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自覚

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無題

エピアデが出る前にしか出来ないネタのプロットのような物

黒い髪、黒い瞳の瓜二つの双子…不吉の象徴として生まれてきたアベルとカイン。街を束ねる権力者の父と、神の巫女である母の力によって生まれてすぐに葬りさられることだけは無かったが、街の人の視線は冷たかった。最初の頃こそ愛情を注いでいた両親も街に不幸が起こる度に双子のせいだと囁く街の人の声によって次第に不仲となり、二人は邪険にされるようになっていった。二人きりで肩を寄せあって生きるしか無かった幼少時代、だがそれはアベルの持つ不思議な力によって一変する。 
黒化病。肌が少しずつ黒くなり、やがて腐敗して真っ黒な膿を垂れ流しながらやがては死、もしくは異形の化け物へと変わる流行り病。原因も治療法も不明、一度患ってしまえば救う道は無く、また集落で一人でも発症してしまうと瞬く間に広まり一月と経たずに集落を滅ぼしてしまう恐ろしい病を何故かアベルだけは触れるだけで治す事が出来た。 
それを知った人々は今までの冷遇が嘘のようにアベルを救世主、神の御子と称して持て囃した。 
優しいアベルは彼らの今までの行いを許し積極的に病に侵された人々を救い、その噂は遥か遠くの地まで伝わり多くの人がアベルの下へと救いを求めて集まった。 
それに憤ったのは弟のカインだった。カインは自分勝手に兄を頼る人々が許せなかった。また、あれだけ酷い仕打ちを受けた人々を容易く許す兄も許せなかった。人々のカインに対する態度も扱いもかつての地獄のような扱いからは改善されたが、たった一人の拠り所だった兄を民に奪われたカインは一人ぼっちだった。 
かつて二人はいつも一緒だった。 
お互いされいれば後は他に何も要らなかった。 
ずっと二人きりで肩を寄せあって生きていられれば良かった。 
それなのに兄は求められるままに民へと手を差し伸べてばかりでカインを省みない。力を持たないカインにはもう何も残っていなかった。裏切りだとカインは思った。アベルへの重すぎる愛はいつしか妬みや憎しみが混ざったどす黒いものへと変わっていた。兄さえいなければ、いや兄さえ側にいれば。 

いくつもの時が過ぎた頃、アベルに異変が起きた。身体が思うように動かず、夜になると身体のあちこちから黒化病のように黒い膿が溢れ出す。日のあるうちはいつもと変わらぬ見た目だが光が痛いのだと薄暗い場所を好むようになった。 
カインはこれは今まで自分を蔑ろにした報いだと喜んだ。同時にアベルを失うかもしれない恐怖に怯えた。既に誰よりも大切な愛しい人でありながら、誰よりも憎くて殺したい人になっていた。 

すぐにでも死んでしまうか、異形へと変わってしまうかも思われたアベルはしかしそれから数年生き延びた。昼は今までと変わらず民を救いながら夜は人の目に触れないように部屋に閉じ籠る生活。カインにとって二人きりでいられる時間が増えて幸せな時間だった。 


だがある日、たまたまアベルの夜の姿が民に見られてしまってからは坂道を転がり落ちるように世間の評価は一変した。 
化け物、詐欺師、黒化病をばらまく悪魔。 
どれだけ真実を伝えても悪い噂ばかりが膨れ上がり、事実からはねじ曲げられ、気付けばアベルは人類の敵だと敵意を向けられるようになっていた。 
生まれただけで忌まわしいから殺せと言った人々が、利用価値があるとわかれば途端に掌を返す。 
そしてまた、散々崇め奉って来た癖にただの噂で簡単に殺せと敵意を向け始める。 

やがて本格的にアベル討伐の話が上がる。だが黒化病の人間に近付きたがる人間はいない。誰だって自分の身は可愛い。その中で白羽の矢が立ったのがカインだった。最愛の兄を討つ等出来ないと真っ向から戦うつもりだったカインだが、その時魔が刺してしまった。 

誰もが手を出せないアベルを殺せば英雄として民の信望を得られるかもしれない、と。

ほんの一時の気の迷いでカインはアベルを手にかけなければならなくなった。途中で過ちに気付いても遅い、今さら無理だと言えばアベルの仲間としてカインも殺されるのはわかっていた。 
そうしてアベルはカインの手によって首を落とされた。胴体から切り離された頭はただ悲しげに笑っていた。 

その後、多くの人を騙した悪魔を倒した英雄となったカインは、民を率いる王となった。なくしたものを忘れるようにソムヌスと名前を変えて。 



アベルが病に侵されている姿をたまたま見てしまったのは、アベルの身の回りの世話をしていたアーデンという赤髪の男だった。何の気無しにたまたま見たものを他の人に話してしまったところ、瞬く間に噂が広まりあらぬ事実がでっちあげられてしまい、気付けば一介の力無き男ではどうしようも出来ない所まで進んでしまっていた。 
アーデンは優しいアベルが好きだった。 
使用人にも分け隔てなく接し、アーデンが尽くした些細な事柄でも喜び、ありがとうと言ってくれるアベルが世間の言うような悪魔だとはとても思えなかった。 
自分のせいで大変なことになってしまったと泣きながら頭を下げに言った時もアベルはただ優しく気にしないでくれと微笑むだけだった。巻き込まれないうちに逃げろ、とも。 
たった一人の兄弟なのに平気で兄に手をかけようとするカインが許せなかった。だが多くの民と共にあるカインに、一介の使用人であるアーデンが敵うわけがない。泣く泣くアベルに言われるままに屋敷を去った。いつかカインに復讐してやると誓いながら。 











目が覚めると見覚えがあるような気がする質素な部屋の中にいた。頭がぼんやりとしていて何故此処に居るのかわからない。すっきりするために顔を洗おうと部屋を出て井戸へと向かい、水を汲み上げる。それを両手で掬おうと桶を覗き込むと水面に映るのは赤髪の男。使用人として最後まで身を案じてくれた男。激情家な所もあるが、普段は優しく気さくだった男。それが水面に映っている。後ろを振り返るが誰も居ない。つまり、此処に映っているのは―――

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組み敷くことに快感を覚える話

「あっ♡あっ♡すごいっ♡おくぅ…っ♡奥まで左馬刻のちんぽきてる…っ♡」
ばちゅぶちゅと派手な音を立てながら左馬刻の上で身をくねらせて腰を振る銃兎がわざとらしい声で鳴いてびくびくと身を震わせる。ビッチの癖に緩すぎず蕩けた程好い締め付けが奥深くまで飲み込んだ左馬刻を搾り取るかのように粘膜がうねるのに逆らわず、誘われるままに腰を突き上げればひぃん♡と鳴いて細身の身体が天を仰ぐようにしなった。
「もっとぉ♡もっと奥まで壊れるくらいに突いて…っ♡」
耐えきれないとでも言うように左馬刻の腹に手をついた銃兎が本格的に腰を上下に揺すり始める。熱く蕩けた粘膜が浮き出た血管まで舐めしゃぶるように左馬刻を擦り立て、否応無く熱を高めていく。
キモチイイ。
だがうるさい。
強気が滲み出た整った顔は好みの部類に入るし、身体は今まで女にしか興味無かった左馬刻に新しい扉を開かせる程度には良い。電話一本で呼べば勝手に跨がって腰を振ってくれる便利なオナホ。発散には丁度良いがとにかく五月蝿い。最初こそ安いAVのような声にそれなりに興奮もしたが、淫乱の面の皮の向こうにある冷えた眼差しに気付いてしまってからはもう無理だった。物理的に擦られて気持ち良くはなれても思考は冷めたままで苛立ちばかりが募って行く。
「あっ♡そこっ♡イくぅ♡イっちゃいますっ♡」
「うるせぇ」
「あっはぁ♡てっきりそういうのが好きなのかと」
ついこぼれた言葉にも返って来るのは口角を吊り上げた嘲笑にも似た何か。簡単に足を開く安い男を装いながら、左馬刻の内側にじわじわと潜り込み食らい尽くしてやろうとする捕食者のそれだ。敵意では無い。銃兎の求めるものは左馬刻を支配したいという雄の本能だ。雄を隠して好みの雌を装い、左馬刻がハマって溺れるのを待つ狩人の性だ。
あからさまな挑発にふつりと何かが焼ききれるような音がした。
「うるせぇ、つってんだろ」
腹筋の力だけで身を起こすとその勢いのまま銃兎の顔面を鷲掴むようにして押し倒す。小さな頭蓋骨は簡単に左馬刻の片手に顔の下半分を包まれてしまう。唯一残された眼が驚きにか見開かれていた。何か言おうとしたのか掌の下で柔らかな唇が蠢くのを押さえ付けて音にさせない。形勢逆転、掴んだ頭をシーツに押し付けながら腰を揺すれば先程よりもぐっと強く内蔵が絡み付いて気持ち良い。物言いたげな視線を無視してそのままがつがつと腰を打ち付け始めれば逃げようとするかのようにのたうつ身体、顔を掴む手を退けようと銃兎の両手がかかるが上から体重をかけて押さえ付けていれば負けることなぞ無い。
「んんんーっ、んっ、んんっ」
「はっ、余計な事考えずに腰振ってりゃ良いんだよてめえは」
鼻も口もまとめて握り潰すくらいの強さで唸る声を塞いで腰を打ち付ける。ただ寝っ転がっていれば勝手に搾り取ってくれるオナホも楽だがこうして自分で腰を振ってやるのも悪くは無い。突き上げる度にぎうぎうと痛い位に締め付けて来るのが気持ち良い。銃兎も快感は得ているのだろう、二人の腹の間でガチガチに固くなったものが溢れた先走りでぬるりと左馬刻の腹を撫でる。顔を押さえつける腕にガリガリと爪が立てられている気もするが些細な痛みだ、むしろ足掻く獲物を押さえ付けている優越感で興奮する。誰に喧嘩を売ったのか、勝つのは誰かを見せ付けるように銃兎の中を荒し尽くす。壊れるくらいと望んだのは銃兎だ、文句は言わせない。突き入れる度に絡み付く粘膜を根こそぎ引き摺り出すような勢いで引き抜いては一番奥まで強く叩き込む事だけを繰り返せば濡れた肌がぶつかる音が幾重にも響いた。このまま、最後まで走り抜けてやろうと体制を低くした瞬間だった。
「がっ、…てめえ、っ」
顔を殴られた、と気付いた時には顔を押さえていたその手で反射的に殴り返していた。華奢なフレームの眼鏡が吹っ飛び、当たり所が悪かったのか細く尖った銃兎の鼻から流れ出す赤。
更なる反撃が来るのに備えた左馬刻とは裏腹に、銃兎は殴られたそのままの姿勢で溺れていたかのように口をはくはくとさせて浅い呼吸を繰り返すばかりだった。よく見れば見たこと無いくらいに紅潮した肌、泣く一歩寸前まで涙を湛えた瞳が虚ろに宙をさ迷いながら必死に酸素をを取り込もうと肩を上下させる姿に気付いてやっと、今まで呼吸が出来ていなかった事に思い至る。鼻も口もいっしょくたに塞がれれば確かに息も出来ないだろう、そんな状態で快感ばかりを与えられたら死に物狂いで殴ってでも左馬刻を止めるしか無かったのだろう。生命の危機に対する緊張に強張る身体の締め付けがぎゅうぎゅうと左馬刻を締め付けている。きもちいい。性器だけで無い、腹の底から全身を熱くするような興奮が呼び起こされていた。
「そうしてた方が可愛げあるじゃねえか」
鼻から頬、口許まで汚す赤をべろりと舐めあげれば鉄臭さが脳髄に染み渡る。女の支配するこの世の中で、飼われた子犬のように服従させられていたとしても、男の中には自らの存在一つで他者を踏みつけることで快感を得る本能がある。今が正にそれだ。左馬刻に手も足も出ずに弱り果てた獲物。普段はあれだけ傲慢に振る舞う男が左馬刻に組み敷かれている。込み上げる喜悦のままに腰を突き入れる。
「ひ、っぁ、待っ…まだ…っ」
「待たねぇよ」
未だ呼吸がままならず、哀れなくらいに掠れた声で制止を求める声を無視して中をかき混ぜてやれば、ひぅと息を飲み込む音が聞こえた。わざとらしく飾り立てた喘声なんざよりもよっぽど良い。背を浮かせて逃げを打つ腰を引き摺り戻して膝が頭につきそうな程に折り曲げ、のし掛かる。
「さまとき、苦し、無理だ…っ」
動いた拍子にぼろりと銃兎の眼から涙が溢れる。必死に腕を突っぱねていてもその力は弱々しく、左馬刻を退けるには到底及ばない。
「良い所で邪魔してくれやがったんだ、覚悟しろよ?」
犬歯を剥き出して笑ってやれば銃兎の眼に走ったのは期待か、怯えか、それとも諦念か。込み上げた衝動のままに左馬刻は獲物の肉を突き上げ快感を求め始めた。
「ひ、…っゃだ、…っぁ、……っっ」
数往復もする前にぎちぎちに締め上げられて思わず息を飲む。危うく出る所だった。今までならただ発散するだけの行為だったからそれでも構わなかったが、今は目の前の獲物に骨の髄までどちらが上なのかを叩きつけてやりたいと耐える。
しかし一瞬で終わるかと思った締め付けはなかなか終わらず、それどころかぎゅうと身体を丸めてびくびくと肩を跳ねさせているのは。
「え、もしかしてお前イったのか?」
見下ろしても銃兎のものはガチガチのままだ。だが答える余裕も無く唇を噛み締めて耐える姿は女がイく時のそれに似ていた。こくこくと声無く頷く頭に左馬刻の昂りは益々収まらない。
「イっ…たから、イってるからだめ…っ」
「うるせぇな俺様はまだなんだよ」
今、自分が酷く凶悪な顔で笑っている自覚がある。柔な制止を振り切って今度こそ終わりへと向けて銃兎を揺さぶる。
「ゃっ…ぁっ……むりぃ…っだめ…」
「おいおいどーしたよテメーのクソデカ声は」
「ほんと、に…無理…っっ」
「はっ、蚊の泣く声みてぇになってんぞ」
すすり泣きながら必死に訴え、それでも止まらない左馬刻にすがるしか無い銃兎の姿に満たされる征服欲。仮面を被る余裕も無くなった銃兎の鳴き声はずいぶんと密やかなものだったらしい。分厚い壁の内側の柔らかな部分を思う存分食い荒らしているようで気分が良い。きっとこんな銃兎は他に誰も知らない。否、知らなくて良い。
「ィく、…っっまたイくからだめ、…さまとき、イく…っっ」
「おー、イっちまえよ、何度でも」
伸ばされた銃兎の腕が左馬刻の首筋に絡む。確かな勝利を感じながら、再び痙攣するように絡み付く内蔵の一番奥へと雄の証を吐き出した。

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100万ギルの顔

「五日後にフィガロに行く」と連絡を入れたのはたまたま補給の為に降り立った街に顔見知りのフィガロの技術者が居たからだった。いかに歯車の数を減らし最小の力で最大の効率を得る事に心血を注ぐ彼は同じ技術者として尊敬に値すると素直に思うし、会話をすることで得られる情報も大きい。今日も新たな閃きを形にするための素材の調達に城を出てきたのだと言う彼と気付けば数時間立ち話をしてしまい、五日後くらいには今日の話が形になっていると言うので是非とも見せてくれと、その日ならば行けるからと言っただけの話だった。一応、友人でありこの技術者の主にあたる王様にもよろしく言っておいてくれと付け足したのは大人としての社交辞令にも近い何かだ。


それがどうしてこうなった。 
フィガロ城に着くなりいつもならば挨拶を交わすだけの門番の兵士に「お待ちしておりました」と有無を言わさず王の元へと連行され「やあ親愛なる友人セッツァー、こうして訪ねて来てくれて嬉しいよ」と普段なら「来てたんだ?」と素っ気ない王様から妙に芝居掛かった歓迎の言葉を頂き、あれよあれよと言う間に応接間へと連れ込まれる。そこには「贅を尽くす」と言うに相応しい、数十人の胃袋を満たしてくれそうな山のような料理の数々と、両手でも抱えきれない程に大量の年代物のワインが並び、まるで盛大な夜宴が開かれるかのようだ。 
「なんだこれ」 
「君が予め訪ねて来る事を教えてくれたのは初めてだからね、日頃の感謝を込めて盛大におもてなしさせてもらおうと思って」 
「いつも連絡しないことへのイヤミか」 
「違うよ、今日は君を「世界を救った英雄の一人」として国を上げて歓迎しているだけさ」 
君とロックはいつも突然来るからなかなか出来なくてね、と麗しの美貌を綻ばせている王様は随分とご機嫌そうだ。よくわからない王様のお遊びに巻き込まれているのを察してセッツァーの顔は逆に顰めっ面になってしまう。 
「本当は城の重鎮を呼んで会食にしても良かったんだけど…あまり堅苦しいのは嫌いだろう?私達だけだから好きなだけ飲んで食べて楽しんで」 
「外じゃあ未だに食うのに困ってる奴等が居るってのに、金持ちは違うな」 
「それほど余裕があるわけじゃないさ。けれどこんな時だからこそお金を使うのも私達の義務だよ。節制ばかりしていたら芸術はすぐに廃れて失われてしまう」 
皮肉を言おうにも打てば響くようにそれらしい言葉が返って来てしまい思わず口をつぐむ。そんな話はジドールの金持ち達からも聞いた気がする。絵を描く以外に取り柄の無いお気に入りの画家が気付いたら餓死していただの、好物の高級食材を仕入れていた商人が、こんなご時世だからと我慢している間にその食材を取り扱わなくなってしまい今では食べられなくなってしまっただの、大事に育てていたオペラ歌手が舞台が無い間に実家に帰って農家を継いでしまい、いくら呼び戻そうとしても「家業があるから」と取り付く島も無いだの。 
世界が貧した時に真っ先に仕事を失うのは金持ちの道楽に従事する人々だ。目の前に並ぶ細やかな細工が施された銀食器や庶民はお目にかかることも無いような高級食材の数々は確かに今、絶滅の危機にあるのかもしれない。 
「ほら、座って。今、君のお目当ての彼も呼ぶから」 
促されるままにふかふかと柔らかすぎて埋もれそうな椅子へと腰を下ろすと横からワインのボトルが差し出されたので大人しくグラスを差し出す。 
「いつもとはえらい違う扱いじゃねぇか。見返りに何を要求されるのか怖いもんだ」 
王自ら注がれたワインを軽く揺らす。ふわりと薫り立つそれはいつも「勝手にやってて」と渡されるボトルよりも優雅な薫りがした。 
「じゃあ、まあ、遠慮なく」 
エドガーも自分の分のワインを注いだのを見計らってからグラスを掲げて乾杯する。 


程なくしてノックと共にやって来たのは件の技術者だった。がらごろと台車に乗せた運ばれてきた歯車やピストンが複雑に絡み合った機構の基本構造の説明に始まり前作からの改良点、それによるメリットデメリット等の話になる頃には食べるのも忘れて三人でああでもないこうでもないと議論に夢中になった。エドガーも王と言う肩書きを外してしまえば一流の技術者だ。セッツァーに負けず劣らずこの手の話には目がない。白熱した議論への末にセッツァーは飛空挺への流用を、エドガーは新たな機械製造の構想を、技術者が次の改良点を纏めた頃にはすっかり夜も更けて来た頃だった。ワインのボトルこそ何本か空けたが結局食事は殆ど食べず終いだ。だが有意義な時間を過ごせたお陰で心は満ち足りていた。技術者にはまたいずれ進捗を聞かせてもらうことを約束して帰って行くのを見届ける。 
そうしてテーブルへと視線を戻した時、元々あまり食べないセッツァーはともかく、お上品な仕草でペロリと人の三人前は平らげるエドガーも殆ど食べていない事に気付く。 
「おい、お前は食べないのか。腹が減るだろ」 
「私は良いんだよ、ホストだからね」 
アルコールに弱い訳では無い筈だが、胃に殆ど物を入れずに飲んでいたせいかエドガーの目尻が赤い。ふわふわと笑う姿に珍しいものを見たような気になりながら首を捻る。 
「お前が食べなかったらこの残った食事をどうするんだ。てっきりお前が食べ尽くすと思ってたんだが」 
「私は良いんだよ」 
「じゃあ捨てるのか?全部?」 
さすがに餓死するような貧しさからは脱したものの、地域によっては未だに質素な生活を強いられてる今、金を使うことが目的だったとは言え一国の王がこれだけの高級食材の数々をただ捨てるのはいかがなものかと思わず責めるような強さになってしまった。対するエドガーはんん、と曖昧に困り顔で笑っていた。 
「…食べるよ、ちゃんと」 
「なら待っててやるから食べちまえよ。お前が少食気取りとか気持ちが悪い」 
「君、私の事なんだと思ってるの」 
「大飯食らいの胃袋ゾーンイーター」 
「ひどいな!」 
あははと声を上げて笑うエドガーにそのまま有耶無耶にされるつもりは無いと腕を組んでじぃと見詰めてやれば、やがて降参だとでも言うように肩を竦めた。 
「残ったものは、城の皆に食べてもらうんだ。みっとも無いからあまり言いたく無かったんだけど…本当はちゃんと皆を労ってあげたいのに頑なに受け入れてもらえないんだ。だから君の為の宴ってことにして余らせたら皆食べてくれるかなって」 
「それが目的だったのか、人をダシにしやがって」 
「君をおもてなししたいと思ったのだって本当さ」 
「何故」 
「いつもお世話になってるし…これからもお世話になるつもりだし」 
そう言ってふにゃりと笑うエドガーに思わず眉を潜める。そうでもしないと顔がにやけそうだ。この自分の顔面の威力をわかっている男の緩んだ笑顔にまんまと情が湧く自分の身体が妬ましい。 
「君、本当に俺の顔好きだね」 
「うるせぇ、わかってんなら黙って鑑賞されてろ」 
「鑑賞だけでいいのかい?」 
「ここでおっぱじめても良いって言うならいつでも手を出してやるが」 
「それは困るなあ」 
ふわふわ笑いながらもエドガーが立ち上がるのに合わせてセッツァーも腰を上げる。長いこと喋ることに集中していた身体があちこちで軋んでいた。 
「後片付けをお願いしたらすぐに行くから、いつもの部屋で待ってて」 
「途中で寝るなよ?」 
「君を待たせてそんな無粋はしないさ」 
調子の良い事を言う男の背を軽く叩いて一足先に部屋を出る。すれ違うように部屋へと入っていった側仕えに指示を伝える声を背に、いつもの部屋…殆どセッツァー専用となっているゲストルームへと向かった。 


セッツァーとエドガーの関係性を言葉にするなら「共に世界を救った仲間」というのが最も適切であり、もう少し噛み砕いて言うならば「友人」と言うのが妥当だろう。ただし、肉体関係はある。それも旅をしている時から。 
それでもセッツァーにとってエドガーは友人であって、それ以上でもそれ以下でも無い。こうして時々フィガロ城に遊びに来るのは数少ない機械の事がわかる相手を求めての事だし、ここに来ればそれなりに質の良い時間が約束されているし、旅をしていた頃から度々訪れていたために城の殆どの人間と顔馴染みになっているために気兼ねも無い。 
瓜二つの彼の弟はそれを「爛れた大人だ」と笑っていたし、元帝国将軍の美しい女性は「女好き同士の二人が何故」と心配して見せた。自分でもよくわからないからあまり深く聞かないで欲しい。 
そもそも始まりはエドガーが持て余した性欲の捌け口をセッツァーに求めた所からだ。仲間に女性は何人かいたものの「もしもの時に責任が取れない」からと手が出せなかったらしい。だからと言ってセッツァーにその代わりを求めた事に本来なら怒るべきなのだろうが、享楽的な性格ゆえに「仕方ねえなあ」と思うに留まった。元より明日の未来よりも今の刹那を求める性質だ、気持ち良いセックスを拒否する選択肢は無い。 


いつものゲストルームの扉を開くとふわりと暖かい空気が溢れて来た。そこかしこに花が飾りつけられ、暖炉に火が入っている。いつもならば手入れはされていても、夜の砂漠の冷気そのままの温度の部屋であったが今日はちゃんと客を迎える為の部屋に仕立てあげられているらしい。テーブルには果物が溢れんばかりに盛られたバスケットと、氷の入ったバケツにワインのボトルが冷やされていた。これも職人支援の一貫だとはわかっていてもなんとなくむず痒いものを感じながら、遠慮なくコルクを抜くとそのまま直接ボトルに口をつけて煽る。お上品に薫りを楽しみながら云々も悪くは無いと思うがやはりこの方が手っ取り早くて気楽だ。 
片手間にスカーフを取り去り、コートも脱いでソファへと投げると暖炉の前のラグへとボトル片手に腰を下ろす。時折薪のはぜる音を聞きながらのんびりとしていると、それほど時を経ずにエドガーがやって来た。 
「やあ、お待たせしたね」 
先程よりは王様の顔に戻っている。ひらひらと片手を上げて挨拶代わりに応えてやれば、嬉しそうに顔を綻ばせながらセッツァーの隣に並ぶようにラグの上へと腰を下ろす。 
「またボトルから飲んでる」 
「もう見慣れただろ、諦めろ」 
「俺にもちょうだい」 
咎めるのかと思いきや勝手にボトルを奪い取り流れるように喉を鳴らして飲み始める珍しい姿に、思ったよりも酔っているらしいことを察する。 
「その辺にしておけ、お前大分酔ってるだろう」 
「それほどでも無いよ」 
「大飯食らいのお前がろくに食わねぇで飲んでたんだ、普段より回ってるだろ」 
「そんなに弱くないって」 
「そのまま寝落ちても知らんぞ」 
ぷはあと息を吐くエドガーの手元では半分にまで中身を減らされたボトル。これはもう今日はこのままエドガーが寝てしまう事になるのだろうと半分諦めの心地で溜め息を吐く。それなりに夜を楽しみにしていたが、絶対にしなければ収まらないと言うほど青くも無い。 
予想通り、エドガーはとろとろと酔いが回った眼で瞬き、それからセッツァーを見るとへにゃりと笑った。 
「お前、その顔すれば俺が絆されるってわかってやってるだろ」 
「ふふ、そうだね、君は俺の顔大好きだもんね」 
はい、と返されたボトルを受けとるとそのまま倒れ混むようにして覆い被さる巨体に耐えきれず仰向けに寝転がる。ボトルだけはなんとか溢さないようにこらえた。 
「あっ…ぶないだろ酔っぱらい」 
「酔って無いってば」 
未だに酔ってる事を認めない酔っ払いはセッツァーの髪やら額やらにご機嫌で口付けを落として回っている。常ならばこれはそろそろの合図と受けとる所だが相手は酔っ払いだ。まともに相手するだけ馬鹿らしいと好きにさせて置く。その唇が首筋へと落ち、指先が器用にシャツのボタンを一つずつはずして傷だらけの肌の上を這う頃になって漸くセッツァーがただぼんやりと体を投げ出していることに気付いたらしいエドガーがこてりと首を傾ける。 
「どうしたの?今日はダメ?」 
「そういう訳じゃないが…そうだな、あと30分起きてられたら相手してやるよ」 
「信用ないなあ」 
ほら退いた退いたと手で追い払えば渋々ながらもエドガーが身を起こすのに合わせてセッツァーも身体を起こす。やれやれと思いながらソファを背凭れにして体重を預けると右肩にぽふりとプラチナブロンドが乗っかった。 
「今日はやけに甘えるじゃねえか」 
「媚を売ってるんだよ」 
「やっぱり今日のオモテナシやらと言い何か企んでやがったのか」 
右肩にずっしりとのし掛かる頭を遠慮なくぐしゃぐしゃとかき混ぜてやると楽しげな笑い声が漏れた。酔っ払いのエドガーはもとより、セッツァーも大分飲んではいる。ぴったりとくっついた身体の右側がじっとりと熱かった。 
「で?シたいんだったらとっとと吐いちまいな、じゃないと気になって俺が集中出来ねえぞ」 
「触ればすぐその気になる癖に」 
抗議の代わりに髪ごと頭皮へと軽く歯を立ててやれば痛ぁ、と頭を押さえて逃げて行った。右側がひんやりする。口の中は弾みで抜けたらしい髪が歯に引っ掛かってとれ無いしやらなければよかったと後悔した。 
「たまに凶暴になるよね、君」 
「ほら言うのか言わねえのかどっちなんだ言わないなら寝るぞ」 
よ、と腰を浮かせようとすると右腕を掴む熱い掌と肩の上に再び乗せられた頭…今度はじいとセッツァーを見上げるように上目遣いでこちらを見ている。正しくセッツァー弱い顔を熟知している。ほわほわに見えてこういうところは腹黒い生き物なんだなとしみじみ思い出す。 
「…月に三日…いや二日で良いから君の時間をくれない?」 
改めて言うがセッツァーはエドガーの顔が好みだ。普段の王様らしく威厳のある顔よりもこうして気が抜けて無闇矢鱈と笑顔を振り撒く時の顔が好きだ。造形の好みの話であって、恋とか愛とかそう言った話では無い。 
「もちろん、日取りは君にお任せするけど…確実に月に一度は君に会いたいんだ。駄目かな?」 
ご丁寧に普段はきりりとした眉尻を下げてかくんと首を傾げる。わざわざでかい図体を丸めて上目遣いを維持したままでだ。何か皮肉の一つでも言ってやりたくて口を開こうとすれど余計な言葉しか出てこない気がして音にならない。アルコールで蕩けた瞳がじいとセッツァーを見詰めそして正しく心情を読み取ったらしくふわりと笑顔になった。反射的に舌打ちを漏らしてしまうくらいは許して欲しい。 
「君のそういうところ、可愛いと思うし好きだよ」 
「何が狙いだ」 
すっかり敗者の心地でつい声が尖るが勝者たるエドガーはご機嫌だった。 
「色んな所と物資のやり取りをしているんだけど、やっぱり飛空挺の早さを知っていると陸路や海路は遅すぎて。月に一度でも君が手伝ってくれたらとても助かるなと思って」 
「ファルコンが目当てか!」 
「もちろん優秀な操縦士様も求めてるよ」 
ちゅ、と頬に口付けを落とされても今は嬉しく無い。否、珍しくこの男が甘えて来た事はそれなりに評価してやりたいがまんまとその手管に落とされた感が精神衛生上よくない。もはやこの酔っ払いの姿もセッツァーを落とす為の演技なのでは、いや演技でなくともわざと酔ったのでは無いかとすら思えてくる。 
「…報酬は」 
「あまり多くは出せそうに無いんだ。勿論燃料代やその他必要経費は払うけど…あとはうちの技術提供とか、情報提供とか直接的な儲けには貢献出来ないと思う」 
「ほぼ無償奉仕か」 
「なんなら俺を報酬に付け足すよ」 
もうここまで来て断られることは無いと確信したエドガーの満面の笑みに辛うじて溜め息を吐くだけに留める。まんまと術中にハマってしまったのはセッツァーの落ち度だ。仕方ない。この男を相手にしているといつもこうだ。最後は仕方ないとセッツァーが諦めるはめになる。 
「契約金の前払いを寄越せ」 
ずっと口にすることなく握りしめていたボトルをテーブルへと置く意味を正しく読み取ったエドガーが「喜んで」とのし掛かって来るのに、セッツァーはもう一度溜め息を落として瞼を下ろした。

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