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空箱

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いつもの

たまにしか無い土方の非番の日の前日にはいつもの居酒屋で待ち合わせ。
幾ら恋人とは言っても習慣というのは抜けないもので、どつき漫才に近い口喧嘩を交しながら酒を呑み。
もはやこれが二人のコミュニケーションだと判りきっている店主は騒々しい常連客を時折宥める程度で物静かに美味いツマミを作る。
美味いツマミに酒はまた進み、喧嘩にもならない程に呂律が回らなくなって来た頃合にようやく店を出て、二人で肩を貸し合い足を縺れさせて土方の私宅へ。
普段屯所に寝泊りしている所為で滅多に帰らない家はひんやりと冷え切っていて、だけど酒で火照った身体には丁度いい。
清潔なシーツの上に二人で雪崩れ込みほっと一息吐く。
「うあー…気持ちいー……」
「お前、ベッドの上で吐いたら全裸で外ほっぽり出すからな」
「今の季節、青姦は寒くねぇ?」
他愛無い軽口。酒に浸りきった脳はそれだけでも幸福感に満たされる。
シーツの波間に突っ伏していた顔を上げて土方の方へと目をやれば、酔いの所為か誰にも気兼ねする事のない空間の所為か、いつもきっちりと着込んだ隊服とは違う黒の着流しが肌蹴てほんのり赤く色付いた素肌が食べてくれと言わんばかりに其処にあって。
恋人と二人、ベッドの上。
此処で食べなきゃ男が廃るとばかりに仰向けに寝転がった土方の上へと圧し掛かれば酒で濡れた瞳が挑発的に笑みを浮かべた。
「あんだけ飲んでおいて勃つのかよ」
「多串君が勃たせてくれるんでしょ、これから。」
ほら、と投げ出された土方の手を取りまだ萎えた自分の股間へと触れさせればするりと布越しに形をなぞられた。
たったそれだけで腰にじん、と痺れるような感触が広がって行く。
「多串君だってやる気満々じゃん。」
ニィ、と釣り上げられた唇に吸い寄せられるように唇を重ねる。
最初は啄ばむように触れるだけ、それから次第に深く、舌を絡め合わせて唾液の音を立てて。
其の間にも土方の手は布越しに銀時の熱を撫で、時にはくすぐって煽って行く。
負け時と銀時も肌蹴た胸元から手を差し入れて熱くなった肌を弄って行く。
滑らかな皮膚の下に張り詰めた確かな筋肉の感触。無駄な脂肪の一切無い身体は骨と筋肉ばかりで硬く、だがその手触りが何よりも美味しそうに映る。
ふと、掌に掠った感触を指で捏ねてやれば重ねた唇からくぐもった吐息が漏れた。
んぅ、と喉を詰まらせながら、それでも舌を絡める事を止め無い。
流れ込む唾液を飲み込み切れずに口の端から溢れさせて喉元まで伝うのを追って肌の上を舌でなぞれば擽ったさそうに震えた肩。
「多串君って敏感だよねー」
「そういうお前だって硬くなって来てんじゃねーか。」
そう言って唇を舐める土方は隊服を着てる時とは比べ物にならないくらいに、エロい。
「なんか色情狂みたい、多串君」
「てめーに言われたかねーよ、このケダモノ。」
ぐ、と強く股間を握られて思わず銀時からぅ、と小さな声が落ちた。
既に熱を持ち始めた銀時をぐにぐにと遠慮無しに揉み込む土方は楽しげに笑いながら銀時の首筋へと空いている片腕を回す。
「狂うくらいにイかせてみろよ。」
銀時、と。
滅多に呼ばれぬ名前を赤く濡れた唇が紡ぐのにたまらずその唇を貪った。

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発情期

久しぶりに顔を合わせた彼を、引き摺るようにして攫って、走って。
仕事中だなんだと喚くのを聞かない振りで勝手知ったる彼の私宅へと連れ込んだ。
散々暴れる身体を無理矢理引き摺ってきた所為で息が、荒い。
精一杯抗った彼もそれは同じなのだろう、沈黙した空間に落ちる荒い二つの呼吸を
強引に、重ねた。
今入って来たばかりの扉に身体を押し付けるようにして貼り付けて
引き剥がそうとする手を両手で扉に縫い付けて
重ねた唇を強引に舌で割り開いて口腔内へと侵入を果たす。
呼吸を奪うように貪って、たまにがちりと歯が重なる音を立てるような稚拙な行為。
「い…ッッて…ッ」
漸く手の中に落ちて来たと思った彼は、でも未だ現実世界に留まったままだった。
縦横無尽に暖かな口腔を貪っていた舌に思い切り突き刺さった痛み。
噛まれたという事に気付いたのは痛みに顔を離した時、彼の口の端にも赤が滲んでいたから。
怒りに濡れた瞳が、無言で離せと訴えていた。
きっとこの両手が自由ならばすぐにでも刀を抜いて斬りかかりたいのだろう。
ぞわ、と。不意に背筋が粟立った。
力任せに相手の肩を掴んで扉へと向きあわさせる。
焦りすぎたのか、思い切り扉へと顔からぶつかって痛みを訴える声が聞こえた。
最早脱がしなれた隊服の、ズボンだけ下着事強引に引き摺り下ろして下肢を露にさせる。
優しくしてやりたい、と思う暇も無かった。
思考とは別に身体は淡々と目的を果たす為に動いて行く。
暴れようとする彼の身体を肩で背後から押さえつけて、中途半端にズボンが絡まった足を強引に開かせて、ぴたりと下肢を重ねた。
彼の綺麗な筋肉のついた尻肉の間に納まる布越しの熱情。
触れればもっと深くに潜りたくて自然と尻に擦り付けるように腰が揺れた。
すぐに布越しなのがもどかしくてズボンの前を広げて直接、彼の尻の狭間へと擦り付けた。
耳元に荒い息を吹きかけ、一人で盛って尻に熱を擦り付ける俺は嗚呼なんて滑稽なのだろう。
犬かよ、と小さく吐き捨てた彼の声が僅かに熱を持っていたと思うのは俺が熱くなり過ぎているからだろうか。
もう自分の熱をただ吐き出したいのか、伝えたいのか、注ぎ込みたいのか良く判らない衝動のまま、無理矢理尻肉を左右に掴んで無防備な蕾へと肉棒を突き立てる。
「―――――ッッッ」
乾いた其処は全く受け入れる気配を見せずに侵略者を拒むのを、強引に、力で捻じ伏せた。
痛むのだろうか、悲鳴にもなれなかった引き攣った声が聞こえて、でもそれにも喜悦を感じる俺は何処まで駄目人間なんだろう。
周りの皮膚を巻き込むようにして強引に奥へと突き進む息子はぎちぎちに締め付けられて痛いばかりなのに、その痛さすら心地良く感じる。
奥へと進む度に摩擦熱のような痛みが全身へと伝わり、脳まで蕩けそうだと思った。
もしかしたらとっくに蕩けているのかもしれないけれど。


漸く、全てを彼の体内に収めた頃には二人して汗まみれになっていた。
純粋な快感は全く無くて、ただ痛みだけが先走る行為に彼は最早抵抗する気力も無いようだった。
ぐったりと扉に身体を預ける姿を見て悪い事をしたなぁ、とは思うけれど、今更辞めるつもりは毛頭無い。
くそったれ、と小さく毒吐く姿に欲情してしまうんだから仕方無い。
彼が痛みに喘ぐ度に膨れ上がる情欲にまともな思考能力なんて残っていない。
ただ、彼を、喰らい尽くすまで貪りたいだけ。
ただそれだけなんだ。

お互いに痛みに慣れた頃、漸く少しだけ、腰を揺らしてみる。
引き連れるような痛みは変わらないけれど、性器を締め上げる圧迫感が少しだけ、緩んだ気がした。
それはただの生理現象で、彼自身、意識しての事じゃないのは判っているのに、この行為が許されている気分になって更に腰を揺らした。
「ッ…い、…ッッてぇよ…ッ」
辛そうな声とは裏腹に、痕が付きそうなくらいに確りと彼の腰を掴んで揺さぶれば次第に強張りが解けて馴染んで行く彼の体内。
入り口が裂けたのか、濡れた感触が結合部から玉の方まで伝ってこそばゆい。
ぐちゅずちゅとやがて聞こえ始める水音が鼓膜から精神を犯して彼しか目に入らなくなって行く。
熱い彼の内臓が引き抜く度に縋るように纏わりつき、突き入れれば悦び打ち震えて締め付ける。
求められているのが嬉しくて余計に深く、強く、彼の体内を抉り、かき回してぐちゃぐちゃにして行く。
苦痛の声しか紡がなかった彼の唇が何時の間にか熱に浮かされたような掠れた声を生み出し、抗うばかりだった両腕が扉へとすがり付いて爪を立て、気紛れに手を伸ばしてみればさっきまで無反応だった彼の性器は硬く張り詰めて涙を流していた。
「多串君って……ッは、マゾだよね…」
嘲るように耳元に吹き込んでやればびくんと身体が跳ねて痛いくらいに締め付けられた。
すっかり扉に額を預けて俯いてしまっている彼の表情が見え無いのが残念だけれど、真っ赤に色付いた耳朶が可愛らしかったので噛み付いてやる。
ぁ、なんて色っぽい声出すから益々調子付いて耳朶から首筋まで、思う存分噛んで、舐めて、口付けて痕を残した。
これは、俺のモノ。
俺の獲物。
俺の為に捧げられた生贄。
哀れな生贄は力尽くで犯されて快感を感じ、否定の言葉を紡ぎながらも俺を拒否しきれずに腰を振るのだ。
其処には真撰組副長なんていう肩書きも、俺の知らない過去なんかも関係無い。
お互いが欲し、欲されるから身体を繋いで、思う存分溶け合って、時には強引な手段や暴力なんかも混ざって一つになる。
どうせだったら、男同士でも一つになった証が出来ればいいのに、と思いながら俺は彼の体内を汚した。

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ショタ化した桐皇三年

桐皇学園バスケ部、恒例のIH直前合宿。
辛うじて青峰の捕獲にも成功し、初日は万事恙無く終わろうとしていた。

ハズだった。

初日からハードな練習の後の夕飯はとても美味しかった。
合宿所のおばちゃん達は飢えた高校生の胃袋事情をとても良く理解しており、ボリュームがありご飯が進む濃い味付けの食事は非常に美味しかった。
とにかく美味しかった。
夕飯が美味しかったのは間違いない。
問題はその後、一年生ながら既にマネージャーとしての信頼を得つつあった桃井が差し出した「でざーと」なる未知の物体だ。
あれがまさか食べ物という意味のデザートだとは誰も思いつかなかったレベルの未確認物質。
それが
「合宿では余りお手伝い出来る事が無いのでせめて、と思って身体に良い物たくさん入れたデザートを作って来ました!!よろしければ皆さんで食べて下さい!!」
と善意100%の美少女の笑顔と共に差し出される恐怖。

食べれば死ぬ未来しか見えない
だがしかしこの有能なマネージャーの笑顔を曇らせられるかと言われたら男として頷きかねる

そんな葛藤に固まった空気を壊したのは我らが主将の一声だった。
「すまんなぁ、ワシら今めっちゃ腹一杯やねん、これは後で夜食代わりに食べさしてもろてええか?」
その言葉を切欠に皆慌てて満腹を訴え始める。
俺も、そういえば俺も食べ過ぎたから、そんな声があちらこちらから上げられ始め、主将の機転を無駄にしてなるものかと必死のアピール。
あの問題の一年生暴君すらも幾らか顔を青ざめさせながら「今はこれ以上食えねぇ」とぼやくように零すくらいだからその場の一体感は半端な物では無い。
個人主義を謳って居たとしても所詮は団体競技、この分なら最低限のチームワークはちゃんとありそうですねと遠くの方で一人お茶を啜りながら監督が微笑んでいたとか居なかったとか。

かくしてなんとかその場での死を免れたバスケ部員達。
しかし先延ばしにしただけであって未だ死亡フラグは目の前にある。
逃げるように食堂から離れ、男だけでの緊急会議が開かれた時、そこでも頼れる主将は男前であった。
「これはワシらでどうにかするから、自分らはうっかり食べるの忘れてたとでも言うときや」
部員達は主将の男っぷりに涙した。
腹黒陰険眼鏡と思っててごめんなさい、普段は胡散臭い眼鏡と思っててすみません、各々日頃の主将に対する思い込みを心の中で謝罪する中、一人待ったを掛ける男が居た。
「おい、それ食べる気じゃねぇだろうなアンタら」
キセキのガングロこと青峰である。
皆が自分の身可愛さに余計な口出しをしない中、一人声を上げる姿は正にエース。
日頃どれだけガングロでもやはり青峰は何年に一人という逸材なのだと皆の心に深く刻まれた瞬間でもある。
「青峰、細かい事は聞いたらあかん」
それを今吉は首を振るだけで黙らせた。
確かに今吉はあの物体を「食べる」とは言わなかった。
どうにかする、と言うのは決して食べて消費する訳では無いのだろう。
しかしその辺を深く突っ込んでしまうと悲しい結果しか見えない気がする。
人は、知らなくていい事だってあるのだ。

桐皇バスケ部員達は少しだけ大人になった顔で静かに頷き合い、その場は解散となった。



翌日早朝。
喉元過ぎればなんとやら、もはや某でざーとの事など皆の頭から抜けていた。
覚えていたくなかったとも言うが。
朝食前のトレーニングに欠伸をしながらも続々と部員達が集まる中、珍しく主将と副主将の姿が無い。
いつでも誰よりも早い時間に部室を開けて待っている二人の遅刻など始めての事かもしれない。
監督が現れてもまだ姿を見せ無い二人に、昨年の注目度ナンバーワンルーキーだった若松が立った。
「俺、二人を起こして来ます」



今回使って居る合宿所では大部屋の他に2、3人用の個室が6部屋あった。
監督が一室、女子マネージャーが一室、そして残りの部屋に一軍が割り振られている。
諏佐と今吉は二人で1部屋を使っており、普段きっちりと時間通りに現れる二人共が寝坊するのは中々考えずらい。
そうなると、何か異変があったか、それも誰かに連絡する事すら出来ないような。
自然と駆け足になった若松は目的地に着くなり拳で3度、扉をノックした。
「先輩たち、起きてますか!?」
先輩の部屋にするノックにしては荒々しい音で失礼だったかと思う物の今更取り戻せない。
落ち着くように数度、深呼吸をしても中からの反応は無い。
「主将?諏佐さん?」
今度は少し控えめにノックをしながらもう一度呼びかける。
しかし扉の向こうからはうんともすんとも返事が無い。
まさか本当に何か、と焦った若松は再びがんごんと扉を殴る。
ついでにノブを回してみたががちゃがちゃと鍵の掛かった音がするだけだった。
「ちょ、生きてますか!?大丈夫ですか!?何かあったんだったら助け呼…」
殴られるがままにがんごんがんごん音を立てるだけだった扉が不意に開いた。
良かった、と何も考えずに扉を大きく引いて姿を確認しようとしたが、其処には誰も居なかった。
「…へっ?」
正面にはカーテンの引かれた窓、右手には使った形跡のある二つ並んだベッド、左手には二人の荷物、荒れた様子も無く、ただ二人だけが居ない。
と部屋の中を一周した視線が足元へと辿りついて今度こそ若松は固まった。
そこには若松が扉を引く勢いに負けて転んでしまったのか、ぶかぶかのTシャツ1枚を着て座りこんで居る子供が一人居た。
少し眠そうにも見える眼差しがじっと若松を見上げて、それからことりと首を傾けた。
「どちらさまですか?」



合宿所中に響き渡る若松のどっせいに最初に駆け付けたのは桃井だ。
先輩二人が忽然と姿を消した事もおおごとだが、見知らぬ子供が突然部屋に居た事も十分おおごとだ。
まずは身元の特定を、とベッドの上に座らせた子供と桃井とのやり取りが始まる。
「初めまして、私は桃井さつきです。あなたのお名前はなあに?」
「すさ、よしのり」
返ってきた答えに再びどっせいしそうになるのを若松は辛うじて堪えた。
どっ、まで出てしまったがなんとか堪えた。
桃井も流石に驚いたのか一瞬、言葉に詰まった物の再び笑顔ですさと名乗る子供に向き合う。
「よしのり君は、今いくつ?」
「よんさい」
余り物怖じしない性格なのか、ずい、と4本指を立てた手を突き出して来る姿は何処か誇らしげである。
「これ、どう見ても諏佐先輩だよな」
「やっぱりそう思います?このおっきなお鼻とか先輩そっくりですよね」
最初こそ、驚きで分からなかった物のこうしてじっくりと見てみると良く分かる。
眠そうに見える目も、少し大きな鼻も、話す相手の事をじっと見つめる癖も。
此処に居ない諏佐佳典にそっくりだと言う事が。
「俺、監督呼んでくる…」
「あ、お願いします」



部屋に残された桃井は再び情報収集に勤しんで居た。
このすさよしのり(4)は年齢の割に落ち着いており、頭も回る子供のようである。
桃井が害の無い人間だと判断したのか聞いた事には割とはっきりと答えてくれる。
桃井が元から持つ情報と照らし合わせても、桐皇学園バスケ部7番、諏佐佳典が子供になったと判断しても間違いではないと言う事。
あくまで4歳であり、17歳だった時の記憶は持ち合わせていない事。
それともう一つ。
「此処に、もう一人居なかった?今吉翔一って人なんだけれど」
とりあえずの身元確認が済んだ所で気になるのは同部屋な筈なのに未だ姿が無い今吉の存在だ。
諏佐が寝巻にしていた物の、身体が縮んで脱げてしまったのだろうハーフパンツがベッド脇に落ちているのと同じようにもう1枚ハーフパンツが床に転がっているのだが本人が居ない。
問われた諏佐は始めて困ったように眉尻を下げてそわそわと辺りを見渡す。
どうしよう、と悩む声で零しながら桃井と、それからちらちらと背後へと視線を向ける。
桃井がじっと笑顔を保ったまま待っていればやがて、意を決したように諏佐が立ちあがった。
向かう先は二つのベッドの合間に綺麗に丸まって落ちていた掛け布団。
ぐい、と上に引っ張るも何かに引っ掛かったかのように持ちあがらず、四苦八苦している。
「こわくないよ、だいじょうぶだから」
「おふとんあついでしょ、でてきてよ」
布団に向かって呼びかけながら懸命に布団を引っ張り上げる姿は元は先輩とは言え微笑ましい。
言葉から察するに、丸まった布団の中で今吉が籠城をしているようなのも大変微笑ましい。
そっと諏佐の背後に近付きながら二人の攻防を見ていたが、ついに諏佐がばさりと布団を引き上げた。
そこに居たのは団子虫かと突っ込みたくなるように綺麗に正座のまま丸まった子供の姿。
この夏の日にずっと布団に包まっていた所為か、がば、と上げた顔は真っ赤に火照っているがあの特徴的な狐目は確かに今吉のようだ。
ぜぇぜぇと荒い息をしながら諏佐と桃井を見比べた後にさっと諏佐の影に隠れてしまったが。
普段の今吉からは考え付かないような逃げっぷりにええと、と桃井は考える。
「はじめまして、私は桃井さつきって言うの。あなたのお名前はなあに?」
優しく声を掛けても全くの無反応。
ぎゅう、と力いっぱい諏佐にしがみつきじっと俯いている。
このころからすでに諏佐先輩の方が大きいんだなぁ、なんてしみじみしてしまうくらいには小さく固まっている姿に、仕方なく桃井は諏佐へと視線を戻した。
「よしのりくんは、この子のお名前知ってる?」
「ううん、しらない。めがさめたらね、そこにいてね、おはなししようとしてもね、こっちみてくれないの」
「目が覚めた時からお布団の中にいたの?」
「ちがうよ、さいしょね、おててぎゅってしてたんだけどね、どあがごんごんいってね、かくれちゃったの」
「そっか、怖かったんだね」
「ぼくはこわくなかったよ。だからどああけてどちらさましたんだよ」
ふんす、と背中に今吉(仮)をしがみつかせたまま誇らしげな諏佐の頭を桃井はそっと撫でた。
もとい、撫でずにはいられなかった。
よしのりくん(4歳)はいたって普通の4歳児なだけであって特別可愛いわけではないのかもしれない。
しかし普段の大仏かと突っ込みたくなるくらいにどっしりと佇む巨躯と知的な雰囲気の諏佐佳典(18)しか知らなかった身としては、この舌っ足らずにドヤ顔連発の幼児を可愛がらずにはいられない。
否。
可愛がることを強いられているのだ。


眠たげながらもどこか満足げなよしのりくんをいい子だねーえらいねーと撫でていると背中のひっつき虫がちら、と顔を上げた。
桃井と目が合うなりぴゃっとまたよしのりくんの背中に顔をうずめて縮こまっている姿はこれもまた普段とのギャップで非常にかわいらしい。
さてこちらをどう攻略するかなと桃井が頭を悩ませていると、今まで力いっぱいしがみつかれても平気な顔をしていたよしのりくんが動いた。
べり、と音がしそうな程にいきおいよく腕をはがし、ぐるりと向きを変えて今吉(仮)と向き合う。
突然隠れるものがなくなった今吉(仮)はどう見ても今吉翔一(18)が小さくなったとしか思えない顔つきで、だがそのおろおろと困惑しきった眼差しだけが見慣れない。
「あなたのおなまえなんですか!」
褒められて何かのやる気スイッチを押したのだろうか、がっちり今吉(仮)の腕を掴んで大きな声でそう聞くよしのりくん。
よしのりくんと桃井を何度か見比べて逃げられないと諦めたのだろうか、それとも少しは慣れてきてくれたのだろうか。
若干へっぴり腰になりながらも初めて今吉(仮)の唇が開かれた。
「……しょーくん……」
ぽしょん、と近くにいてやっと聞こえるような小さな声で呟かれた声に桃井は思わず固まった。
「しょーくんじゃなくて、おなまえだよ!」
「しょーくんは、しょーくんやもん…」
「しょーくんはおなまえじゃないでしょ、みょーじとかあるんだよ」
「………しょーくんは、しょーくんちゃうん?」
ぽしょぽしょと自信なさげな声がますます小さく震えてゆくのに悶えたい気持ちを押し殺して桃井は理性を取り戻した。
今はまだ可愛さに打ちのめされている場合ではない。
しょーくんはまだ今吉(仮)なのだ。
「えっと、しょーくんは、いまよししょういちくん、でいいのかな?」
ともすれば詰問するよな勢いのよしのりくんをやんわりと留めて改めてしょーくんと視線を重ねる。
おろ、と彷徨いはするものの、やっと桃井を見てくれた今吉は少しの間の後、こくんと頭を縦に振った。

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破壊衝動

今この平和になった世の中で、死ぬ、という概念からは程遠い。
けれど命を賭して戦う事に明け暮れた過去の記憶は確かに身体の奥深くを縛り付けていて、時折思考の一部を掻っ攫う事がある。
世界を我が掌中に収めんと欲と血に餓えた若気の至り。今となってはただそれだけの話で、あの頃は元気やったなぁなんて笑い話にもなるのだけれど。
「なんで自分の顔見てると疼くんやろうな」
それは正しく疼いているのだ。今、この平和な世の中で。
すっかりと忘れていた筈の肉を裂き骨を砕く感触が掌を痺れさせる快感を。
殺気に血走った双眸がやがて死への恐怖に震え、絶望へと変わり行く喜びを。
目の前の相手からも味わいたいと伸ばした指先は、だが優しく頬を滑るだけの矛盾。
「こっちこそ聞きてぇよ。てめーの顔見てるとすっげー汚したくなる」
はっ、と鼻で笑いながら、それでも持ち上げられた指先は頬に触れる手を取り恭しく爪先へと口付ける。紳士と呼ばれるに相応しい甘い仕草の癖にじぃとこちらを見つめる瞳がかつての獰猛さを覗かせて煌いた。
「汚して、ぐちゃぐちゃに犯して、だけど獣みてーに目ぇギラつかせてるお前を飼い殺してぇ」
優しい唇の後に硬いエナメル質が指先に深く食い込み、図らずともびくりと腕を引き寄せれば思いのほか容易く開放される。その後に残る、悪魔のように釣り上がった笑み。
紳士然としているより、全然いい。
そういう顔をしているからこそ、腹の底が疼くのだ。目の前の感情のままに引き裂いて赤く染まった身体にキスの雨を降らせてやりたい。
誘われるように首筋へと顔を埋めて思い切り歯を立てて薄い皮膚を噛み締める。尻の下に引いた身体が痛みに硬く強張るのを感じた。けれど逃れる事は無く、変わりに項に掛かる後ろ髪を強く握られた。痛い。気にせずそのまま歯を食い締めればやがて溢れる命の味。溢れる程まで行かずともゆっくりと口内を満たす命を舌で絡め取ってから飲み下せば音を立てて血が沸きあがるのを感じた。身体が熱い。
「痛ぇな、…てめーは吸血鬼かよ」
もっと、と求めようとした所で強く髪を引っ張られ、間抜けにも舌を刺し伸ばしたまま隣へと突っ伏す羽目となると同時に男が起き上がり、腹の上へと座った所為で先程までと形勢が一気に逆転してしまった。
「ったく、シャツに血ぃ付いたじゃねーか…けど、その顔いいな。」
首筋から落ちる赤にシャツを染めながらもその表情は支配者のそれで疼きは納まる所か高まる一方だ。両手で首筋に、肩に、胸元にと掌を滑らせれば確かな男の体格。
壊したい。
明確な単語が脳裏でちかちかと点滅して離れない。衝動のままに爪を立てて引き寄せて唇を重ねる。薄くなった血の味に男の唾液が混ざる。ぐちゃぐちゃに掻き混ぜて飲み干してもまだ足りない。両手で重なった男の身体を弄ると男も好き勝手に服の中へと手を滑り込ませて皮膚に爪痕を立てて行く。ぐい、と布越しに硬くなった股間を押し付けられて思わず高い声が上がった。何時の間にか男も自分も勃起していた。
「てめぇを壊してやるよ」
そう言って笑う男の顔は酷く醜く、だが自分もそうさして変わらぬ顔で笑っているのだろう。
「何言うとるん、それは俺の台詞や」
そしてまた唇を重ねる。貪るように乱雑に、けれど不用意な甘さを滲ませて。

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marry me?

上司が突然突きつけてきた理不尽な命令、曰く、アーサーと結婚、もとい同盟を組めと。
勿論アントーニョは力の限り反論し、反抗し、絶対に嫌だと幼子のように駄々を捏ねてもみたけれどアントーニョとて上司に本気で抗いきれる訳も無く、それはまるで屠殺場に連れて行かれる牛のような心地で成されたのだった。
「俺、こいつと仲良うなれる自信無いんやけど。」
「気があうな、俺もテメェと仲良くするつもりなんかねーよ」
元々、色々な因縁で仲が良いとかそれほどでもないとか、そんな次元を超えた極悪に仲の悪い二人がいざ結婚したからとて急に仲良くなれるものでもない。アー サーの方もやはり上司に言われて無理矢理従わざるを得ない状況なのか不機嫌を隠そうともしないでむっつりと腕を組んでアントーニョの方を見ようともしな い。無事に契約を交わした上司だけが盛り上がり宴会へと盛り上がる中で二人は結婚したとは思えぬ程の冷え冷えとした空気を纏わせて並び、ただじっと上司の 目が醒めることを祈るばかりだった。
結婚すれば当然同居する物、と勝手に宛がわれた家での二人きりの生活はそれはもう散々な物だった。些細なことで勃発する喧嘩は数知れず、口喧嘩にもならな い罵り合いで済む事なぞ稀で元々血気盛んな二人は手が出て足が出て終いには取っ組み合いの殴り合いになる。そのまま強姦じみた性行為に及ぶこともあった。 快楽の為でもなく愛の確認でもない、ただ相手を組み伏せ陵辱し己の優位性を示すだけの獣じみた雄の本能。もっとも、それは経済状況の違いからか主にアー サーが勝つ方が多かったのだが。
二人の関係性が変わったのは結婚をして少しばかり時が経った頃、アントーニョの国力が浮上し始めた辺りだった。今までお互い何故、よりにもよってこの男と 結婚せねばならないのかという疑問があったのだが、アントーニョの方だけを見てみれば確かにアーサーによって齎される利益は高かったのだ。このまま巧く アーサーと付き合っていければアントーニョの家が豊かになるかもしれない。意地やプライドよりも大切な国の民の為に、それまではただ張り合い拒絶するばか りだったアントーニョが折れる事を覚えた。ある程度の暴言は適当に聞き流し、仲良くなる事は無理でも結婚を解消されることが無いようにと打算で動くように なった。それは例えばアーサーの我侭を聞き、アーサーの為に家事を担ってやり、夜は抵抗する事を止めた。鳩尾の奥深くがじくじくと疼くが国民の為と思えば 少しは楽になった。上司のした事は間違っていなかった。
「…なんか最近、随分と大人しいじゃねーかお前。」
今日も今日とて。無言で床に後頭部をぶつける勢いで圧し掛かってきたアーサーをそのまま受け止めて身体を投げ出せばそんな事を言われる。は、とアントー ニョは鼻で笑うだけに留めた。余計な反論は無駄な喧嘩を招く。だがそれすらも気に入らなかったのかアーサーの指が食い込む程に顎を掴んで強引に視線を重ね る。
「何だよお前…気持ち悪ぃーな、頭おかしくなったのか?」
探るように近付いた双眸が間近の距離で見詰め合う。調子が狂うんだよ、とぼやきながらも食い入るような視線は嘲りや挑発というより何処か、真摯な色を持っていた。抵抗しない事を訝しむように顎を掴んでいた掌が額に、首筋に触れて確かめるような様はまるで。
「なん、心配してくれるん?ありがとぉなぁー」
そう、アントーニョが揶揄するように言ってやれば途端に普段のような剣呑さを取り戻してうるせぇ、と一言残してアーサーは立ち上がった。
「ヤる気失せた。とっとと寝ちまえよ。」
離れ間際に足先を軽く蹴り飛ばして踵を返す。その背中を見送りながらアントーニョは床の上に大の字に寝転んだままに思わず双眸を見開いた。言い方こそ酷く 癪に障るがその内容は。脳裏に今はもう手元を離れた子分が思い浮かぶ。そういえば彼は口下手で素直になれなくていつも暴言ばかりだしすぐに手が出る子供 だった。だけど心根は優しく時々覗く素朴な気遣いが酷く可愛らしかったモノだ。今のアーサーは何処か、彼とダブって見える。
「なぁ、アーサー」
部屋を出ようとしていた男を留める為に呼んだ名は酷く舌に馴染まない。今まで禄に呼んだ事も無いからだろう、だがそれがとても新鮮だった。まるで灼熱の日差しの下で生まれて初めて水を得たような、浮き足立つ心。足を止めこちらを怪訝な顔で振り返る男を再度、呼ぶ。
「アーサー、なぁ、こっち来て?」
隠し切れずに唇を弧に歪ませたアントーニョに戸惑うような姿を見せながらもアーサーが再び戻って来る。
「なんだよ…」
「えっちシよ。ごーかんちゃうで、えっちやで。」
「…はぁ?」
戸惑いを隠し切れずに晒されるアーサーの顔が酷く間抜けだ。顔を合わせればいつも罵り合い喧嘩ばかりしていた時には見れない新しい顔。益々アントーニョの 頬が緩む。過去の因縁やら此処最近の鬱憤やら全てを吹き飛ばしてこの新しい発見に心が弾まずには居られ無い。この男は、アーサーは、実はかつての子分と同 じで素直になれない子供じみているだけの男なのではないだろうか。その思いがアントーニョを積極的にさせる。身を起こし、立ちすくんだように動け無いで居 るアーサーの足元へと近付き布の上からまだ何の兆しも見せていない股間へと口付けを落とす。
「ぎょーさん気持ち良ぉさせたるから。ご奉仕したるでー」
すっかり乗り気のアントーニョについて行けずにアーサーはただ成すがままに下肢を剥かれずらした下着の裾から萎えたペニスを引き摺りだされ唇の柔らかな感 触に触れるのを呆然と見下ろすしかなかった。なんだこれは。いつもいつも小憎たらしい罵詈雑言しか吐き出さない唇が明るく上擦っている。見た事も無いよう な楽しげな笑みでアーサーの名を呼び積極的に迫って来る。なんだこれは。思考が着いて行けずに同じ言葉ばかりがぐるぐると頭の中を回る。なんだこれは。
だが慈しむように幾度もリップノイズを響かせて触れる唇の感触にじわりと甘さが腰元に広がる。常の、感情の昂ぶりのままに行為へと及ぶ時とは違うこそばゆい空気。
「なん…なんだよ、突然…本気で頭いかれたのか?」
「んー……」
思案するような声を上げるもそのままんふふふふと不気味な笑いへと変わる。そして答えを寄越さぬままにぱくりと先端を口内へと咥え込まれて思わずアーサー から甘く溜息が零れた。アントーニョがいかれたのか何か企んでいるのかそれともアーサーの及ばぬような思考改革があったのかわからない。わからないがこの 空気は悪く無い。そう、むず痒いけれど悪くは無い。冷え冷えとしていたばかりの二人の間に一瞬でもこんな穏やかな時間があるとは思っていなかったからこ そ、新鮮だった。初めて知る何処か甘ったるい笑顔でアーサーのペニスに舌を這わせるアントーニョの姿をもう少し見て居たくて緩やかに癖のついた髪へと指先 を差し入れてそっと撫でると益々その相貌が蕩けてふにゃりと柔らかな笑みを象った。知らず、アーサーの身体に熱が灯り、唇が緩むのを止められなかった。
まだ恋どころか友情にも満たない生まれたばかりの感情だが、これは、きっと――

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