな、この前ロヴィとヤってもーた」
どないしよう。と。覆い被さるフランシスを脚の間に挟んで腕を甘く首筋に絡ませながら突飛な告白をするこの友人に思わずフランシスの力が抜ける。別にする事はするけれど恋人同士という間柄でも無いからお互いの戦歴自慢をする事はあっても嫉妬するような事は無いのだが。
「今言うことないでしょ、ソレ。何で今なの」
「や、だってなんか急に思い出したんやもん。そういやロヴィはちゅー下手やったなぁて」
相変わらず空気を読まないアントーニョの言葉に思わずがっくりと肩へと突っ伏すようにして項垂れたフランシスの髪を暢気に撫でながら我関せずとアントーニョは話を続ける。
「けどなぁ、ほら、ロヴィは一応元子分やん。俺親分やん。あかんやん。」
「何が。」
「俺別にそういうんが目的でロヴィと居ったんちゃうし。」
長年の付き合いにはなるが、未だこの会話のテンポに着いて行けない。話が端的過ぎて全容の予想すら付かない。そもそも突込み所が多すぎる。
「…とりあえず、幾ら優しいおにーさん相手だからってこういうことしてる時に他の男の名前出さない事。これは最低限の礼儀な?わかるか?」
気力で身体を持ち上げて真上から優しく、まるで子供に言い聞かせるように諭してやれば一瞬きょとんと翡翠の瞳を瞬かせた後、ぎこちなく頷いた。ああコレは きっとまったく理解してないでただ頷いただけだ。恐らくやるなと言われた事はやらないだろうが、何故やっちゃ駄目なのか分かっていない顔だ。
「…それと、何で駄目なの。それ目的じゃなかったって言ったって、別に今は国としては対等な関係なんだし、あいつも大きくなったんだから別にいいんじゃいの?」
だが一つに拘っていたら何時まで経っても話が進まない。なるべく話がわかりやすくなるようにと問い掛けてみればアントーニョはそれは思い切りよく首を振った。
「あかんあかん、やってロヴィやで?あんな可愛かったロヴィがそんな、いやあかんよ」
フランシスの努力空しく帰って来る言葉は自己完結された否定ばかりで相談したいのか愚痴を零したいだけなのかすら判断つかない。それなのにいつしかアントーニョの脚はフランシスの下肢に絡まり指先が顎の下を優しく擽るのだ、話をしながら続けろという訴えか、これは。
「じゃあ何でヤったんだよ、拒めばいいじゃないか。」
「かっこよかったんやもん…」
「は?」
「せやからあんまりにもロヴィがかっこええし酒入ってたしかわええし…」
なんだそれはつまりただの惚気か。思わず馬鹿馬鹿しくなったフランシスはまだぶつくさと言い訳を連ねるアントーニョを無視して服を剥き始める。まともに聞 いた俺が馬鹿だった、勝手にしろとばかりに自分も服を脱いで直接肌へと触れる。じんわりと滲むように染み込むフランシスよりも高い体温。柔らかな皮膚の下 には確かな筋肉が着いた身体を確かめるように掌を這わせて行く。
「けどほら、ロヴィならかわええ女の子と幸せになれるんやろなぁ思て。ちょっと意地っ張りやけど素直なええ子やし、ああ見えても優しいトコあるし…」
次第に小さくなって行く言葉、眉根を寄せて何処か不服げな顔をして唸るアントーニョを他所にフランシスの掌は滑らかな腹筋の山を伝い落ちて下肢へと滑り込む。茂みの中にひっそりと熱を滲ませるペニスに触れるとぴくりと震える肌。
「ッ、…なんか、それはそれでおもろない…」
指先で裏筋から袋までを擽るようになぞれば面白い程に素直に身体は反応するのに未だに思考はフランシス以外の男で一杯のアントーニョの様子に不意に、気付 く。気付くというよりは、理解したというのが相応しいかもしれない。今まで博愛主義を誇るフランスすらも敵わないと思わせるような博愛精神、悪く言えば節 操無しのアントーニョが固執するただ一人の男。こうして度々身体を重ねるフランシスですらこんな執着を向けられた事が無い。それをあの男は、かつてただの 属国でしかなかったあの少年だった男は、本人の自覚なしに手に入れてる。
「なぁ、それって……」
思わず言いかけて、やめた。アントーニョに対して愛だの恋だのといった感情は持ち合わせていないが紛れも無くコレは嫉妬だ。何事にも節操無しと無執着の狭間を行き来するアントーニョの唯一を手に入れた、そのことに対しての。
「なん、言いかけて止めんといて、気になるやんか。」
「いやいや、そろそろおにーさんも構ってくれないと拗ねちゃうぞって」
意識をこちらへと引き戻してから強く、手の中の雄を擦ってやれば喉を鳴らして肩を震わせるアントーニョに満足して唇を重ねる。そのまま再び舌を差し込めば 消化不良なのか不服さを残しながらもおずおずと絡みついた舌を弄ぶ。唇を塞いだまま快楽で翻弄してしまえばアントーニョのことだ、すぐに溺れることだろう。



ロヴィーノの感情はわからないがアントーニョの感情は紛れも無くそれだろうが暫くは言ってやるつもりがフランシスに無い。幸せを願わないわけでもないが素 直に喜ぶには自尊心と悪戯心が疼いた。これから先、二人の間でいかに面白おかしく幸せにしてやるかと浮き足立つ心を宥めながら今はただ、目の前の快楽へと フランシスも共に溶けて行った。

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2.ラブドランカー

再会を祝した宴は二人きりでひっそりと、だが常々騒がしい男が一人居ればそれは賑やかな物になった。お互いの近況や周辺諸国の状況、今年の農産物の話と いった真面目な話から街中で見かけた胸の大きな女や国内で流行った歌、果ては家に忍び込んできた鼠の話などとりとめもなく語られる話題は尽きる事無く二人 の唇から滑り落ちる。アルコールでより饒舌さを増したアントーニョの話に置いて行かれないよう食いつくロヴィーノも普段よりよっぽど饒舌だ。言い争うよう に次々に紡がれる言葉の数と同じようにして胃に落ちて行くアルコールで二人共まともな思考能力を失いつつある。決着が見えずに何度も繰り返される問答がそ れを物語っていた。
「せやから、女の子はやっぱりばいーんぼいーんやろ。むっちむちのおっぱい気持ちええでー?」
「だから俺は細身の女が良いっつってんだろ!掌に収まるサイズの方がいいんだよ!!!」
「そんなん揉んだかて何もおもろないやんか!!ロヴィもいっぺんおっぱいおっきな子ぉとシてみぃ、気持ちええから!!!」
「うるせぇえ!!俺はお前みたいに誰とでも寝る訳じゃねえんだよ!!」
すっかり酒に支配された思考能力では恥じらいも何もあったものではない。否、アントーニョに限っては酒の有る無しに関係無いかもしれないが。何がおかしい のか腹を引き攣らせて笑い転げるアントーニョの頭を一発殴ってからさらに酒を煽る。アルコール度数こそさほど高く無いが並々とグラスに満ちたそれを一気に 飲み下した喉が焼けて瞼がかっと熱くなった。味など、もうとっくの昔に判らない。
「そもそも、なぁ、俺は、そういう、……無ェし。」
たん、と音を立ててグラスをテーブルへと戻すと殴られても未だ笑い転げるアントーニョへと視線を定める。ロヴィーノが呟いた言葉にすら気付かずけらけらと 笑い続けるアントーニョの姿にふつりと怒りが腹の底で湧き上がる。そもそも、何でお前に女の良し悪しを指図されなければならないのか。他でもない、アン トーニョに。沸いた怒りが次第にぐつぐつと煮え滾り始めるのにロヴィーノは歯を噛み締める。
「そない怒らんと、今度俺がちゃんと教えたるて。女の子と気持ちよぉなる方法」
黙り込んだロヴィーノを気遣ったのか、アントーニョにとっては酔い任せの軽口のつもりだったのだろうその言葉にぷっつりと何かが切れる音がした。勢い良く 立ち上がるとがたんと椅子が倒れる音がした。自分で言った言葉に自分で笑うアントーニョの手首を掴むと強引に引っ張って床へと引き摺り倒す。反応が遅れた アントーニョが椅子ごと床へと転げ落ちたその上へと圧し掛かると、だん、と音を立てて顔の脇へと両手をついた。
「今度と言わずに今教えてもらおうじゃねぇか、このやろー」



まず、汗に張り付いた前髪を掻き分けて額に一つ。それから鼻先に、滑り落ちて頬へと唇を触れさせる。柔らかな感触を伝える肌は滲んだ汗でしっとりと吸い付くように乾いた唇を潤した。
「ろ、ヴィ…」
ついさっきまで笑い転げていたアントーニョが甘く重たい溜息混じりにロヴィーノを呼ぶ。戸惑いを含んだそれが咎めるのか、拒絶するのか、続きが聞きたくなくて濡れた舌を覗かせる唇を塞いで封じる。差し伸ばした舌先に絡むアルコールの甘味が脳髄にまで染みた。
「ロヴィ、待っ……痛い…」
喘ぐように首を振って逃れようとする最中に零れる声を無視して唇を追いかけながら床に打ち付けられた衝撃に強張る身体を宥めるように頬へと指先を触れさせ るとそのまま顎を固定する。怯えたように奥で縮こまる舌を突付いてやればンぅとくぐもった声が漏れた。何処か色付いたそれをもっと聞きたくて舌の裏を擽っ てやれば漸く、ぬるりと舌が絡む。鼻から呼吸を漏らしながら粘膜を擦り合わせるだけの単純な動きを繰り返す度に微かな水音が震えて言いようの無い充足感を 齎した。
「ン、…ん、…ロヴィ…ッ」
次第に呼吸が苦しくなったのかアントーニョがロヴィーノの肩をそっと押し上げて漸く離れる唇。未練がましく伝う唾液の糸がふつりと切れてひやりと冷たく唇に触れた。
「なん、やの、突然…痛いやんか…」
きゅ、と眉根を寄せて不服を訴えるアントーニョの濡れた翡翠の瞳が伺うように下からロヴィーノを見上げていて、太陽の下で親分を気取る男とはまるで別人のように甘く淫靡な空気を纏う。
「お前が、教えてくれるっつったんだろ…」
再び触れ合う直前まで唇を近づけても肩に触れた両手は拒まなかった。ただ、戸惑うようにぎゅっとロヴィーノのシャツを握り締めているばかりだ。
「それは、言葉のアヤっちゅーか…なんちゅーか…第一、女の子おらへんやん」
「俺は、お前がいい。」
「せやけど、俺おっぱいないし…」
「元々胸の無い子の方が好きだから問題無ぇ」
「ちんこついとるし…」
「別に気にしない」
思いつく反論を全てあっさりと封じられてアントーニョがうぅと低く唸る。口下手な方だと自覚のあるロヴィーノがこうまでも綺麗にアントーニョを言い負かす など滅多に無い経験で思わずロヴィーノの口端が緩んだ。アントーニョは今突然の出来事に混乱している。突然の子分の反乱、それはロヴィーノ自身でも驚く程 の強引さでもって成し遂げられようとしている。酒の力とはかくも強力なのだろうか、それとも今まで身体の奥深くに溜め込んだ感情が暴発しただけなのだろう か。 なんとか言葉を捜そうとアントーニョが視線を彷徨わせるうちにそっと掌をシャツの裾から忍び込ませる。高揚した肌がひたりと滑らかに掌に吸い付き期 待に下肢が疼く。緩い稜線を描く腹筋の山を辿り胸元へと這い上がった指先が小さな引っ掛かりを摘み上げて転がせばぴくりと肌が震えた。
「ッロヴィ…っあかんて、俺、親分やし…ッ」
「そんなの関係無ぇよ」
結局何も思いつかなかったのか訳のわからぬ事を言い始める唇を再び塞ぐ。そもそも、アントーニョが本気で抵抗しようと思えばロヴィーノなど簡単に押し退け られるはずなのだ。例え酒に酔っていたとしても。まだ、泥酔しすぎて動けぬほどでは無いだろう。それをしないということは否が応にも期待が膨らむ。許され ているのかと、先を望まれているのかと。未だ言葉には出来無い想いだけれど勢いと偶然に手に入れたチャンスを見逃す程にはまだロヴィーノはへたれていな い。
「…気持ち良くさせる方法、確り教えろよ…?」


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ぴたりと重なっていた肌が剥がれて汗ばんだそこに空気が触れた。そうしてまたずるりと少しだけ姿を見せたペニスが再びアントーニョの体内に沈む。
「あっ…ん…」
押し出されるようにして密かな声が鼓膜を震わせて下肢が甘く震えた。絡み付くように粘膜に締め付けられて温度を上げる身体から浅く息を吐き出して熱を逃がす。
「な、気持ちええ…?」
ゆったりと腰を前後に揺すりながら見下ろすアントーニョの唇が赤い舌をちらつかせながら問う、その卑猥さを本人は自覚してやっているのだろうか。ロヴィーノはもう限界ぎりぎりの所でひたすら耐えているばかりだというにこの余裕の差。
「わかってんだろ…っわざわざ聞くんじゃねー」
「せやな、けど意地悪したなんねん」
ふふ、と淫靡な空気を震わせて笑うアントーニョが腰を支えていたロヴィーノの手をそっと取ると結合部へと導く。腰を浮かせた分だけ姿を見せたロヴィーノの ペニスを辿り薄い皮膚を一杯に引き延ばして貪欲に性を貪る排泄口へ。どちらのものともつかない体液に濡れたそこを導かれるようになぞれば中が震えるように ロヴィーノを締め付けた。
「は…っ此処、めっちゃ喜んどるやろ、ロヴィのちんこ美味しいて言うてるやろ」
極々浅く揺れる動きに合わせて絡み付く薄い皮膚は確かにアントーニョの言う通りご馳走を食べるかのようにロヴィーノのペニスを咀嚼し舐め尽くして行く。ロ ヴィーノには腹筋を強張らせて引きずり込まれそうになるのを堪えるのがやっとで、ゆっくり味わっていたらあっさりと天国へ連れて行かれてしまいそうだ。そ んなのはなけなしのプライドが許さない。
「んぁっ…ひっ、そんないきなし…っ」
アントーニョのなすがままに快感を享受していただけの身体で下から不意に突き上げてやれば面白い程に褐色の肌が踊った。一度、二度と繰り返し突き上げる度に背をしならせて甘い声を上げる。
「ぁっあっ、気持ち…ぇえっ」
ロヴィーノの目の前で汗に濡れた肌が誘うようになまめかしく揺れる。促されるようにして次第に強く早く腰を揺さ振れば肉がぶつかる乾いた音の中に卑猥な水 音が混ざり鼓膜からも快感を流し込んでゆく。耐え切れなくなったように身をくねらせながら腰を揺らすアントーニョの動きがロヴィーノの動きを乱し予想外の 快感に息を飲んだ。
「はっ…んぁっ、もぅぁかん…っ」
イく、イってまうと譫言のように喘ぐ姿は最早幼い頃から慣れ親しんだ男では無く、ただ欲に塗れた娼婦に等しい存在だった。穏やかで暖かい幼き頃の記憶が全て、今目の前で快楽のままに踊る男の下卑た姿に塗り潰されて行く。
初めて弟以外に感じた暖かな愛情も、見返りを求め無い真っ直ぐな優しさも、全てがただ下半身が求める安っぽい欲求へと擦りかえられて行く。
「ロヴィ…ッッッ――」
どろりとロヴィーノの腹の上に白濁を吐き出しながら媚びるような甘い声で囁かれた名を、だがロヴィーノは不思議と不快と思う事は無かった。達したばかりで強張る身体に締め付けられてロヴィーノもまたそのぬかるんだ体内へと無為に散る性を吐き出しながら荒く息を吐き出す。
「アン……」
かつて呼ぶ事が出来なかった彼の愛称をそっと口の中で呟き、満ちる幸福感に浸る。それは長年にわたり渇望していた物でもあり、大切な思い出との別離でもあったがロヴィーノに後悔は無い。
愛する者を生まれたままの姿で抱き締める、その幸せに勝る物など、ロヴィーノには何一つ無かった。

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1.無題

からりと乾いた空気、肌をちりちりと焼く日差しの強さ。
露出した肌に篭る熱を涼しげな風が優しく撫でて行く懐かしい感覚。
人の生涯では考えられない程に久方ぶりに訪れたこの国の季候が、他国だというのに郷愁に似た物を呼び起こすのは長年、此処で過ごしたからだろうか。
いつでも遊びに来ぃや、なんて言われてからどれくらい経つのか、独立してすっかり身の丈も大きくなったロヴィーノにはわからなかった。酷く昔のことのようにも感じるし、ついこの前のことだったようにも思える。



あの家を出てから今まで訪れなかったのは決して会いたく無かったわけでは無い。
多忙、それだけを理由にするのは無理だとわかりつつも今まで訪れることが無かったのは言葉にするにはとても難しくもどかしい感情ばかりだ。漸く耐え切れぬ程に会いたいと、今まで取繕っていた上面の体面を捨て去ってただ会いたいのだと行動に移せた頃にはすっかり今まで散々かわいいと称された少年の面影が薄れ、縦にも横にも成長した男の体躯になっていて正直、不安ばかりが胸裏に渦巻く。
可愛い物に目が無い彼は幼子の柔らかな曲線を失った自分にはもはや興味が無いのでは無いか、そもそも身を削ってまで守ってくれていた彼を裏切り独立した自分なぞ目障りでは無いか、そもそも…
「いい加減覚悟決めろよな俺…」
辿り付いた一つの家の前。この地独特の白い肌に覆われた眩いばかりの壁を見上げて一つ息を吐き出す。服に覆われた肌までじんわりと汗ばんで居るのは決して 日差しの所為だけではないだろう。意を決して伸ばした指先はノックを叩こうとして、そうして躊躇った後にノブへと手を掛ける。それは予想に違わず静かに軋 んだ音を滲ませて開いた。
来訪を予め告げて訪れた訳では無いからきっと、これはただの不用心だろう。だが何故か少しだけ緊張に固まった心が解れた気がした。
日差しから守られた家の中は開け放たれた窓から入り込む涼しい風に満ちてすっかり熱を持った肌を沈静させてゆく。静まり返った空気は昔此処を出た時から何一つ変わっておらず、ただ少しだけ小さくなった。
早まる鼓動を抑え、足音を押し殺して彼を探す。今の時間なら丁度昼寝の頃だろうか、それとも国としての仕事をしている頃だろうか。はたして彼は寝室のベッ ドの上に居た。白いシーツの波に埋もれた濃い色の肌が呼吸に合わせて浅く上下している。こちらに背を向けている所為で顔まではわからないが随分と痩せたよ うな気がする。一歩、二歩、ベッドまでの僅かな距離に酷く時間を近付いて肌に触れる。昔には巨木のようだった身体が両腕に納まる大きさにまで小さくなって いて思わず力の限り背に抱きついた。
「ふぁ…あ……?何、なんなん…?」
流石に目を覚ましたのか男が間の抜けた声を上げるが構わない。過去の傷跡に引き連れた背に顔を埋めて離さない。そうでもしていないと訳も無く泣いてしまいそうだ。
「え、誰?何も言わんとわからん、……」
背に張り付く正体を知ろうともがいて居た男の動きが止まった。流れる無音の空間、馴染んだ体温の高い肌に込み上げる嗚咽を必死で噛み殺しながら様子を伺っていると不意に、引っ張られる。
「ちぎ…ッッ」
思わず出た声は最早本能に等しい物で堪えられなかった。思わず緩んだ腕の中で男がぐるりと向きを変える。
「やっぱりロヴィや。隠れてても可愛いコレが出とったで」
寝起きの気だるい吐息混じりに紡がれる声、未だに顔を上げられずに男の胸元に再び抱きついたロヴィーノの頭を優しく撫でる掌、拒絶する事を知らないように全てを引き寄せて受け入れる男に涙が止まらなかった。
「ほら、顔見せてぇや、こない大きゅうなって…さぞ男前になったんやろな?」
見なくても男が暖かな笑顔を向けていることが分かる声。顎へと手が滑り降りて来るのを必死で首を振って拒否した。涙でぐしゃぐしゃになった真っ赤な顔なぞ間違っても見られたくない。
「意地悪しないで見せたってやぁ」
男は笑いながらもそれ以上の強制はしない。ただ優しく抱き締めて背を撫でてくれる。それにまた涙が込み上げて男に縋りつく。そしてロヴィーノは心の中で叫ぶ。お前が好きだ、と。



少し経って落ち着いて来ると二人は漸く、お互いの顔を見た。男の顔は少し頬が削げ落ちたが不健康な印象は無く、むしろ大人の男臭さが増したようだ。対する ロヴィーノと言えば涙の痕でぐちゃぐちゃだったが男は嬉しそうに目を細めてこう言うのだ「えらい男前になったなぁ」と。あんまりにも手放しに誉める物だか らいつものような憎まれ口しか返せず、だけどそんな遣り取りも酷く久しぶりで心がふわふわと空を漂っているようだった。
「ああ、せや」
思い出した、と言わんばかりに顔を上げた男が改めてロヴィーノと向かい合う。そうして、その両腕で確りと肩を抱き締めた。


「お帰り、ロヴィ」

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生徒会室

昼休みを終えた午後の生徒会室は騒がしかった生徒達が皆教室の中に押し込められている為に酷く静かだ。そんな中で授業を受ける気のないアーサーは一人、重 厚な木製のデスクに向かい生徒会の事務作業に勤しむ。穏やかな午後の風が通り抜ける中で乾いた紙の上にペンを走らせる静かな風景だが時折、ぴちゃりと混ざ る卑猥な水音。入口から隠れるようにしてデスクの足元にうずくまるアントーニョがアーサーのペニスを舐めしゃぶる密かな息遣いが静寂に波紋を生み出す。す ぼめられた唇が緩慢な動きでもって口腔の浅い場所で幹を生温く擦り上げて付け根へと戻る機械的な反復作業を繰り返すだけのやる気の無さで、伝い落ちる唾液 とも先走りともつかない体液を舐め啜る時にだけ濡れた舌先が覗いた。
「おら、そんなんじゃ何時まで経ってもイけねーよ」
温く腰元に快感を蟠らせるばかりでそれ以上の事をしない怠惰な唇に焦れてアントーニョの剥き出しなばかりかすっかり熱を集めて固く勃ちあがった股間を革靴 の爪先で蹴り飛ばしてやればくぐもった悲鳴が足元に蟠った。書類をめくる手を止めて視線を落とすとかちりと深い色の碧眼と重なる。
「なんか文句あんのかよ」
睨むようなその視線を咎めるように体重を乗せて強く股間を踏み付ければングゥと押し潰された声を漏らして面白いようにびくびくとアントーニョの肩が跳ね る。アーサーの膝の上に乗せられた両の掌が固く拳を作り、ずるりと咥内から中途半端に頭を擡げたペニスが抜け落ちた。なんとか逃げようと後ろ退ったところ で狭いデスクの中では逃げ場など無い。
「誰が止めて言いっつったよ。」
奥に逃げようとする前髪を引っつかんで強引に引き寄せれば指に絡み付く短い巻き毛が数本抜ける感触。ぐ、と呻きながらも眉根を寄せて耐えるアントーニョにアーサーの体温が上がった。
「ずっとそうしていたいんなら別に俺は構わねーけど」
そうして髪を離してやれば、くそ、と小さく毒吐く声の後に再び先端に触れる柔らかな唇。さも不本意と言わんばかりの険呑な眼差しでアーサーを射ながらもふ とした瞬間に漏れる吐息は甘く熱を含んで震えた。再開された愛撫に身を任せながらふと、アーサーは思い出したようにデスクの上に無造作に置かれたリモコン に指先を伸ばす。今はオフにあるスイッチを気まぐれに動かしてやれば足元でびくんとアントーニョの身体が跳ねた。
「ゃっ…ぁああっ、ぁっあっ」
微かに聞こえるモーター音がぐずぐずに蕩けきった粘膜を揺さ振り痺れるような快感を生み出しているのだろう、強張らせた肩を不規則に揺らしながら喘ぐ声が 涙に掠れた。総てを吐き出したくても先走りをだらだらと垂れ流して震えるアントーニョのペニスの根本は固く紐で縛りつけられてもう既に大分時間が経ってい る。その上、後孔を穿つ玩具が萎える事を許さずにアーサーの指先一つで振動する為に休む間もない。為す術無くただ拷問のように身体中を支配する快感に身を 委ねるしかないアントーニョの姿にアーサーの唇が歪んだ弧を描く。顔を合わせれば喧嘩するだけしかなかった相手が、アーサーの指先一つに翻弄され喘ぐしか ない優越感。制服の上はきっちりと着込んだまま下肢だけを露にしてはしたなく勃起したペニスを震わせる淫らな姿は心に潜む支配欲を擽る。
「ったく、しゃーねぇなぁ」
優しさを装ったアーサーの声は思いのほか甘く響いた。アントーニョを苛む玩具のスイッチを切ってやれば目に見えてほっとしたように身体から力を抜き落として膝の上に伏した頭をそっと撫でる。
「紐、外してやるから自分でヌけよ。今のお前じゃ使いモンになんねー」
「…っ…、っざけんなボケこんなんにしたんは誰やねん」
荒い呼吸に肩を上下させながら吐き捨てられた声は地を這うように低い。睨み上げる深い緑色の眼から溢れた涙が頬を静かに伝い落ちる。
「だから楽にさせてやるって言ってんだろ。別に嫌ならいいぜ、他の奴呼ぶから」
その言葉の意味を正確に理解したアントーニョの唇が開き、何事かを紡ごうとしては結局声になる前に噛み締められる。また一滴涙が頬を伝い、瞼がぎゅっと耐えるように伏せられた。やがて怖ず怖ずと伸ばされた手が下肢へと辿り着く前に内股の柔らかな肉を爪先で小突く。
「そこじゃ見えねーだろ、此処に来い」
こん、と軽くデスクの表面を指の間接でノックしてやれば絶望の色で見開かれた瞳がアーサーを見上げ、そして諦めたようにゆっくりと伏せられた。逆らえば他 の、アントーニョの大切な彼がアーサーの手に掛かるかもしれない事を理解しきった身体は心の反発を唇を噛み締める事でやり過ごし、アーサーの意のままに従 うしかない。捨てきれぬプライドが悲鳴を上げていても、涙を飲んでただ静かに耐える姿はアーサーの心に言いようの無い喜びを齎す。デスクの下から抜け出せ るだけのスペースを開けたアーサーの膝に熱く湿った掌を置き重い腰を浮かせる動作は酷く鈍い。今は振動していないとは言え確かな存在感を主張する玩具が少 しの動きでも中を擦り熱を生み出すのだろう、くぅ、と甘えるような鳴き声が食いしばった歯の間から漏れ聞こえる。随分と時間をかけてデスクの上へと漸く腰 を乗せたアントーニョの両足も押し上げてしまえば縛られて色を変えて震えるペニスも、入り切らない玩具をくわえこんだ後孔もアーサーの眼前に晒される。玩 具は傘の広い先端から中太りの幹までが赤く色付いた入口の皴をみっちりと押し広げて粘膜に埋まり、スイッチがある根本の部分だけが突き出ているために真っ 直ぐに座ることを許さず、腰を突き出すように後ろ手で体重を支える姿はまるで金のために男を誘う娼婦のようだ。アーサーを見ようともせずに俯く顔だけが唯 一残された反抗なのだろう。汗に濡れた肌が午後の優しい陽射しをぬらりと跳ね返して荒い呼吸にか、それとも体内で駆け巡る快感にか腹から内股までの筋肉が 小刻みに震える様はこの上なくアーサーの目を楽しませた。恥じ入るように擦り合わされた膝頭を割開くと突き出た玩具が静かに上下してそれに合わせたように すっかりと濡れそぼったペニスが震える。
「ほら、とっとと済ましちまえよ。…早くしねぇと飽きるぞ」
その姿勢のまま動く気配の無いアントーニョを急かすように突き出た玩具を押し込みがてらスイッチを入れてやれば面白い程に身体が跳ねて背が綺麗な弧を描く。
「ぁっ…ぁあああああ――っっっ」
悲鳴とも咆哮とも着かぬ声を上げがくがくと痙攣するアントーニョにアーサーの手が思わず止まる。
「あぁっ、あっ…嫌、やぁっっ…気持ちぇえっっ」
くずおれた背をデスクの上でびくびくと跳ねさせながら喘ぐアントーニョの双眸はすっかりと焦点を失い襲い来る快感に歪んでいる。抜け落ちそうになる玩具を再び奥へと押し込んでやれば糸の縺れたマリオネットのように弓なりにしなる身体。
「っひぁあああっ…んぁっも、ぁかんっ止まらへんっ、助け、…っ」
「はっ、ケツで空イきしてんのかよ。どうしようもねぇ淫乱だな」
嘲笑うアーサーの声すらも聞こえない様子で快感に呑まれて行くアントーニョの姿に堪えようの無い笑みが浮かぶ。普段太陽の下で健全な青少年を気取るそれと は違う剥き出しの欲望に身体全体が熱く燃え上がった。知らず手がアントーニョを犯す玩具を強引に引き抜き縋り付いた粘膜が戻らぬ内にたぎったペニスを押し 込む。もはや言葉にすらならない声を上げて玩具とは違う熱さにうち震える粘膜を揺さぶり。一度、絡み付く粘膜の心地良さを知ってしまったら後はもう止まれ ない。どちらかの精魂尽き果てるまで貪り尽くすだけだった。

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