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ゼノサポエム

【669】
死にたいと、思った事は無い。
誰かが私を裁く事を渇望していた。
断罪者は白い狂気に呑まれた兄でも、赤い狂気を内に秘める兄でもどちらでもよかった。
それがヒロイズムに酔い痴れた甘えだと気付いた時にはもう既に手遅れで、処分を先延ばしにし続けた代償は余りにも大きすぎた。
全て、自分で壊した。
アルベドに言われなくてもわかってた。
ルベドを守りたかったら僕を処分すべきなんだって。
僕がルベドを守るだなんておこがましいって。
だから、最後に「君たち」の為に出来る事があって嬉しかったんだ。
その為に今まで存在する事を許されてたみたいに思えたから。
でも、本当は、生まれてこなければ良かったのに。
【666】
苦しみを分かち合うだけが全てでは無い。
そう分かっていても全てが終わった今、心に残るのは虚無感だけだ。
鼓動を共に刻んだ片割れも、26年間ずっと離れずに支え合った弟も結局は自分の預かり知らぬモノを抱えて消えてしまった。
リーダーとは、何なのだろうか。
兄とは、何なのだろうか。
サクラも、アルベドも、ニグレドも、皆居なくなってしまった。
何故、自分は守られたのだろう。
そんな価値、自分ですらあると思えなくなっているのに。
アルベドはいつもぴいぴい泣き喚いて五月蠅い事この上ない。
ニグレドはモノ分かりの良い出来た弟だけれど、ふらりと姿が見えなくなったり、かと思えば一人で物思いに耽っていたりする。
俺は泣いたり一人で膝を抱えたりなんてしない。
だって兄だし、リーダーだから。
ちゃんとしなくちゃ。俺が皆を守らなきゃ。
サクラも、アルベドも、ニグレドも、一応、黄色い上の兄達も、皆俺が守ってやる。
そうやって、ずっと、ただ自分の強さを信じていられれば良かったのに。
【667】
果てない生への恐怖。
U-DOと繋がった事による快楽。
切り捨てたくとも脈打ち続ける左胸の鼓動。
胸の奥で軋む「アタタカナオモイデ」
それと同時に思い出される、何故自分だけが切り離されたのかという怒り。
色んな感情が複雑に混ざり合って自分ですら何を望むのか分からなくなっていた。
その場の感情だけで生きていた。
ユーリエフが目覚めてから、初めて、自分の本当の願いに気付いた時には遅かった。
死を乗り越えて力を持った今ならきっと救う事が出来たのに。
二人では無く、三人で生きる道があった筈なのに。
チチオヤだと言う男は僕を「失敗作」だと言う。
ルベドよりももっと兄なのだという出来損ない達は僕たちを「怪物」だと言う。
けれどルベドとニグレドだけ僕を「兄弟」だって言ってくれる。
僕たちは誰にも負けないキズナって奴で結ばれていて、ずっと仲良しなんだ。
二人が居れば寂しく無い。
ちゃんと練習してるから、二人が死んでしまってもきっと大丈夫。
だからそれまでは、ずっと一緒に居て欲しかったのに。
サクラなんて い な くなれ  ば い   い    の      に 

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ヒソイル

それは死人の温もりだった。
纏う空気すらひんやりとした温度は人に非ず、されど触れればぬるりと染みだす熱は人形に非ず。愛らしさを強調する筈だった大きな瞳はただ静かに内側の闇だけを見せつけて愛でるには程遠い存在感を醸し出す。
この奇怪な生き物の生態を探るのは人のみに許された好奇心だ。
近づけば警戒する訳でも無い。手を伸ばしたって噛みつく事も無い。だが指を絡めて抱き締めた所で冬の冷気にも似た壁がそっと其処に在るままで何一つ手に入れる事が出来ない。何処までも受容するようでいて全てを跳ね返す柔らかな壁の存在。それが余計に幼い好奇心を育てる事を、本人は知らない。
近くまで来てるから、遊んでよ。
なあんて冗談みたいなメール一つであっさりと呼ばれてくれる安さは初めこそ驚いた物だけれど、今となっては律義に指定された時間には待ち合わせ場所で一人佇む几帳面さと合わさって根の真面目さを感じるだけなのだが。ヒソカはいつだって時間を守る事は余り無かったけれど、最近ではイルミとの待ち合わせの時だけ、時間を守るようになった。それは決して相手を待たせてる事に気兼ねするという理由では無かったが。
蒼褪めた空気の中に埋もれるようにしてひっそりと建物の前に立つイルミの色彩は薄い。意識して見れば、際立つ黒髪と原色の多い服装は派手と言ってもいい筈なのに希薄な存在感。鼻まで埋もれそうな程に巻き付けたマフラーに顔を埋めながら視界は何処を見るでもなくただ人形のように透き通っていてまるで街頭に立たされたマネキンのようだ。不意にそのマネキンの内側の温度を思い出してヒソカの口角があがる。
と、その瞬間に色を持たなかった瞳がひたりとヒソカに焦点を合わせる。人波を幾重にも乗り越えた向こうのカフェテラスで優雅に座ったまま重なる視線が不快を呼んだのか、能面のような顔に初めて表情が乗る、その一瞬。人形の内側に隠し持つ何かに触れたような気がしてまたヒソカの好奇心を煽る。
「悪趣味なのは知ってるけどそういうの止めてくれない?」
観察を止めてイルミの元に辿り着くなりの一声には既に感情の破片も見られない。言葉だけが意味を持ち、含む物を何も感じさせない能面の壁。まるで中を覗くなと牽制されているようで、これだからイルミはたまらないとヒソカは思う。こみ上げた衝動のままに冷え切った体を腕に包んで陶器のような額に唇を押しつけさせてもらえる許容と、決してヒソカの背に回る事の無い腕の拒絶。
「ゴメンゴメン、ボクを待ってる君が可愛くてつい♥」
「てゆーか寒いんだけど。誰かの所為で。」
ひやりとした壁を満喫するように懐くヒソカのさせたいようにしていたイルミの見上げる至近距離の瞳の中には感情が見えないのに要求を伝える術を持っていて、ヒソカはその瞼にも愛しげに口づけを一つ落としてから背から腰へと腕を滑らせ貴婦人をエスコートするようにそっと歩く事を促す。
そうすることで漸く、イルミの存在感が生まれたような気がした。

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監督と主将

「明後日、キセキの世代のスカウトに行くんですが、一緒に来ませんか?」
さも今思い出したと言わんばかりの誘いは原澤らしからぬタイミングだった。
「ピロートークにしてはムード無いんちゃうん?」
だから今吉は茶化した答えを返してみるも、原澤は至って変わらぬポーカーフェイスを崩さない。
「すっかり話すのを忘れていましたので。此処で言いそびれたらまた忘れそうですし。」
あたかもどうでも良い事のように話す割に、原澤が誘うからには何かしらの理由があるのだろうと今吉は小さく息を吐く。
自分が周りから腹に一物を抱えていると思われているのは十分承知しているし、実際そうだと思うのだが原澤はその自分と同等かそれ以上に腹が黒いと思う。
だが今吉と違って胡散臭さを感じさせない、冷静な大人の落ち着きとして表れているのは生きた年月の違いだろうか。
煙草を取ろうとサイドボードへと手を伸ばす原澤の腰へと擦り寄って緩く抱きしめればまだ乾ききらない汗がしっとりと肌に染み込んだ。
体格は然程今吉と変わらないが、現役を退いて年月の経つ原澤の身体は薄い筋肉を纏っただけの細い身体なのにこうして体温を分け合っていると酷く落ち着く。
「まあ、ええねんけど。何企んでるん?」
「企んでるだなんて酷い言われようですね。…少々、手のかかる子のようなので歳の離れた私よりは同年代の子と話した方が説得しやすいかと思っただけなんですが。」
くしゃりと頭を撫でる手の心地よさに目を閉じるとジッポが立てる小さな金属音、それから苦い、煙草の香り。
俺も、と手を伸ばしてアピールしてみるが、駄目です、と即座に拒絶されて優しく手を握られて指先に口づけを落とされる。
まさか自分がこんなにも穏やかに丸めこまれる相手が居ると思っていなかった。
いけず、と小さく幼子のようにぼやけば頭上で笑う吐息が聞こえた。


//////////////////////////////////////////////////////////


原澤にとって、今吉という生徒はありのままに言うなれば「都合のよい人間」だ。
同じ同性を性対象とする人種であり、お互いの間に恋愛感情が無く、余計な事を言わずに心地よい距離感を保って行ける子供。
倫理観の無さ等とうの昔に自覚しているし、きっと今吉とて今更貞操観念云々を説いた所でもう変わる事は出来ないだろうという確信がある。
良くも悪くも原澤と今吉は似ている。
きっと今吉にとっても原澤は「都合のよい人間」であり、余計な事を言わずとも今吉にとって心地よい場所を提供出来る相手なのだろう。
ともすれば同族嫌悪に陥りやすいタイプの二人だが、手を取ってさえしまえばこんなにも居心地が良い。


帝皇中学校へと向かう日。
原澤の運転する車の助手席に収まった今吉は何処か上機嫌だった。
「しかしよくキセキの世代がまだ残っとったなあ、粗方有名所に持ってかれたと思っとったわ」
「どうも、片っ端から引き抜きを断っているらしいですよ。そのお陰で私達にもチャンスが巡ってきたわけですが。」
「これで今日会いに行くのが幻のシックスマンとかやったら笑うで」
桐皇のモットーは「勝てば官軍」だ。
声高に掲げているわけでは無いが、この一年でゆっくりとその意識が浸透していった、というよりもさせていった。
まず、レギュラーはある程度の年功序列があったのだが、一切無くして実力主義になった。
スカウトに力を入れ始めたのも有り、今年こそはレギュラーになれると期待していた三年生の多くが実力の前にベンチ入りを余儀なくされ、太刀打ち出来ない実力の差にその多くが辞めて行った。
次に、WCが終わり当時の三年生が引退した後、主将にはまだ一年生だった今吉を選んだ。
原澤の私情を挟んだ訳ではない、単純に部を引っ張って行く人間として、今吉以上に相応しい人間が二年生の中に見つからなかったのだ。
そして今吉は原澤と同じく、「勝つ為のチーム」を求めていた。
仲良しこよしのチームも、高校生活の良い思い出作りも必要無い。
必要とするのは純粋に「強い選手」。
幻になってしまうような選手等、桐皇に来た所で役に立たないだろう。
「今日の相手、当てたろか。青峰やろ。」
信号待ちで停車した一瞬に横目で見やれば、どや、と自信に満ちた双眸にかち合う。
原澤とプライベートな時間にならともかく、制服を着たままそんな年相応の幼さを見せつけられて思わず微笑ましさに口許が緩む。
「ええ、そうですよ。よくわかりましたね。」
「問題児で、ワシが必要そうな相手やろ?アイツの他に居らんわ」
満足げにシートに背中を押しつける姿に耐えきれず喉奥で笑うと、何笑ろてんねん、と頬を摘まれた。


//////////////////////////////////////////////////////////


青峰との面談は恙なく終わった。
あえて原澤と今吉、別々に会った事で何かしらの結果が出て居れば良いと思う。
「青峰落としたで。あいつ絶対桐皇来るわ。」
車で待つ原澤の元へと戻るなり断言する今吉に、この選択が間違っていなかった事を理解する。
今吉が来ると言ったなら、きっと青峰は来るのだろう。
しかし。
「諏佐君や若松君はいいですけど、あんな繊細そうな子には手を出さないで下さいよ」
「なんや、人を色情狂みたいに」
「間違って無いでしょう。青峰君のような子に君は手に余ります。」
「諏佐や若松なら手ぇ出していいんかい」
「だってもう手を出しているのでしょう?それを咎めた事がありますか?」
かなわんなあ、と笑う今吉を乗せて車は滑らかに走り出す。
夕日がふつりと地平線の向こうへと消えて辺りは急激に暗くなり始めていた。
灯るネオンや街灯が眩しく見えるような景色を横目に、隣では今吉が締めたばかりのシートベルトを外して原澤へと身を擦り寄せる。
「こら、シートベルトをしなさい。」
「な、ご褒美、ちょーだい。俺、克徳さんの思惑通り青峰落としたで」
そっと耳元に落とされる囁きと頬に落ちた唇は期待を滲ませて熱を帯びていた。
運転中でさえ無ければすぐに応えてやりたい所だがいかんせん、まだ家までは大分ある。
「家まで待てないんですか。」
「待てへん。ちゅーか、克徳さんが思い出させたんやん、諏佐とか若松の。」
勃ってもうたわ、とギアを握る手に一度押しつけられた股間が制服越しにもはっきりと固くなっていて原澤は体温が上がるのを感じた。
だからといって制服を着たままの今吉を連れてホテルになぞ入れないし、車の中で事に及べる程、人気の無い場所でも無い。
はあ、とため息を一つ落として原澤は今吉を見た。
「私まで煽ってどうするんですか。ご褒美の前に躾が必要ですね」


//////////////////////////////////////////////////////////


大通りから外れた住宅街の中にある少し大きな公園。
すっかりと暗くなった空の下、路上に車を置いて公衆トイレへと向かう。
行き交う人々は家路を急ぐばかりで、わざわざこんな場所で用を足す事も無いのだろう、暗い中で煌々と白く光るトイレはしんと静まり返っていた。
掃除はされているのだろうが拭いきれない臭いと其処此処に見える黄ばんだ汚れが変に興奮を呼び覚ます。
「相手して欲しいのなら、舐めなさい」
狭い個室へと大柄な男二人で入り込むなり熱い吐息に命令されて今吉の身体がぞくりと震えた。
流石に床に膝をつくのは躊躇われたので蓋を閉じた便器の上へと腰を下ろして原澤の股間をまさぐる。
スーツのジッパーを下ろして鼻先を突っ込めば雄の香りがアンモニア臭に混ざって脳が溶けそうだ。
下着の中から半勃ちのペニスを引きずり出して先端へと口づけを落とす。
これが固く太く勃起して今吉の中を突き上げてくれるのだと思うと愛撫にも熱が入るというもので、先端の薄い皮膚を舌先でくすぐってから徐々に口の中へと咥え込んで行く。
ひく、と口の中で跳ねるのが愛しくて喉奥まで深く咥え込んで全体を唾液で塗れさせてやると頭上で熱の籠った息が吐き出されて今吉は原澤を見上げる。
「いい子ですね」
そう言って頭を撫でてくれる掌は優しいのに、いつも穏やかな瞳が嗜虐的な色を帯びて熱っぽく潤んで居るのに今吉はたまらなくなる。
早く、一刻も早くその熱をぶつけてもらいたくて自然と口蓋から喉奥までを使って幾度もペニスを口内で擦らせる。
時折喉奥を突いてこみ上げる吐き気や息苦しさも慣れた物だ、時折噎せながらこみ上げる粘度の高い唾液を丹念にペニスへと塗す。
「本当にそうしていると色情狂そのものですね。ほら、もういいですよ、立ちなさい。」
原澤の嘲笑は今吉にとって性的な刺激にしかならない。
漸く唇から離れたペニスに、足りなくなった酸素を取り込もうと自然と呼吸が荒くなる。
壁へと手をつく形で原澤に背を向けて立つとゆっくりと制服のズボンが解かれてゆく。
ベルトを外す金属音、ジッパーを下ろして下着ごと膝までズボンをずり下げられると触られずとも先走りを溢れさせたペニスがぬちゃりと糸を引いた。
「もうこんなになってるんですか。…はしたないですね。」
ふふ、と背後から笑う吐息が耳に触れて肩が跳ねる。
確かめるようにペニスに触れる指先が先走りを塗り広げるように擦るだけで今吉の下肢が甘く痺れて膝が震えた。
「っは、…ぁ、…」
「もうお待ちかねのようですし…少しくらい痛い方が好きですものね」
ひたりと後孔へと宛がわれた熱にこみ上げる期待で腰が揺れる。
早く飲み込みたくて腰を押しつけるも原澤は尻の合間へとペニスを擦らせるだけだった。
「早く、…克徳さん…ッ」
「少し待って下さい、躾だって言ったでしょう?」
ご褒美じゃないんですよ、と再びペニスに触れられて何かと思う間も無く根元に走る痛み。
「や、…ッ嫌や、それ…ッ」
逃れようにも背後から覆い被さられた状態で膝にズボンを蟠らせていれば然程動ける訳も無く、手早く為された痛みがゴムか紐を巻き付けられて…要は射精を堰き止められたのだと知る。
じんじんと血が止まって鈍い痛みが徐々に下肢に広がって膝が萎え落ちそうだ。
「嫌、じゃないでしょう?痛いの好きじゃないですか。」
今度こそ、後孔へと触れた先端が先走りの滑りだけを頼りに狭い入り口を無理矢理こじ開ける。
ず、ず、と力尽くのようにして徐々に奥へと突き入れられるペニスは滑りが足りないのだろう、奥へと進む度に色んな所が引き摺られて痛みが走る。
「っゃ、あ…ッあ、…痛…ッ」
壁に爪を立てて必死に力を入れて居ないとしゃがみ込んでしまいそうな位に膝が震えるのが痛いからなのか気持ちいいからなのか分からない。
ただ、原澤もそれなりの痛みを感じているのだろう、荒い息遣いが肌をざわつかせて止まらない。
頭からつま先まで熱くて熱くて、熱が出た時のように視界が滲む。
漸く全てが収まった頃には今吉も原澤も荒い呼吸で肩を上下させるばかりで、滲んだ汗でシャツが肌に張り付いて何とも言えない感触だ。
「は、…動きますよ…」
宥めるように耳朶に口づけ一つ、それから宣言通りにずるりと内臓ごと持っていかれるような勢いで引き抜かれて背筋を駆け抜ける快感、それからずん、と一気に重く突き上げられて今吉から細い悲鳴が上がった。
入口が裂けたのか出入りを繰り返す度に滑らかさを益す動きに射精感が増すのに堰き止められた出口は何も吐き出させてくれない。
幾度も電流が走り抜けるような心地よい場所を固く熱いペニスが抉り取って行くのに高めるだけ高められた熱が吐き出す場所を無くして身体の中で渦巻く。
「…ッも、…っゃやぁ…ッあ、…ッ苦し…ッ」
「躾、だと言ったでしょう、…っ」
嫌だと言いながらも逃れず原澤のされるがままを受け止める今吉は征服欲とでも言うのだろうか、酷く凶暴な感情を呼び起こして止まらない。
もっと泣かせたい。もっと鳴かせたい。
本当ならばもう既に何度かイっているのだろうに、未だにイけずに熱を持て余す今吉の中はとても熱い。
自身は達せないというのに突き上げるたびにびくびくと絡み付くようにペニスを締め付ける粘膜に誘われるがまま、原澤は今吉の中へと白濁を叩き付けた。


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「さて、それでは帰りましょうか」
そう言って身繕いをする原澤は出すモノ出してすっきりしたから良いだろうが、熱を高めるだけ高めておきながら吐き出す事の出来ない今吉にはたまったものじゃない。
「無理やぁ…っせめてこれ解いて…っ」
「駄目ですよ、我慢なさい」
取り付く島もなく、それどころか今吉の先走りでぐちゃぐちゃに濡れそぼったペニスを無理矢理下着の中へと押し込めて衣服を整えられる。
今吉は縛られている上に下着に圧迫された股間が痛くて前屈みになるしかないと言うのに原澤は涼しい顔だ。
「ほら、行きますよ」
涙と汗に濡れた顔をおざなりにハンカチで拭われて外へと引きずられるようにして歩き出すと、ぬちぬちと濡れた音がペニスを掠めて一歩歩くごとに下肢が甘く痺れる。
路上に停めたままの車までの短い距離がとてつもなく遠く感じる。痛いのに、ぬるぬると擦れる布地が気持ち良くて、縺れる足をなんとか原澤に支えてもらってなんとか車へとたどり着く。
助手席にけだるい身体を沈めて渦巻く熱に耐える今吉のシートベルトを装着させる原澤はこれ以上、何もしてくれないだろう、今は。
「辛そうですね」
笑いを忍ばせて囁くだけで車は再び走り出す。
今吉にはもはや早く家に着いてくれと願う事しか出来なかった。


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原澤の家に帰り着いた頃には持て余した熱で今吉はぐったりと原澤に身を任せっきりになっていた。
縛られたまま、発散することも落ち着かせる事も出来なかったペニスは鈍い痛みを絶え間無く産んで今吉を悩ませる。
「克……徳…さん…」
広いベッドの上に転がされて漸く解放されるかもしれないと思うと情けなくも涙で声が震えた。
早く楽になりたくてなんとかズボンを緩めて脱ぎ始めても原澤は知らぬ顔でネクタイを緩めただけの恰好で今吉に触れようともしない。
「私は先程満足させて頂きましたからね。貴方と違って若く無いんですからそうすぐに何度も相手はしてあげられませんよ」
困ったように眉尻を下げてみせてもその瞳に浮かぶのは嗜虐の楽しみに煌めく光だ。
もう耐え切れない程に痛くて苦しいはずなのに、それを見たら今吉の身体に期待で震えが走る。
「とは言っても…貴方もそろそろ反省したでしょうから。暫くこれで遊んでなさい」
サイドボードの引き出しを開ければ今吉も今までに馴染みのある玩具が幾つも入っている。
そのうちの一つを無造作に渡されて今吉は原澤を見上げる。
「私がその気になるくらいいやらしい姿を見せてくれたら、その紐を解いて上げますよ」


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制服のジャケットも脱がないまま、衣服を纏わない下肢の中心で血流を止められ変色したペニスがそそり立つ様は酷く滑稽だと思う。
それをわざわざ見せ付けるようにはしたなく足を開いて、先程中に注ぎ込まれた白濁を垂れ流す穴まで曝していればなおさら。
けれど原澤が見ている。
涼しげな顔で、こちらに興味が無いような顔をしながら舐めるような視線が今吉だけを見ている。
たったそれだけで今吉は逆らう事も思い付かずに言われるがまま玩具をひくつく入口へと宛がう。
「んっ…ふぁ、…っ」
中にモーターが仕込まれた玩具の表面は案外ふにふにとして柔らかい。
男性器を模した太めの傘をゆっくりと押し込めれば先程まで本物をくわえ込んでいたそこはさほど抵抗なく飲み込んで行くが、淡く入口に走る痛みはやはり先程切れていたからだろうか。
奥まで飲み込んで、それからゆっくりと引き抜く、それだけでも餓えた粘膜が絡み付いて小さな電流を流すような痛みと共に全身に熱がさざ波のように広がって行く。
自然と震える内腿を擦り寄せながらまた奥に押し込んでは引き抜くだけの単調な動きでも柔らかさと固さを兼ね備えた玩具が粘ついた水音を立てて中をごりごりと擦り上げて、縛られてさえいなければもう何度達したか分からない程に気持ちいい。
「っは、あ…っぁ、…ぁ」
達せないのは分かっているのに気持ちよさに負けて同じ場所ばかりを擦ってしまう。
けれど達せない。
後少しで見えそうな場所を求めてシーツから強張った尻が浮いて揺らめく。
羞恥を感じ無い訳では決してないが、早く解放される為ならばこれくらいの恥ずかしさ等ちっぽけなものだ。
籠る熱が視界を滲ませるが、頬を零れ落ちるのがもう涙なのか汗なのかもよくわからないくらいに熱い。
「克徳さん…ッ克徳さんっっ…」
縋るものも分からなくてただ震える声で名を呼ぶ事しか出来なくなった頃に漸く原澤がベッドへと近づいてくる気配を輪郭の滲んだ視界で認識する。
下肢へと伸びる手にやっと解放してもらえるのかと力を抜いた瞬間。
「っっっっっ―――――!!!!」
内臓ごと揺さぶるような振動に声にならない悲鳴を上げて全身が強張る。
ただゆっくりと擦るだけでもたまらないというのに容赦なく震える玩具は今吉の意思を離れて耐え難い快感だけを叩きつけてきて眼の前が真っ白に染まった。
射精した時のような快感が途切れる事無く今吉を襲い、何も考える事が出来ない。
がくがくと強張り過ぎて震える身体が全部溶けた蝋のように熱い。
嫌や、怖い、気持ちいい、克徳さん、何か口走ったような気もするが、刺激に耐えきれなくなった今吉の意識はやがてブラックアウトした。


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意識を失っていたのはほんの一瞬の事らしい。
頬に触れる少しかさついた感触に瞼を開けると捕食者のような原澤の瞳にぶつかり思わず身を竦ませる。
「本当に、貴方は私を煽るのがお上手ですね」
もう涙なのか汗なのか涎なのか分からない液体で濡れた顔に落ちる唇の感触は優しいのに、いつの間にか解かれていたのか腹の上にぶちまけられた精液を萎えた性器へと塗り込む掌は酷くいやらしく今吉を次に誘う。
強烈な快感を味わった後で頭も身体もすっかり抜け殻のようだと言うのにぞくりと駆け抜ける何かが怖い。
「ちゃんとその気にさせて頂いたので、お相手して差し上げますね?」

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おせっくす事情妄想

【木日】
積極的なのはどちらかと言えば日向。
木吉は淡泊な方で、日向は普通のDK並。
特に変なプレイに走る事も無く、安定して愛を育むようなおせっくす。
相手が気持ち良いと自分も気持ち良い派。
良くも悪くも普通。
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家の人が出払った日に、泊りの誘いなんてされたら健全な男子高校生としてソレを予想しない方が不自然だ。
日向と木吉、いつも通りにしているつもりでも何処となくふわふわとした空気が漂っている。
買ってきた弁当を食べて、軽く片付けをして。
風呂入る?なんて簡単な問いかけさえ、まるで何かを期待しているかのような卑猥さが感じられて照れが混じる。
まだ一緒に風呂に入るなんて恥ずかしくて言いだせ無くて、二人共ちらちらと物言いたげな視線を送りながらも黙って一人ずつ風呂に入る。
木吉が先に、日向が後に。
それはなんとなくそういう事をする時に決まって来た暗黙の了解って奴で、それくらい回数は重ねているのに、いざ事に及ぶまでの何とも言えない気恥ずかしさと緊張感が抜けない。
先に風呂から上がった木吉はスウェットだけを履いてベッドの上、無駄にシーツを綺麗に張り直してみたりする。
ゴムやローションはちゃんとすぐ取れる場所に用意したし、きっと今頃日向は一人風呂で前準備をしている筈だ。
その光景を想像しただけでも期待に勃ち上がりそうな股間を押さえつけてベッドに転がる。
早く出てきてこの欲をぶつけたい。けれどまだ出てきて欲しく無い緊張でどうにかなりそうだから。
ごろごろと無駄にシーツの上を転がっていればぺたぺたと静かな足音が聞こえる。
緊張した顔の日向が扉を開けるまで、あと少し――
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【火日】
はらぺこな虎と、ほだされがちな飼い主。
お腹を空かせた火神がついつい日向に食らい付いてなし崩しなパターンが多い。
けど絶対に乱暴にはしないし、本気で日向が嫌がるようならちゃんと我慢も出来る。
食べていいってお許しもらったら日向がとろっとろになるまで全身隈なく愛してくれます火神くんまじ紳士。
日向も愛ゆえの事とわかっているからあんまり強くは拒否れない。
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がぶり。
不意に項を齧られてびくりと日向の肩が跳ねる。
痛くは無い、けれどくすぐったいでは収まらないような微妙な力加減でがじがじと齧られる。
「おい火神何してやがる」
背後から腹に回された腕はがっちりと日向を捕らえて離す気配が無い。
肘で腹を押しても余り効果は無く、逆にこれでもかと言わんばかりに抱き締める力が強くなる。
「腹減った……です」
「今食ったばかりだろーが、足りなかったら何か作ればいーだろ」
「違ェです。…主将が食べてぇ」
きっと淡く歯型が残っただろう皮膚の上を熱い舌がべろりと這えば、ふわりと日向の体温が上がる。
それを火神に知られたく無くて、強引に身を捩って逃れても結局腕の中に囚われて、今度は正面から抱き合う姿勢になった。
「主将…」
こつりとおでこを合わせて間近の瞳が日向に訴えかけてくる。
熱を孕んで居るのに何処か大型犬を連想させるような表情に、日向は弱い。
まるで垂れた耳まで見えてくるような顔に、まるでこちらが悪い事をしているような気になってしまう。
「…洗い物終わらせちまうから、少し待ってろ。」
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【青今】
俺様暴君と腹黒策士のぶつかり合い。
青峰ににいいようにされているように見えて、掌で転がしてるのは今吉。
DT青峰と、男女共に経験あるビッチ今吉だと個人的に萌える。
青峰のベッド上でのテクは全て俺が仕込みましたドヤァな今吉さんまじビッチ。
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「今吉サン、…」
いつもならば考えられないような、躊躇いを含んだ声が今吉を呼ぶ。
同時に伸ばされた手は今吉の肩を強く掴むのに、其処から押し倒すでも引き寄せるでも無くて、まだ戸惑っているのが丸わかりだ。
「どした?」
暴君の、未だ幼い部分が垣間見えるようで思わず口角が釣り上がりそうになるのを堪えて今吉はそっけなく問い返す。
色気も何も纏わない問い返しに、青峰が少し不機嫌に眉を潜めるのが予想通りでたまらない。
「眠なったん?せやったら先に寝てええで?」
じわじわと服越しでも分かる掌の熱さに知らぬ振りをしてベッドを顎で指してやれば流石の青峰も意を決したらしい、ぐっと肩を押して圧し掛かる体重、それと共に塞がれる唇。
そこまでしても尚、ぎこちなく伸ばされる舌には遠慮が見えてそっと手助けするように今吉から舌を絡め取ってやる。
遠慮か、緊張にか、変に腕で体重を支えたまま空に浮いた身体を両腕でそっと抱きしめるようにして引き寄せてやっと、絡まる舌の動きに隠しきれない劣情が宿る。
いずれ、キスもちゃんと教えたらんとな、と思いながら今吉は服の下へと忍びこんだ腕の熱さに身を任せた。
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【諏佐今】
お人よしな苦労人と、それを弄るのが趣味な変態。
精神的にどえすで肉体的にどえむな今吉さんによる諏佐を使ったおなぬーに近い。
それでも愛はある多分。
たまに今吉の面倒臭さにキレると諏佐がどえすにシフトチェンジするから止められない、止まらない。
諏佐に乱雑に犯されるなんてこの業界ではご褒美です^^^^^^^^
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「諏佐ぁ、」
甘ったるく媚びるような声で今吉が呼ぶ時、決まって碌な事が無い。
それを知っている諏佐は、何だ、と問い返してやりながらも課題に走らせるペンから目を離さない。
けれど今吉とてそれくらいで諦めるような性質では無い。
諏佐に聞く気が無いと分かればするりと腕を絡めて纏わりつく体温は悪い物では無い。
が、タイミングが悪い。
そろそろ日付も変わろうかという頃、明日提出期限の課題を片付ける諏佐には今吉にかまっている暇等無い。
はいはいと適当に髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜるついでに適当に押し退けたのが、不味かった。
押しのける腕を避けてぴたりと抱きついた今吉の腕が諏佐の股間を明らかな意図を持って撫でる。
媚びて窺うだけだった今吉が強引に事を進めようとし始めたのだ。
動かすペン先には影響が無いように、だが大胆に絡み付く掌は諏佐の熱を煽り、唇が其処彼処を這う。
正直に言えば、鬱陶しい。
まだ終わりが見えない課題と闘う諏佐に取って、横で勝手に発情している今吉は邪魔でしか無い。
けれど此処で変に押し退けた所で、すっかりやる気になっている今吉は中々離れる事は無いだろう。
「…面倒臭ェ…」
ならば、さっさと今吉に満足頂いてお帰り頂くのが一番早いのだと諦めの境地で今吉を乱雑に床へと引き摺り倒せば、痛みに一瞬、噎せながらも期待に満ちた眼差しが諏佐を見上げる。
全て、今吉の思い通りなのだと思うと釈然としない物はあるが、ため息一つでそれを追い払い、諏佐は今吉へと覆い被さった。
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【紫氷】
お菓子の妖精の皮を被った普通のDTDKと、妖精を性的な目で見る事に罪悪感を覚える妖精信者。
年上の綺麗なお姉様と僕、な紫原と、子供だとばかり思っていた年下の男の子が急にかっこよく見えて困っちゃう氷室。
紫原にやりたいってお願いされると断りきれない氷室なので案外変なプレイも経験済。
縛ったりとか、野外とか、異物挿入とか。
むっくんの好奇心のままにおせっくすの幅が広がるよ!!!
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「ねー室ちん、これ見てー」
無邪気な顔で紫原の差し出したそれに氷室は思わず言葉に詰まった。
明らかに男性器を模した形状、ぷにぷにと柔らかそうな表面、それから根元から伸びるコードに四角い箱。
どう見ても大人の玩具です、本当にありがとうございます。
荒れ狂う内面をなんとか笑顔の奥に押し留めて、差し出されたそれを見ないように紫原を見上げる。
「どうしたんだい、コレ。余り、簡単に手に入る物とも思えないんだけれど。」
「えっとねー、赤ちんがねー、室ちんに使ったらいいって送って来てくれたー」
間延びした幼い喋り口は可愛いが、言っている内容は氷室に衝撃しか与えない。
大人の玩具を送りつける高一男子って何だ。
使ったらいいって、それはつまり赤ちんとやらは紫原と氷室のあれそれを知っているという事か。
むしろその見知らぬ相手がこれを使えと言っているのか。
突っ込みどころが多すぎて固まった氷室にかまわず紫原はソレを手にしたままぎゅうと氷室を抱きしめる。
氷室とて日本人にしては身長の高い方だが紫原の腕に包まれてしまえばすっぽりと収まってしまう。
子供が抱きつくような遠慮のない強さで、だが耳元にちゅ、とリップノイズを落とすなんて姑息な大人の手を使って氷室を陥落させようとする紫原の要求はもはや言われなくても分かっている。
わかっているのだが。
「ね、これ、今日使ってみていい?」
断りたいと理性が訴えていても、じっと見つめる紫原の瞳に抗えるわけが無い。
明日の朝練出れるかな、と氷室はぼんやり思いながら紫原を抱きしめ返した。

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火日が従弟 3

黒子がそれを知ったのは本当にただの偶然だった。
梅雨が明けて一気に気温を上げた初夏の夜、部活を終えた黒子はいつものようにマジバで火神と数分振りの再会を果たした。
毎度毎度、黒子が座る席にやってくる火神は一瞬驚いたように身を強張らせるも、またか、と言った態ですっかり驚かなくなってきた。
そのまま、向かいに腰を下ろした火神はトレーに山盛りになったハンバーガーを、黒子は両掌で包み込めるサイズのバニラシェイクを黙々と腹に収めながら時折、思い出したように取りとめも無い話をする。
すっかり定番となったその光景に割り込んだのはやけにリズミカルに弾む男性ボーカルの着メロ。
到底日本語とは思えない歌声はきっと洋楽なのだろう、黒子が火神へと視線を向ければあちらも黒子の事を窺うように見ていたので、どうぞ、と言う代わりに一つ頷いて見せた。
無言の肯定を正しく受け取った火神はただ一言、悪ぃ、とだけ告げて腹式呼吸の効いた歌声を止めて電話へと出た。
「もしもし?……うん、え?……いや、まだマジバだけど。」
一度了承を得たから口元を隠す訳でも、声を潜めるでも無く。
背凭れにどっかりと体重を預けて普通に喋っているかのような声で話す火神のそれはアメリカ帰りだからなのか、それとも元々の素質なのか判断しかねるが此処まで堂々と喋られては電話の内容に聞き耳を立てないように、なんて気遣うのも馬鹿らしくなって、黒子はこの時間特有の学生達でさざめく店内の騒音に紛れない火神の声に耳を傾ける。
「一緒に晩飯の材料買って帰ればいーかなって思って待ってたんだけど」
「…別にいーよ、一緒に買い物ってしてみたかっただけだし。」
「うっせーよ。…つか、そもそも直接ウチに来ちまえばよかったのに。どうせ必要なモンは殆ど置いてあんだろ?」
何だろう、この、不思議な会話は。
まるでお泊まりデートに浮かれている男の会話でも盗み聞いているような気分にさせられて思わず黒子は火神を見詰める。
火神は普段から笑わない、という訳ではないがそんな無邪気に笑顔振りまくようなキャラじゃなかった筈だ。
電話相手を想っているのか窓の外へと向けられた眼差しは普段の眼付の悪さの真逆を行くような柔らかさで知らない人でも見ているような気分にさせられる。
「え、服なんて俺の着てれば…ッッ悪ぃ、悪かったってば、…ッ」
エロ親父か。
思わず口に出しそうになった言葉を寸での所で抑え込む。
電波の向こう側で相手が怒っているのか肩を竦めながらも火神は何処か楽しそうだ。
ほんの僅かに漏れ聞こえる電子音塗れの通話相手の声が誰のモノかなんて判別付く訳が無いが自然と先程よりも興味を持って会話に耳をそばたててしまう。
「ん、わかった。じゃあまた後でな」
けれど無情にも会話はそこで途切れてしまった。
まるで仄めかされるだけ仄めかして置いて回収されきれなかった伏線のようで気持ちが悪い。
だが物語は此処で終わりでは無い、眼の前には当事者という語り部がまだ存在するのだから。
満足げに携帯をポケットへと仕舞っていた火神が黒子を見た途端にびくっとその幅の広い肩を震わせた事なんて些細な蛇足だ。
「おま…っ…なんだよ、顔怖ェぞ」
「火神くん、今日はお泊まりデートですか」
「デー…いや、そういうんじゃねぇよ」
「じゃあなんですか、恋人でも無い人をほいほい連れ込んでしまうような節操無しだったんですか君は」
「連れ込…っだから違ェって言ってんだろ!!」
怒鳴りながら真っ赤になるなんて何を想像したんですか火神くん。
そのまましおしおと萎れてごつんと勢いよくテーブルに突っ伏してしまった火神はうー、だか、あー、だか言葉にならない声で唸っている。
少し様子を見ようと黒子はシェイクを啜るが、ずず、と音を立てたストローはあっさりと重たいバニラシェイクの抵抗を無くして空になってしまった。
諦めて軽いカップをテーブルに置くとなんとは無しに火神を眺める。
火神は外見だけならばそれなりにモテる容姿をしているように思えるのだが、いかんせん本人がバスケ以外に無頓着過ぎる。
話してみれば決して悪い人では無いと分かるのだが、そもそも火神は自分からバスケ部以外に話に行く事が余り無い。
男子ならともかく、女子からしてみれば高身長で無愛想な男なんぞ威圧感以外の何物でも無いだろう。
一部の男慣れした女子や、見た目をモノともしない女子以外は喋っている姿すら余り見かけない。
男子とならばそれなりにクラス内でも交友関係を持っているようだが。
そんな火神が家に連れ込むような相手とは。
クラスメイト以外となれば黒子にもお手上げだが、クラスの中ですら話しかけらる女子が少ない現状、それは無いだろう。
だとするとクラスメイトの中の誰か、という事になるがそれはそれで腑に落ちない。
隠しごとが得意な方には見えないから学校の中では隠しているなんて器用な事は出来ないだろうし、火神と喋る事が出来る女子の中にそれっぽい人は居ない。
これは随分と推理しがいのある謎だと俄然やる気を出した黒子の前で少し落ち着いた様子の火神がのっそりと顔を上げる。
顔の赤みは収まったようだが額だけ丸くくっきりテーブルの跡がついていた。
「…主将だよ、泊りに来んの。女とかじゃなくて」
「え、主将が恋人だったんですか?」
「違ェよ!いい加減恋人から離れろよ!そうじゃなくて……従兄弟なんだよ、主将。」
「……はい?」
不貞腐れたように視線を逸らしながら重い唇から紡がれた言葉は予想だにしない関係だった。
今まで知っている限りの火神の知人と繋げたり離したりしていたピンク色の線が全て吹っ飛んで日向と火神の間に一本の線が引かれる。
この場合、何色の線にすればいいのだろうかとかどうでもいい事が過ぎった。
「口止めされてた訳じゃねぇんだけど…別に言う機会も無かったから…」
言い訳のようにもそもそと喋りながら火神が放置されていたハンバーガーへと再び手を伸ばす。
包装を向いて一口、二口、三口で殆ど食べきってしまう姿は常よりも急いでいるのかすっかり向かい合って食べる事が当たり前となった黒子ですら驚いた。
いや、その前の言葉の方がよっぽど驚いてはいるが。
「でも…入部した時、初対面のような雰囲気だったじゃないですか。そもそも今でもそんな旧知の中だったとは思えないんですけれど」
「あー、あんときはまだ、お互い気付いて無くて。一緒に遊んでたのって俺がアメリカ行く前だったし、帰って来たって連絡してなかったし。」
「元々はそれ程仲が良いって訳でも無かったという事でしょうか」
「いや、そういう訳でもねーんだけど。順くんが、学校では他の一年も居るからけじめつかねーだろって、…あ。」
当たり前のように出て来た「じゅんくん」と言う単語に驚き、それから込み上げて爆発しそうなモノを必死で抑え込んで視線を逸らす。
火神も気付いたようで、明らかに「やっちまった」という顔をしてから見る見るうちに真っ赤に染まる顔が余計にそれを増長させる。
「てっめぇ、笑ってんじゃねぇよ!つーか忘れろ、バレたら主将にぶっ殺される!!」
必死に堪えていたものが、ばこっと頭を叩かれた衝撃でぶはっと外に飛び出る。
一度飛び出た物は箍が外れたように溢れ出て、今度は笑い過ぎて声が出ない。
攣ってしまいそうな頬と腹筋を抱えて蹲るしか無い黒子の後頭部がもう一度叩かれてから、がたりと椅子が引かれる音がするがとてもじゃないが顔を上げる余裕なぞない。
「ちくしょ…黒子、本当に言うなよ、ソレ奢ってやるから!!」
そう言い捨てて去って行く火神は、そうか、日向と待ち合わせがあるのかと納得する。
暫くして一人ひっそりと笑いの波を納め、漸く顔を上げた黒子の前には火神が食べていたハンバーガーの乗ったトレーどころか空になったシェイクのカップすら無くなっていて片付けまでもやってくれたらしい。
一頻り笑ってすっかり痛む頬をさすりながら黒子は落ち着く為に深呼吸を一つ。
彼らの関係が本当にただの従兄弟なのかはよく分からないが、それはおいおい火神を問い詰めれば良い事だろう。
人間観察が趣味の黒子にとって、これ以上無い観察対象を教えてくれた火神に多大なる感謝をすると同時にこれから黒子の密かな楽しみの対象となる事を心の中で謝罪する。
心の底から悪いと思っている訳ではないけれど。
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おまけ
「もしもし?」
「よぉ。今学校出た。お前今何処?」
「うん、え?……いや、まだマジバだけど。」
「なんでマジバなんか寄ってんだよ、夕飯はどうなるんだ夕飯は」
「一緒に晩飯の材料買って帰ればいーかなって思って待ってたんだけど」
「一緒に行った所で俺、何の役にも立たないぞ。」
「…別にいーよ、一緒に買い物ってしてみたかっただけだし。」
「大我の甘ったれは相変わらずか。」
「うっせーよ。…つか、そもそも直接ウチに来ちまえばよかったのに。どうせ必要なモンは殆ど置いてあんだろ?」
「長袖の着替えしか置いてねーだろ、流石に暑いから違うの持ってく」
「え、服なんて俺の着てれば…」
「てめぇの服なんざ全部ぶっかぶかだろうが!!勝手にでかくなりやがって馬鹿にしてんのか!?ぁあ!?絞めんぞ!」
「ッッ悪ぃ、悪かったってば、…ッ」
「まあいい、とりあえずもう少しで電車乗るから…家帰って荷物持って…一時間後くらいに駅で待ち合わせにするか」
「ん、わかった。じゃあまた後でな」 

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