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空箱

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ただいまのちゅー

不意に浮上する意識。
眠気を引き摺る事無くすっきりと瞼を持ち上げて枕元の時計を見れば六時になる三秒前。
慌てて手を伸ばしてスイッチごとアラームを切って一息。後少しでも遅かったらけたたましいベルの音が鳴り響く所だった。
空調が切られた室内はじっとりと早くも熱気を籠らせているが、それよりも高い温度のの日向を抱き締め直す。
汗を滲ませた肌同士が擦れてぬるりと、何処か卑猥な感触を齎して下腹部が疼きそうになるがそれは我慢。
「ひゅーが、」
「ん、…」
耳朶にそっと名を注ぎこめば僅かに寄せられる眉。
覚醒には至らず、抗うようにむずがって身を竦めるのを追いかけるようにこめかみに、頬に、顎にと口づけを落として行く。
「じゅんぺ、起きろって」
「んー……」
返事とも唸り声とも付かない曖昧な声を零しながら薄く開かれた双眸はお世辞にも目つきが良いとは言えない。
数度、浅い所で瞼を上下させてから木吉の顔を見つけると何を言うでも無く肩へと懐くように擦りよる仕草はまるで猫のようだ。
「…いま…なんじ…?」
「ちょうど六時になったトコ」
目覚めの良い木吉と違い、日向は朝に弱い。
バスケ部なんてやっていたから起きれないわけでは無いのだが、エンジンが掛かるまでに少々時間が掛かる。
今だって時間を聞いてきた癖にそのままううだとかああだとか、唸りながら木吉の腕の中で身じろいで寝易い場所を探しているようだ。
やがてすぐに寝息を立て始めた日向を本当ならそのまま寝かせてやりたいのだが、そんな事をして後で怒られるのは木吉だ。
「起きろって、ロード行くんだろ」
頭を抱え込むように抱きしめて輪郭の露わな耳朶を唇に挟んで吸いつけばまた小さな唸り声。
それから、腹部に軽くめり込んだ拳。
「ぐっ…」
「…てめぇ…まためざましどけえ…とめやがっただろぉ…」
寝起きの擦れた低音で凄んで見せた所で舌が回りきっていなければ木吉にとってはじゃれつかれてるようなものだ。
まだ開ききらない瞼で睨む目元にも唇を落として頬を擦り付けたら互いの生えかけの髭が擦れた。髭の生えたお父さんがつるつるお肌の子供にするのがじょりじょりなら、髭の生えた大人と髭の生えた大人同士のそれはなんて呼べばいいのだろうとかどうでも良い事が過ぎる。
「でも、こうやってちゃんと起こしてるじゃないか」
「てめぇにおこされなくてもひとりでおきれる…っつーかいてぇ…」
じょりじょりじょりじょり、顔面から来る刺激は地味に覚醒を促したらしい。はっきりと瞼が開いて来たと同時に強引に顔を押しのけられた。
「暑い。鬱陶しい。何でこんなひっついてんだ。」
ぶつくさと酷い事を言いながら起き上る日向の名残惜しさなど欠片も無い背中に不満が無いと言えば嘘になる。だからって、お互いが休日の日ならともかく、こんな平日の朝っぱらからいちゃいちゃする日向なんて余り想像つかないが。
「朝飯は?」
「戻ってから食う。…お前は学校午後からなんだろ、まだ寝てろよ」
鈍い動きながらも立ち上がった日向が去り際にぽんと頭を撫でて行くのにわけもなく嬉くなる。想いが通じあって、お付き合いして、一緒に暮らしてと大分日向に慣れた筈なのに未だにこんな小さな事で幸せになれるのは本当に幸せな事だと思う。
「いいよ、もう目ぇ覚めてるし。朝飯何がいい?」
「何でもいい。任す。」
着々と走りに行く準備を進める日向を眺めてから、玄関までお見送り。
その頃には大分目覚めたらしい日向に、行ってきますのチューを要求したらアホか、と呆れ切った目で見られた。勿論チューもなかった。
少しだけ切なくなりつつもこれくらいでへこたれていたらそもそも日向に惚れてなぞ居ない。
冷蔵庫の中身を思い出しながらキッチンへと向かう。


焼き鮭と、油揚げを火で炙った物と、納豆。
ネギとわかめの味噌汁に今炊きあがったばかりの白いご飯。
簡単と言えば簡単だが典型的な日本の朝ご飯を作り終えて一人自己満足してみる。
そろそろ日向の帰って来る頃か、それとももう少し時間が掛かるようなら先にシャワーでも浴びて汗を流そうか。
そんな事を考えていたら不意に鳴るインターホン。
日向だったら自宅なんだし鍵を開けて勝手に入って来るだろうし、こんな早朝と呼んで差し支えない時間に誰が。
ちゃんと人前に出ても恥ずかしく無い格好をしている事を確認してからインターホンを取る。少しばかり警戒してしまったのは、仕方の無い事だと思う。
「俺。開けて。」
けれどいざ聞いてみれば先ほど出て行ったばかりの日向で。
鍵を持って行くのを忘れたのか、と一人納得して玄関へ向かい、扉を開ける。
「ただいま」
「おう、おかえ、…」
お帰り、とその短い言葉を言う前にぐいと胸元を引っ張られて日向の顔が近くなったと思った途端に下唇に食い込んだ歯。
痛い、という声を上げる間も与えずにすぐに柔らかな唇が重なって濡れた舌が傷口の上を這って行った。
唖然として日向を見下ろす事しか出来ない木吉の前で、日向は微かな血の赤に濡れた唇を舌で舐めとりながら「ざまぁ」と満足げに笑っていた。

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触れる

休み時間、廊下で見知った背中を見つけたから後ろから肩を掴もうとした、たったそれだった。
乾いた音を立てて腕が弾き飛ばされると同時に突き刺すような鋭い眼光が振り返り、だが相手が諏佐と認識して半開きに開かれた唇は数度、開閉を繰り返した後にへらりと浅い弧を描いた。
「堪忍なあ、驚いてもうて」
なんて笑う姿はこの一瞬の出来事を日常の些事にしようとしていたが、彷徨う視線が腑に落ちない。
まだ今吉と諏佐は入部時に出会って以来、然程時間が経っているわけでは無いが、いつもはしっかりと目を捕らえて話す男だと諏佐は知っている。しゃんと背を伸ばし、顎を上げて見上げる双眸の強さを知っている。
重ならない視線と少し丸められた肩は何処か頼り無く揺れていて、大丈夫か、と問うつもりで再び手を伸ばしたのに他意は無かった。むしろ何も考えていなかった。
ひ、と。
小さく聞こえたのが今吉の喉から発せられた音だとは、血の気を無くして青白くなった顔を見るまで気付けなかった。思わず触れる寸前で指先を止めた諏佐の前で、まるで石像のように固唾を飲んで指先を見つめる細い目に浮かぶのは紛れもない恐怖で、それなのに避けるでも無くただその恐怖に身を委ねている様に諏佐はすまんとただ謝る事しか出来ず、居場所のなくなった指先を握り締めて腕を下ろす。先ほどよりもぎこちなく戦慄いた唇は「堪忍な」と呟いた気もするが余りに些細な音は確信に至らず、固まった身体をなんとか引き摺るようにして歩き出した今吉の背を、諏佐が数歩足を運べば簡単に追いつけそうな鈍い足取りをそれ以上追えずに諏佐は立ち尽くした。



「いやあ、授業中にめっちゃ怖い夢見てん。まだ寝惚けてたみたいでエラいビビってもうて」
堪忍なあ、と放課後、部室に入って来るなりそう謝罪する今吉はへらりと力の抜けた笑顔で普段と変わらず、だが普段と変わらないからこそその言葉の信憑性に欠けた。
バスケ部の同じ学年同士という事で今吉と諏佐の仲はそれなりに良いと思う。思う、といまいち確信に至れないのは未だに諏佐が今吉の事を掴みきれないからだ。短い期間でも会話を重ねれば重ねる程に相手への理解を深める筈なのに、そう少なく無い今吉との交流で諏佐に分かった事と言えば「今吉は胡散臭い」、という事だけだ。何処が、と聞かれたら困ってしまうのだが、今吉の言葉が、表情が、相手や状況に合わせて作っている上辺だけの物に見えるというのが主な理由だろうか。
そんな胡散臭い男の先ほど見せた怯え。尋常では無いあの様相が、ただ夢見が悪かったと言う理由で片付けられるわけが無かった。何か、別の。今吉を怯えさせる何かとは。
ちらちらと一つ、理由が思いつかないでも無いが高校生にもなった男がそんな事で。
そもそもあれだけ怯えていたのなら、あえて聞かずに今吉の言葉にただ納得しておいてやった方がいいんじゃないか。
ぐるぐると脳みそを高速回転させていたら急に膝から力が抜けてロッカーに思い切り額をぶつけた。
「ぃでっ…!?」
「なん、人がせっかく謝ってるのに無視かいな」
振り返れば細い両目を更に細めて見上げる今吉の姿。
鈍く痛みを訴える額を押されながら膝かっくんされたのか、と納得すると同時にあれ?と首を捻る。
「お前、人に触られるの怖いんじゃないのか?」
聞くか聞くまいか悩んで居たのに驚いてあっさりと諏佐の口から問いが飛び出る。
一瞬、目を見開いた今吉は三回、瞼を上下させてからへらりとまた口角を上げた。
「やから、言うてるやん、さっきはめっさ怖い夢見たんやって」
考え過ぎやで諏佐ぁ、と証明するように一度ばしんと肩を叩いて自分のロッカーへと向かう背中は先程の怯えなど微塵も感じさせないくらいに頼もしいが何かが腑に落ちない。今吉、と追いすがるようにして伸ばした指先は図らずも休み時間と同じように背後から肩を掴み、
「っっもうホンマいい加減にしぃや!!!」
本日二度目の乾いた音は震えた怒鳴り声に掻き消された。
初めて聞く今吉の感情を露わにした声に漸く、諏佐は自らの失敗に気付いた。


------


つ、と背中に指先が触れる。
かろうじて触れていると言うような仄かな感触が少し戸惑った後に下へと滑り落ちた。
正直、くすぐったい。
けれど諏佐はぴくりと小さく肩を揺らすだけに留めて指先の次の動きを待つ。
まだ余り物を置いていない諏佐の寮部屋は暖かな日差しが差し込んで、ただじっとしているだけだとだんだん意識が睡魔に乗っ取られそうになる。
だが傍から見ればじゃれているだけに見えるかもしれないが、背後からは凄まじい緊張感が伝わって来て眠るに眠れない。
こみ上げた欠伸を噛み殺し、意識して深い呼吸を繰り返していると、一度離れた指先が今度は手の平に変わって、どす、と勢い良く背中を突いた。
「ぐふぉ、…」
「わ、堪忍な諏佐…」
きっと意を決して手を伸ばしたら力加減を間違えてしまったのだろう、焦った今吉の声に大丈夫だ、と静かに息を吐いた。
これは思っていたよりも時間が掛かりそうだ。



事の始まりは、うっかりと諏佐が今吉の肩を掴んで怯えさせた例の事件からだった。
あのあと、またしてもその場から逃げ出した今吉を、諏佐はやはり追いかけられなかった。
どうするべきなのか全くわからなかったのだ。
結局、部活が終わっても姿を見せ無かった今吉を心配しなかった訳ではないが、そもそも諏佐が原因なのだ、たぶん。
今まで飄々とした態度を崩さず、感情の揺れ等微塵も見せた事の無かった今吉の明らかな拒絶は諏佐にそれなりの衝撃をもたらしたようで、これからどんな顔で今吉に接したらいいのかがわからない。
同じ寮生として、同じ即レギュラーに選ばれそうな新入部員として、三年間を共にするなら仲良くなっておきたいと思っていたのに。


寮に戻り消灯時間を過ぎても気付けば今吉の事を考えてしまって寝付けなかった。
明日は部活に来るだろうかとか、もし部活に来たとしてもどう謝ればいいのだろうとか、結局何故あんなに怒っていたのかわからないだとか。
ぐるぐるとただ同じ疑問を頭の中で捏ね繰り回しては、実際に今吉に会ってみないとわからないという漠然とした結論にしか辿りつかない。
けれど、そんなすっきりとしない結論では納得出来ないのか、最初からまた頭の中で捏ね繰り回す事になる。
何度目かの寝返りを繰り返し、一度水でも飲んで落ち着こうとベッドから起き上がった時、タイミング良く扉をノックする控えめな音が響く。
たった二度の、静まり返った部屋だからこそ聞こえるようなそれは消灯時間も過ぎているのだし無視することも出来たのだが眠っているのならまだしも起きているのなら知らんふりは気が引ける。
諏佐は少しだけ思案すると扉へと向かった。
「寝とった?」
扉を開くなりへら、といつもの胡散臭い顔が、まるで今日一日のあれそれなど何も無かったように立っていたので思わず諏佐は反応に困ってしまった。
いや、とぎこちなく首を振るのが精一杯で、ほな中に入れてぇや、と脇を摺り抜け部屋へと勝手に入る今吉を止めるタイミングを失ってしまう。
寝付けない原因が、自らやってきた。
扉を支えたまま暫し唖然と今吉の背中を見送った後、溜息一つ落として諏佐は今吉の後を追った。
これが解決の糸口になるのか、それとももっと大きな問題になるのか期待と警戒を持ちながら。



「今日あった事を全部忘れて今まで通りの日常に戻るのと、今日のアレソレの訳をちゃんと説明する代わりに一生ワシの下僕になるの、どっちがええ?」
今吉が先にベッドに腰を落ち着けてしまったので、なんとなく距離をとって床に座るなり問われた内容に諏佐は今日何度目になるかもわからない間の抜けた顔で今吉を見上げた。
間接照明の薄明かりの中で、当の本人は相変わらずの口角だけを吊り上げたような笑みでじっと諏佐の反応を待っている。
「あー……下僕、ってなんだ…」
「下僕は下僕やん?ワシの手となり足となりワシの意のままに顎で使われる簡単なお仕事」
「いや、そんな事じゃなくて…なんで下僕なんだ?」
「そりゃあ、親にも言えへんかったワシの秘密を知るんやから、相応の対価が必要やん?」
本来聞くべき所はそんなことじゃない気がするのに、余りにも今吉が普段通り過ぎて頭がついて行かない。
いや、今日一日ずっと思考が空回りしている。
余計な事は眠れなくなるくらいには考える癖に肝心な時に脳が職務放棄をしている。
それもこれも、全ては目の前で笑っている男のせいで、あれだけ怒らせたのだからとこっちが悩んでいたというのにわざわざ部屋までやって来るわ、それで怒りをぶつけるなりもう話し掛けるなと絶縁宣言でもするのかと思いきや、笑顔で訳のわからない二択を提示してくる。
なんだか段々考えるのが面倒になって来た。
悩んだ所で、諏佐の想像の一歩も二歩も外れた反応が返って来るのだから頭を使うだけ無駄な気がする。
「…お前は、どっちがいいんだ?」
だから率直に、思ったままを問い返せば細い双眸を瞬かせる今吉の姿。
「今はワシが聞いてんねんで」
「だが俺はお前の意見も聞いた上で返事をしたいと思ったんだ」
「そんなん、今日の事は無かった事にしたいに決まっとるやん」
「本心から言っているのか?」
考える事を放棄して、ただ条件反射のように言葉を並べていたら今吉からの返事が途切れた。
一度、二度、開いた唇が音を発しないまま噛み締められる。
探るような視線が諏佐を真っ直ぐに見据えるが、諏佐としては何も考えていないので出来る事など何も無い。
そもそも、此処で今吉が頷いてくれてさえいれば、そうかそれならわかったと、今日の事を忘れる方を選んで終われるのに。
つまり、此処で頷けないくらいには、今吉は諏佐が下僕になる方が好ましいということか、と結論つけて諏佐は我に帰る。
また、今吉の事を考えてしまった。
けれどわかってしまうと無下に見捨てる事が出来なくなると言うか、目の前に困っている仲間が居て、自分に助けを求めているような気がするのに放って置ける程、ヒトデナシでは無いつもりだ。
唇を噛み締めたまま何を考えているのかわからないが黙り込んだ今吉をぼんやりと眺めながら諏佐は一つ、息を吐き出した。
「下僕…と言うのはなんだか違和感があるが。お前が望むのなら、俺は下僕になってやってもいい」
あんまり酷い無茶振りは勘弁してくれよ、と付け足しながら今吉を見上げると、そこには泣き出しそうな、怒りを爆発させる寸前のようななんとも言えない顔でこちらを凝視する瞳があった。
「……なんやそれ。自分、ほんまに頭動かして物言ってるん?」
「お前それ微妙に失礼じゃないか」
「せやかて、絶対、後で後悔すんで?」
「お前がそんな顔してなきゃ、俺だって今日の事を忘れる方を選ぶ」
笑顔を忘れて這うような声でしか喋れない今吉がただ縋りたいのを必死に堪えてるように見えてきて困る。
自分がどんな顔をしているのか言われるまで全く意識していなかったのか、視線をさ迷わせた後に俯いてしまったから今どんな顔をしているのかは見えない。
皆が寝静まった寮の一室とは静かな物で、黙ってしまった今吉を前に流れるのは無言の時間だ。
これ以上、諏佐から言える事は無いし、後は今吉がどう決断するのかを待つしか無い。
「…ちゃんと、忠告はしたで」
暫くして、漸くぼそりと、脅しているのかと紛うような低音が溜息と共に吐き出される。
だが、次に顔を上げた今吉は、は、と乱雑な息を吐き出して何か吹っ切れたようだった。
「しゃーないから下僕にしたる。しゃーなしやで。」
どうやら諏佐は今吉に望まれたらしい。
上から目線の言葉に思う所が無いわけでもないが、其処を言った所で睡眠時間が削られるだけなので黙っておく。
「ほな、説明やんな」
荷が下りたような、少しばかり調子を取り戻した今吉の説明は予想よりもかなり簡略化された物だった。
去年、ちょっとした?事件に巻き込まれてから人に触られるのが怖い事。
狭い所、暗い所も怖いし、人が居過ぎても居なさ過ぎても駄目だと言う事。
「…え、それだけ…?」
「それだけってなんやねん、良いガタイの男がこんなんなってるてバレたら恥ずかしいやろ」
「いや、それはそうなんだが…」
交換条件が下僕と言ってくる位だからよっぽどの重い話があるのかと思っていたのだが。
余りにあっさりとし過ぎて逆になんだかよくわからない。
「けどお前、部活の時は普通にしてただろ。」
「慣れた。人がそこそこ居って、明るくて、広いやん?全く平気とは言えへんけど、そこまで構える程でも無いっちゅーか」
「…いや、けど、それなら今日、廊下で会った時も人がそこそこ居て明るくて広かったと思うんだが。」
「……やから、言うたやん、授業中に怖い夢見たんやて。」
つまり、事件?とやらの夢を見て過敏になっている時にうっかり触ったからこその反応だったという事か。
部室の時は狭いと言えば狭い場所で二人きり。
バレないようにと無理に触れるアピールをしたものの、結局諏佐から触られて耐えきれなくなったのだと勝手に納得する。
「説明はこれくらいでええか?したら次は本題なんやけど」




そして冒頭に戻る。
下僕になれと言うのは今吉の故意に間違えた言葉選びであって、協力者と言うのが正しいのでは無いだろうか。
要は今吉の、触られる事に対する恐怖心を克服する為に手を貸せと言う事だ。
二人きりは怖いが、人が居る所で出来るような事でも無いのでせめて明るい時間に。
触られるよりは、自分から触る方がまだマシだから諏佐は背中を向けたまま動かない事。
思わず素直に背中を差し出してしまったが、今吉が何かしらの進展を迎える前に自分が寝てしまいそうだ。
未だ衝撃を残す肺に空気を満たしながらふと思いついて諏佐は振り返った。
「指とか、掌とか。ちまちましてねぇで思い切り抱き着くくらいしてみたら早いんじゃないか?」
「ちまちまって人の努力をお前な…」
「いや、プールの飛び込み台って、端に立って構えてから飛び降りるよりも助走つけて勢いで飛ぶ方が怖く無かったりするじゃねぇか。」
諏佐の思いつきは案外今吉にとっても納得の行く提案だったらしい。
前向きぃや、と真剣な声で促されて言われるがままに前を向く。
と。
どす、と先ほどの一点集中の衝撃よりは軽く、だがそれでも十分な勢いで持って背中にぶつかって来る身体。
抱きつく、までは至らなかったのか諏佐の腕の横からぴんと伸ばされたまま小さく震える両腕が今吉の心境そのものなのだろう。
すぐに離れるかと思いきや案外張り付いたまま動かない今吉の体温は日差しと相まって余計に眠気を誘う体温だが背から伝わる小さな振動が妙に落ち着かない。
指先まで強張っている腕に触れて宥めたくなる衝動をなんとかして堪える。
「諏佐ぁ……」
震えているからなのか、それとも本当に涙でも浮かべているのか。
余りにも弱弱しく涙声のような声で呼ばれて諏佐は今になって後悔した。
何故自分はあの夜、下僕になると言ってしまったのか。
この胡散臭い顔で、身長も180cm程度あるガタイの良い男を可愛い等と思ってしまうとは。
妙な扉を開きそうな自分の未来を憂い、諏佐は大きくため息を吐きだした。

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モンハン妄想

誠凛高校でモンハン妄想



リコ:ギルドマネージャー
某村のギルドマネージャー
ハンターたちの力量に合わせてお仕事を配ります
たまにうっかり「簡単なお仕事よ!!」って言いながら古龍討伐に行かせたりするけど愛ゆえに。愛なんですてへぺろ


日向:メイン弓、たまに笛
チームseirinの頼もしきリーダー
抜群の火力を誇るわけでも、徹底的なサポートが出来るわけではないけれど
クラッチ入った時の活躍ぶり異常
(例:モンスの突進を弓なのに勇者止め、ここぞと言う時に発動する麻痺や睡眠、成功率ほぼ100%の閃光玉等)
ただしクラッチ入った時は味方すらも殺しかねない、そして弓なんて飾りです発動
(例:矢切りで尻尾切断、味方を巻き込む爆裂曲射連射、等)


伊月:ボウガン系
全体が見渡せるからこそのフォローの達人
粉塵調合文持ち込みは当たり前
3rd仕様でも絶対味方には当たらない散弾
瀕死状態のモンスを「捕まえようか?」って話になる頃には既に伊月が罠張って捕獲玉投げてる
耐震や高耳無しの味方が硬直してれば射撃で助けるのは当たり前
むしろ回復剤etc飲んだ時の硬直すら射撃で助けるよ


火神:大剣
どう見ても正統派熱血主人公ですありがとうございます
メンバー内最高火力を誇る前衛。安定した攻撃回数と火力
野生の勘で自マキ付けなくてもモンスの居場所が分かる。移動先も分かる。ついでに捕獲の見極めまでついてる。
ただし、相当な確率で味方の攻撃を妨害したり、味方をふっ飛ばす。


水戸部:ハンマー
物静かなスタン達人。
火神に次ぐ火力担当。ただしスキル的には若干火神には劣る為、総ダメージ的には火神に後れを取る。が、攻撃妨害率も火神に劣る。(=安全な前衛)
基本的に頭部以外狙わないのでピヨらせ担当とも言える。
ソロだとスタンを三回取る事も珍しく無い


木吉:ガンランス、もしくはランス
鉄壁のガードを誇る槍使い。例えどんな相手でも木吉のHPバーが減る事はほぼ無い。回復不要。
ただし、何も無い場所で竜撃砲を打ってしまったり、むしろ誰も居ない所で竜撃槍を打ってみたり、寝たモンスをキックで起こしたりと変な大ボケをカマすので注意。
ボケさえ無ければ一番乙る事の無い鉄壁の人。木吉さえいれば皆ベースキャンプで遊んでても大丈夫…!!!
小金井:片手剣
無難に攻撃もサポートもこなす。が、うっかりで乙る確率もそこそこ、味方の攻撃に巻き込まれて吹っ飛んでる確率もそこそこ。
メイン片手はにゃんにゃん棒、これ絶対譲れない
土田:スラアク
活躍している事もある筈なのに何故か記憶に残らない、それが土田
スタメンの立ち位置が大体決まってしまっている為攻撃チャンスを窺ってばっかりでなかなか攻撃に踏み切れない土田
実は一度も乙った事の無い土田 だけど誰からもその事実に気付いてもらえない土田
あ 土田好きですよけれどリア充は爆発しろ末永く幸せに青春過ごして結婚までこぎ着けてしまえばいい
黒子:片手、もしくは双剣
一応、他の武器もやろうと思えば出来なくも無いけれど基本、状態異常担当。
ついでに大剣と笛、ハンマーは流石にちょっと重いので勘弁して下さい
特筆すべきはナチュラルに隠密スキルがついている事。
巻き込まれない限り、モンスに攻撃される事が無い
けれど味方にすら余り認識されず、味方に攻撃妨害されるのが悩みの種
他一年三人:お料理担当かルームサービスか温泉ドリンク
あの三人にそんなご奉仕されたらそれなんて楽園…
装備は、日向がフルフルとナルガ、リオソウルの混合装備(高耳と回避重視)
木吉がディアU一式、火神がレウス一式、黒子がメラルーフェイク(ボマー的な意味で)という所までは妄想しているのですが、そもそもこれP2Gなのか3rdなのか3Gなのか…という…
日向に曲射打って欲しいけれどフルフル混合装備着せたいこの矛盾…
という事で誰かこれで仲良し誠凛下さい…

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二人と一人の境界線

屋上へと続く階段を上りきった先の立ち入り禁止の張り紙がされた扉の向こう。
浅い屋根に守られた僅かなスペースが三人のいつもの場所だった。
休み時間を、昼食を、放課後を、時には授業中にもよく集まった。
それは一人きりの時もあればたまたま三人揃う時もあり、其の日はギルベルトのみが一人、授業を抜け出して低位置となった扉の蝶番がある側の壁へと凭れて居た。
穏やかな日差しに心地良い少し湿った空気。昼食を食べ終えた五時限目、眠気を誘うには充分な気候にやる事も無くただ居るだけのギルベルトが睡魔に負けてしまうのは必然と呼ぶべくも無い、ただ当たり前の事だった。
遠くグラウンドから聞こえる体育の授業の声や、音楽の授業が何処かであるのだろうか、不ぞろいな合唱が春風に乗って流れて来る。
夢と現を行き交うような曖昧な心地を楽しんでいれば自然と身体はずり下がり、すっかり地面へと仰向けに寝転がってしまったら後はもう、身を委ねるだけだ。
そんな時に不意に静かに錆付いた扉が耳障りな音を立てて開かれる。それと同時に聞きなれた声。
「ありゃ、先客が居った。…しかも堂々と寝とるがな」
潜められた声は一応の気遣いなのか、優しい耳障りで脳を擽る。それに続いてもう一つ馴染んだ声が聞こえたのを境にギルベルトは夢の国へと旅立った。



ギルベルトはよく夢を見る。
それは空を飛ぶようなファンシーな夢から手に血塗れた剣を取り数多の敵を斬り殺す夢まで多種多様だが一貫して主人公はギルベルトで、取り巻く環境がそれぞ れに違うだけだ。それら全てを書きまとめていけばギルベル度の冒険記として一冊のハードカバーの本が出来そうなくらいに。
だが其の日の夢は何かが違った。自分が主役であることには変わり無いが自分は異世界の騎士でも空を飛べる魔法使いでも無く、ただ自分であるだけだった。自 分という男が一人、真っ暗な世界で寝転がって居る。目には何も映らないのに誰かの声が、息遣いが聞こえる。苦しげなその声は助けを求めているようで必死に 追いかけようとするのだが何か、ゲル状のモノに身体を絡めとられて動け無い。身じろげば弾けるような淡い音を立てて崩れるのに何故か起き上がる事が出来無 い。やがてそのゲルは音を立ててギルベルトを飲み込み初め――



「あ、…ッ起きてもた…ァ…」
びく、と身体を硬直させて見開いた目に映った光景にギルベルトは瞬き一つする事が叶わなくなった。
扉に折り重なるようにして身を預ける二人はどう見ても自分の良く知る友人たちで、スキンシップを好む男とセクハラが一種の習慣ともなっている男は気付けばべたべたと密着している事が多いのも知っているのだが。
…何故、二人共下着ごとズボンを膝上までずり下ろしてあまつさえアントーニョの股間からはすっかり勃起した物が揺れていて背後から覆い被さるフランシスの腰がぴたりとアントーニョの尻に密着しているのですか親父様。
「フラン、…ッぁ、ギル、起きた…って…んっ」
アントーニョが聞いた事も無いような甘え声を震わせて呼び掛けるもフランシスはちらと此方を見て口端を釣り上げるだけで。ゆるゆると押し付けられる腰は、 つまり、あれが、それで、そうなって居る訳で、言葉の割りには止めさせようという努力が見え無いアントーニョはむしろもう扉に縋りつくように頬を擦りつか せて揺さぶられる度にあえかな声を上げる。
苦しげな息遣いと、押し潰された水音が断続的に響き渡る其処は夢の中でも何でも無く、現実だった。
真っ白になった頭の中で目の前の光景だけが鮮明に存在を主張する。
「っや、ぁ、ッあ、もぅ、あかん、フラン…ッ」
悲鳴のような声を甘く響かせながらアントーニョは最早扉に爪を立てるようにして辛うじて上体を支えている様子でフランシスに揺さぶられるままに身を躍らせる。その度に震える性器から溢れ出た液体が地面の色をぽつぽつと変えて行く。
そして遂に。声にならぬ声に唇を喘がせながら青ペンキが剥がれかかった扉へと掛けられる白濁、フランシスも時を同じくして達したのだろうか、数回大きく腰を前後させた後に深く息を吐き出しながらアントーニョの耳元で何事かを囁いていた。
「な…な…な…お前ら…」
漸く動いてくれたギルベルトの唇はだがしかし文章を生み出すにはまだ早かった。言葉が零れ落ちたことすら気付かぬ程に呆然と見詰めるギルベルトを二人は漸くはっきりと視界に入れ、一度二人で目を見合わせてからへらりと笑った。


「ギルもまざる?」

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無限ループ

俺は近藤さんが好きで、近藤さんは志村が好きで、志村は銀八のヤローが好きで。
皆、生物として正しい恋をしているのに俺だけ好きな相手が同性で。
告白なんて出来る訳も無い。
する気すら起こらない。
玉砕して、小さい頃から築き上げてきた友情すらも失うのがオチだ。
総吾と、近藤さんと。
幼馴染でもある二人を失うくらいならばこんな異常な恋心、胸に秘めて墓まで持って行くことなんかなんてこともない。
ただ、恋心とは別に近藤さんの志村への想いは暴走加熱気味でそろそろ釘を打っておかないとその内犯罪になるんじゃないかとも思う。
志村を諦めたからって近藤さんが俺を見てくれないのは判っているけれど。
毎日のように志村への想いを伝えては玉砕して帰って来る近藤さんを慰めるのも楽じゃない。
告白しないと決めたのは俺の勝手だけれど、近藤さんの事が好きな俺に他の女の愚痴やノロケをしないで欲しい。
場違いにも志村を恨みそうになるから。
そうは思っていても、近藤さんは志村へと想いを毎日伝えつづけて、志村はそれを鉄拳制裁付きで押し返して、俺はボロボロになった近藤さんを慰めて自分まで一緒にボロボロになって。
そんな日が高校卒業まで続いて行くのだと思っていたのに。


其の日も放課後、お妙さんお妙さん五月蝿い近藤さんをどうにか宥めてすかして部活に向わせ、俺はたまたま日直だったから誰も居なくなった教室で日誌を書いていた。
別に書く事なんて殆ど無いけれど、日誌を書き終えたら部活に行かなきゃならなくて、部活に行ったらば近藤さんと顔を合わせる訳で。
近藤さんの事は好きだけど、好きだからこそ違う女の事ばかり離す彼に会いたく無かった。
そんな暴力女やめて俺にしろよ、と口走りそうで怖かった。
書き終わった日誌を前にしても椅子から立ち上がる事が出来ずに思わず溜息を吐いた時。
「…あれ?多串君?」
不意に掛けられた声に慌てて廊下へと視線をやれば、其処には見慣れたやる気の無い担任の姿。
校内にも関わらず唇にはトレードマークにもなりつつある煙草を咥えてよれよれの白衣を着た姿はどう見てもカッコ良くなんか無くて、志村はこいつの何処が好きなんだろうと本気で心配になった。
「そう言えば多串君、今日日直だったっけ?日誌終わった?」
「丁度今書き終わった所です。」
スリッパの音をぺたぺた立てて近付いて来た担任に、もう名前が違うとか反論するのも面倒で立ち上がって日誌を差し出す。
それを受け取った銀八はぱらぱらと中を流し見た後にごくろーさん、と気持ちの篭ってない声で言った。
「それじゃ、俺、部活あるんで」
そう言って鞄を掴んで歩き出そうとした手を、掴まれた。
後ろから引っ張られた身体はバランスを保てずに倒れこみ、銀八の腕の中へと治まってしまう。
慌てて起き上がろうとするのを額に手を宛てて止められ、どうしていいのか判らずに銀八を伺う。
「んー、熱がある訳じゃねーのな。すっげー顔してたから。」
「…考え事、してたんで……」
片手を額に、片手を腰に回されて身動きが取れないのが落ち着かない。
すぐ背後から香る煙草の臭いとじんわりと暖かい体温。
自分よりも大きな身体に包まれて言いようの無い安堵感が身を包む。
落ち着かない。
このままで居るとなんだか泣き出してしまいそうで、強引に銀八の手を剥がして身体を離した。
「多串君って、近藤の事好きだよね。」
突然の台詞に、言葉を失った。
いつもならば簡単に切り返せる筈の軽口が一つも浮かんでこなかった。
目の前には相変わらず生きてるのか死んでいるのか判らない茫洋とした眼差し。
その底が見えぬ瞳に何処まで見透かされているのか、怖くなった。
何も言わずにただ突っ立っていただけの俺の手を再び大きな掌が包む。
ちょっとおいで、なんて言って手を引き摺り歩いて行くのに俺は逆らう事も忘れてただ呆然とついて行くことしか出来なかった。


掴まれた手を振り払う事すら忘れて連れて来られたのは理科準備室。
がちゃり、と冷たい金属音と共に鍵が掛けられたのだけが異様にはっきりと耳に届いた。
今頃になって心臓がばくばくと早鐘のように脈を打ち、顔が羞恥に染まる。
こいつは、何で俺が、近藤さんの事を、
「…なんで、って顔してる。」
思考を遮るように向けられた声には揶揄の色が含まれていて。
普段、無表情な唇が緩い弧を描いていて。
こんな表情も出来るんじゃねぇか、と場違いな感想を抱いた。
こうして間近で見てみれば死んだような覇気の無い顔も造り自体は綺麗に整っていて、もし、中身がこんなマダオじゃなければ相当モテたんじゃないだろうか。
「……多串君?」
声を掛けられて我に帰ると唇が触れそうな位に間近に担任の顔のどアップがあって思わず後ろへと下がろうとしたが掴まれた腕がそれを許さない。
それどころか力強く引かれて正面から担任の腕へと再び収まってしまう。
「ちょ…ッ離せ…ッ」
「だーめ、離したら逃げちゃうでしょ?」
そう言って背へと回された腕に確りと抱き締められて身長差ゆえに俺は奴の肩に顔を埋めるような形になってしまった。
じわりと全身を包む温もりが暖かい。
安堵感がゆっくりと身体に滲んで行くのにそれと同時に訳の判らない恐怖が込み上げて来る。
危険、そう、身体全体がこの男は危険だと警告を発している。
今すぐ此処から逃げ出せと鼓動が喚き散らしているのに強張ってしまった身体は身動き一つ取れずに温もりの中に閉じ込められて居る事を甘んじて受け入れている。
怖い、何が、判らない、逃げたい。
「ねえ、そんなに思い詰めてばかりじゃ疲れちゃうでしょ?」
いつもと変わらないやる気の無い声が今は悪魔の囁きにも聞こえる。
淡々とした語り口調は俺に何を伝えたいのか、何を知りたいのか全く悟らせる事は無い。
背中にあった手がゆっくりと滑って股間へと落ちて行く。
布越しに形を確かめるようになぞる掌が心地良くも気持ち悪い。
「そんな思い詰めてないで、たまには吐き出さないと。」
静かにも手馴れた手がベルトを外してズボンの前を寛げて行く。
微かに響いた金属音は何処か遠くの出来事のようだった。
直接、触れ合う肌と肌。
「ッ――」
「楽になっちゃいなよ。先生巧いから。」


そこから先ははっきりと覚えていない。
抵抗する事を忘れた俺は教材や本が積み重なったままの汚いソファに押し倒されて始めての感覚に惑わされるだけだった。
慣れた手付きで制服を剥がされ、肌の上を這い上がる掌に自分で慰めるのとは違うじれったい感覚が腰元に蟠り。
次第に熱くなる身体がどうしようもなく怖かった。
たくさん撫でられ、舐められ、口付けを落とされて。
そうしてドロドロに溶かされて行った身体を貫かれた。
巧い、と自負していただけあって痛みは全く無かった。
だけど始めての感覚を気持ちいいと認識しつつも恐怖の方が先走って俺は多分、ずっと、泣いていたのだと思う。
子供のように目尻に口付けられて、髪を撫でられて
そうやってあやしていたかと思えば繋がったままの下肢を揺らされて自分の声とは思え無いような声を上げて
熱くて、怖くて、気持ちよくて、どうしていいか判らなくて
涙で霞む視界に映る銀髪の背に力一杯しがみ付いて縋りついた。
何度も何度も飽きるくらいにイかされて、何処からが自分の身体で何処からが銀八の身体か判らなくなるくらいにドロドロに溶け合って、抱き合って
最後に名前を呼ばれたような気がした。
普段の姿から想像のつか無いような甘い声で。
俺はそれが嬉しいのか悲しいのか判らないでまた涙を零した。



ひたり、と頬に冷たい感触を受けて驚いて起き上がってみれば銀八が濡れたタオルを片手に突っ立っていた。
大丈夫?と聞かれて自分の姿を見てみれば制服を足や腕に引っ掛けたまま、身体中に赤い痕と白い痕跡を飛び散らせた酷い姿で顔が熱を持つのがわかった。
ひったくるようにタオルを奪い取って乱雑に汚れを拭って制服を着込む。
銀八はそれを眺めていたけれど何も口にしなかった。
俺も、何を言ったらいいのか判らなくて無言で作業を進めた。
何でこんな事に、何でこんな事に。
考えても判らない、考える事にすら到達しない無限ループな問いをひたすら脳内で繰り返しながら制服のボタンを留める。
一刻も早く、この自由になった手足を動かして此処から逃げたかった。
慣れ無い鈍い痛みを持った下半身が煩わしい。
結局、お互い何も言葉にする事無く、視線を合わせることも無く、俺は無言で準備室を後にした。
もう窓の外はすっかり暗くなって最終下校時刻も過ぎているのだろう。
教室に置き残した鞄を取りに行きながら、明日総吾と近藤さんに言う言い訳を探すのに俺は必至だった。

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