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空箱

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父レオ/兄レオ

後ろ手に両腕を拘束され、真っ白なシーツに息が出来ない程に顔を押し付けられ、尻だけを高く持ち上げられる。怖くて、逃れたくて、必死にもがいても大きな父の手はびくともしない。骨盤が軋む程に腰を握られ、そうして本来、他人に触れさせるような場所では無い所にひたりと押し当てられる、熱い塊。
何度経験してもこの恐怖は少しも和らぎはしない。ただ闇雲にもがくより、身体の力を抜いた方が楽だという事は覚えた。覚えたからといって、カタカタと震える程に恐怖で強張ってしまった身体は言う事を聞いてくれなかったが。
「――ぃ、……っっっっ!」
めり、と脚の間から真っ二つに引き裂かれるような痛み。息を止めるな、深呼吸をしろと言う記憶の中の兄の声に従おうとしても、呼吸すら巧く出来ずにひぅ、と喉が鳴った。まるで腹の中に焼けた杭でも打ち込まれたかのように熱くて痛いのに、冷や汗に塗れた肌が寒い。
力を抜かなければと思うのに、痛くて、辛くて、逃げたくて、のたうつ身体を押さえ付けて、ず、ず、とレオナの柔らかな内側が無造作に引き裂かれて行く。汗も、涙も、悲鳴すらもシーツが吸い取ってくれたが、痛みだけは決して逃してはくれなかった。下肢ばかりか、頭までガンガンと金槌で叩かれているかのように痛い。
「――……強情なのは、あの阿婆擦れ譲りだな。大人しく雌らしくしていれば可愛げがあるものを」
頭にぐっと体重が乗せられ、耳元で嘲笑う父の声。怖くても、痛くても、辛くても、この男の言いなりになってやるのだけは許せなかった。何もかもを奪われ、名ばかりの第二王子としてただ生かされているレオナのささやかな反抗だった。いっそその憎しみのままに殺してくれれば良い物を、王家の威厳を損なうだとかなんだとか、碌でも無い理由でレオナは飼い殺されている。
王が愛した筈の女が、王の寵愛を受けながらも違う男と愛し合い、子まで成した。それがわかったのは既に王の子として民に周知させた後だから、今更それを覆す事は出来ない。それが、周りの反対を押し切ってまで王が強引に後宮に迎え入れたハイエナの娘の子だったから尚更の事。
これは躾なのだと、父は言う。
キングスカラーに、雄は二人も要らない。夕焼けの草原という群れを率いる雄は、王と、その後継者のファレナだけで良い。レオナがそれでも此処で生きる事を許されているのは、雌だからだ。だからレオでは無く、レオナと名付けたのだと、父は言葉で、身体で、レオナに教えているのだと言う。
父が命ずるままに、呼ばれた日には父の従僕の元へと向かい「雌になる為の準備」を大人しく受ければ此処までの苦痛は無いのだろう。少なくとも、何が起きるのかもわからずにただ為すがまま父を初めて受け入れた日は、此処まで辛いと思わなかった。その代わりに頭も体もどろどろに溶けてしまうようなおかしな薬を嗅がされ、能面のような顔をした父の従僕に機械的に尻の穴を解され、腹の奥深くまで犯される事を喜び、父が望むように雌として振舞う生き物にされてしまう。
そんな姿をこの男の前に晒すくらいなら、殺された方がマシだった。唯々諾々と抱かれてやる雌なのでは無く、犯される事に怒り、憎しみを増す雄なのだと精一杯の反抗だった。
「ぎ、……ッぅ、ぐ……ッッ」
不意に後ろで組んで縛られた腕を掴まれ、片手で易々と身体を引きずり起こされると腹の底の鈍痛が全身にまで響く。異物を受け入れ、乾いた場所を強引に引き剥がすような痛みを訴えていた場所はもう痛みというよりもただ、熱くて辛い。耐えがたい鈍痛が脈拍と同じ速度でレオナを苛む。もう何処が痛いのかもよくわからなかった。ただゆっくりと出し入れをされるだけで内臓ごと全て引きずり出されるような痛みを覚えていた場所が、ぬめりを帯びて動きをスムーズにさせていた。
「……こんなに濡れて。本当に女のようだな」
ぐちゃ、ぐちゅ、と内臓を壊す音を立てながら次第に早くなる動きに吐き気がする。父が腰を両手で掴み直すと支える物の無い上半身は姿勢を維持する力も無くシーツへと顔面から落ちた。
「っひ、っぐ……ッぅ、……う……」
ともすれば上がりそうになる悲鳴を、シーツを噛み締めて押し殺す。そうでもしなければ痛くて、怖くて、みっともなく父に泣いて許しを請うてしまいそうだった。父の大きな物が奥深くまで突き上げる度に内蔵全てが揺さぶられ、あまりの衝撃に耐え切れずに嘔吐くが、今朝に父の命令を聞いて以降、恐怖で食欲を失い何も食べていない身体からは苦い胃酸しか吐き出せなかった。
肉を打つ音がするほどに勢いよく何度も腰が打ち付けられ、ぐちゃぐちゃと流れた血が泡立つ音がする。あまりにも辛くて、もはや何故こんなになってまで必死に耐えているのかよくわからなくなっていた。早く終わってくれとただぎゅっと身を縮こまらせて耐えるだけで精一杯だった。溢れる涙で息苦しい。苦い唾液で濡れたシーツを噛み締めながら、細い糸一本で辛うじて耐えているような状況だった。
「……は、出すぞ。……確り孕めよ」
父の言葉も、朧にしか理解が出来なかった。既に身体の内側は痛みで感覚が無く、自分がどうなっているのかすらわからない。ただ、ぎゅうと強く腰を掴まれ、肩を強く噛まれて、漸く終わったのだろうと思う。きっとまた、下肢は見るに堪えない惨状になっているのだろう。ファレナにまた無駄な心配をかけるな、と薄れゆく意識の中で、レオナは思った。
ひんやりとした指先に頬を撫でられて緩やかに意識が浮上する。腫れぼったく重たい瞼をなんとか持ち上げれば、霞んだ視界に映る夕焼け色の髪。
「……おはよう、レオナ」
穏やかな、兄の声。頬を包み込む冷たい肌が心地良くて、すり、と懐かせる。
「……っ、」
おはよう、と言おうとしたつもりだった。だが痛む喉はひゅうひゅうと空気が通る音を立てるだけだった。
「……まだ、熱が高い。ゆっくり体を休めなさい」
そう言って、レオナの前髪を掌で掻き上げて露わになった額に唇が押し付けられる。小さな水音を一つを残して離れようとする指先に縋りついたのは無意識だった。嫌だ、行かないでと言葉にしたいのに、いくら唇を動かしても喉はまともな音一つ生み出せない。立ち上がろうとしていたファレナが困ったような顔で微笑んでいた。
「……せめて、熱が下がってからだ。元気になったら、何でも言う事を聞いてあげるから」
言葉が生み出せない代わりのように、ぼろりと目から涙が溢れる。それを恥じらう心もあったが、兄を引き留めるのに必死だった。レオナよりもずっと大きな手の、二本の指をきゅうと握り締めて首を振る。
「レオナ、聞き分けてくれ。お前に無理はさせたくない」
兄も頑なだった。レオナを労わっているからなのだということは、わかっている。どうすればこの寂しさを伝えられるのかわからなくて、握った指先を引き寄せて口付けた。ひんやりした肌が蕩けた舌に心地よかった。いつも兄がしてくれる時のように太い関節までぱくりと咥えて舌を絡ませてみるが、戸惑ったようにぴくりとも動かない指は、いつものようなふわふわと頭が蕩けるような気持ち良さは連れて来てくれない。はふ、と一度息苦しさを隙間から吐き出して、舌で指の合間を舐める。兄がレオナを舐めてくれる時の事を思い出して、必死に動きを真似して、溢れる唾液を啜る。この手に触れて欲しくて必死だった。
「……レオナ」
咎めるとも、宥めるとも違う、熱っぽい吐息で名を呼ばれてぞくりと背が震える。今までただレオナに舐られるだけで大人しかった指の背で上顎を擦られてんふ、と鼻から息が漏れた。こりこりとした兄の指の骨がそこをなぞるだけでじんわりと熱い身体が蕩けて行く。ちらりと見上げた兄の顔は、滲んだ視界ではどんな表情なのかわからなかった。
「……辛くなったら、言うんだよ」
そうして、レオナをすっぽりと隠してしまう程の体躯が覆い被さって来る。欲しい物が得られる事が嬉しくて、緩む頬を隠し切れずにこくりと一つ頷いた。
「本当に、痛くないんだな?」
もう何度もされた問いにこくこくと何度も頷いて見せる。早く、その宛がわれた熱を中に埋めて欲しかった。
痛くない、と言えば嘘になる。薬を纏った指一本で丁寧に中を探られるだけでも、荒れたその場所は腹の奥まで響くような痛みを訴えていたし、父からされた仕打ちを思い出して身体が震えそうになっていた。でも正直にそれを伝えたらきっと兄は此処で止めてしまうだろう。それよりも、早く満たして欲しい。此処を満たされる事は幸せな事なのだと、教えて欲しい。
覆い被さる兄に縋りつくレオナの頬に口付けが落とされ、それから大きな掌に腰を掴まれて、熱が、埋まる。
「――……ッっ!!」
声が出ないのは、都合が良かった。痛みに押し出されるようにして吐き出された息は、何の音も生み出さない。気遣うようにゆっくりと中に埋まってゆく熱が、痛くて、辛くて、でもそれ以上に気持ち良かった。触覚から受け取る快感とはまた別の、多幸感が溢れ出るような気持ち良さ。身体がどれだけしんどくても、兄の物で腹が満たされているのだと思えば幸せだった。
「レオナ、……」
躊躇うような声に兄を見上げると、すっかり視界が歪んでいた。熱が出ると涙腺が緩くなるからいけない。言葉の代わりに、首にしがみついた腕に力を籠め、兄の腰に足を絡めて引き寄せる。お願いだから、此処まで来て止めるなんて言わないで欲しい。怖い記憶を、早く幸せな記憶に塗り替えて欲しい。
音を生み出せない声の代わりに、唇を、ふぁ、れ、な、とゆっくりと動かして、呼ぶ。そうしたら空気に触れた舌が寂しくて、兄の分厚い舌が恋しくて、そっと舌を差し出して、誘う。
ふ、と息を吐きだした兄が、顔を寄せ、大きな口で唇を塞がれる。レオナの口一杯になってしまうような分厚い舌に口内を満たされて、頭がふわふわする。
「――ッっ」
ず、と腹の中に埋まった熱が抜けようとすると走る痛みに息が詰まった。すぐに離れようとする兄の首にしがみつき、腰に足を絡めて逃がさないようにする。
これは気持ち良い事。
兄としているのだから、気持ち良く無い訳がない。
レオナが気持ち良いのだから、兄にだって気持ち良くなって欲しい。
父の寵愛を受けながらも他の男を愛した母のように、レオナも父を裏切ってやるのはいい気味だ。
レオナは、父を相手にしている時には苦痛しか無いが、兄が相手ならば喜んで自ら足を開いて雌にだってなってやるくらい気持ち良いのだと、必死に自分で言い聞かせる。
諦めたように再び動き始めた兄が、腹の中をゆっくりと擦るだけでびりびりする程気持ち良い。肩が跳ねてしまうのは気持ち良いからだ。息だって、思わず甘い声が出そうになるから詰まるだけだ。
大丈夫、気持ち良い。こんな怪我をしていない時に兄と触れ合う時の事を思い出せば、ほら、こんなにも気持ち良い。
「――……っっっっ!」
ズキン、と身体の奥底から走り抜ける快感にがくんと身体を仰け反らせながら、レオナの意識は白く弾けた。

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インソムニア

厳つい顔の衛兵に守られた、国王陛下殿の執務室の重い扉を開けて中に入れば、想像通りにやつれた兄の姿を見つけて思わず笑ってしまう。
「レオナ!帰っていたのか!」
「全て滞り無く。……詳しい報告は後でしてやるから、寝ろ」
大人しく机に向かってペンを走らせていたものの、レオナに気付くなり華やかな笑顔を浮かべる兄に近付き頬を撫でようとすれば椅子を引いて逃げられる。代わりに行き先を失った指先がするりと絡め取られて引っ張られたので、逆らう事無く兄の膝の上に跨り座ってやった。そのまま幼子のようにぎゅうとレオナの背中を抱き、胸元に顔を埋めて深呼吸をする兄の頭に顔を埋めてレオナも肺一杯に兄の香りを吸う。恐らくこれは、風呂にも入っていないのだろう。酸化した皮脂の匂いが籠っている。くせぇ、と笑いながらもつい、ふわふわの髪に鼻を埋めて匂いを嗅いでしまう。兄の、匂い。
「……おい」
レオナの胸元に顔を埋めたまま、背中から滑り落ちた大きな掌がレオナの尻を揉んでいた。布の奥の、肉の感触を確かめるような指先はいやらしくも擽ったい。更にはシャツの上からたっぷりの唾液を含んだ唇に、じゅう、と胸の先を吸われて息を呑んでしまい、思わず兄の髪を引っ張る。
「ファレナ。まずは、寝ろ。あとでいくらでも相手してやるから」
「しないと寝れないよ。わかるだろう?」
後ろ髪を引かれるまま顎を上げて首を晒す兄の目の下には酷い隈が出来ていた。今回はいつから寝ていないのやらと思いながら、引き寄せられ尻の下に触れるのは兄の足の間で硬くなった物。
「……舐めて、やるから」
「いやだ、お前を抱きたい」
「そう言ってこの前も途中で寝ただろうが」
「今日は大丈夫だから、本当に。寝て無いのも昨日だけだ」
「眠気と戦いながらのまどろっこしいのじゃなくて抱き潰されるくらい激しいのが良いって言ってんだよ」
「大丈夫、大丈夫だから」
そんな疲労で血走った目で、レオナの言葉の意味の半分も理解出来ないような頭で何が大丈夫だと言うのか。思わず落とした溜息と、髪を引く手が緩んだのを了承と受け取ったのか兄がレオナを抱えたまま立ち上がる。それなりに重さがある筈なのに軽々と抱え上げられてしまうのが悲しい。だが、その足取りは確かに確りしているようだと、一人ほっと息を吐く。
兄が、独りでは巧く寝れないという事を知ったのはそれほど昔の事ではない。
何せ小さい頃から兄とは良く同じベッドで寝ていたし、レオナと共に居る時の兄は起こさなければ一生寝ているのでは無いかというくらいよく眠る男だったのだから気付ける筈も無い。それどころか同じベッドで眠る日々は今現在に至るまで続いており、レオナの前の兄が良く眠るというのも変わりない。時間の許す限り身体を重ねて、抱き締めあって、そうして眠りに落ちて、また起きては貪り合う。
そんな兄が、レオナの前以外では殆ど眠らないのだと教えてくれたのは義理姉だった。
普段はベッドを共にしている義理姉は、以前から兄の眠りが浅い事は知りつつも、全く眠れなくなる程で無かった為に長年心配しながらも誰にも相談することが無かったのだと言う。それが悪化したのは、レオナが長年居座った魔法士養成学校を卒業し、漸く国に帰って来てから。レオナがやっと、兄を心から受け入れられるようになった頃からなのだと、義理姉は言っていた。
兄や、この国に対する蟠りが完全に無くなったとは言えない。
ずっと抱え続け、時にはそれを両手に掲げて暴れ、時には見ない振りをして逃げて来た複雑な感情はそう簡単には消えてくれない。だが、もういいかな、と思えるようになる日がある日突然訪れた。大人になったという事なのかもしれない。ほんの少しの妥協と、諦めと、それから現実を有りのままに受け入れる勇気を得た時、今までずっと避けていた兄と向かい合う事が出来るようになった。
愛されていると知りつつも素直に受け入れられずに突っ撥ねていた物を抱き締め、甘え故に募る不満をと怒りをぶつける事しか出来なかった唇で、今まで自分ですら蓋をしていた奥底の気持ちを言葉にした。産まれてからこれまで、世界から忌み嫌われてきたレオナをただ一人愛し続けて来てくれた兄を、素直に認め、同じ愛を返す事を言葉で、身体で存分に伝えた。
兄の不眠症が悪化したのは、長年にわたり深く刻まれていた二人の溝を埋めようとし、この先は穏やかに過ごせる未来が見えて来た頃だった。
レオナに与えられた地位は国の外交を担うもの。国内……というよりは城の中の、古めかしい考え方に捕らわれた偏屈頑固爺もとい重鎮達の意識を変える事が難しいのならば、先に国外にレオナの顔を売ってしまえばレオナをそう簡単には排除出来ないだろうという兄の言葉に従ったから、そうなった。外交を担うとなれば、当然国を空けて世界中を飛び回る事も多い。最初は古くからの国同士のやり取りを引き継ぎ、パイプを太く盤石な物へと育て、そこから更に新たな絆を手繰り寄せて国に結びつける。目に見えて成果が見える物では無かったが、レオナの手腕次第で国の未来の道しるべが出来て行く。望んだ頂点の地位では無かったが、やりがいはあった。気付けば殆どの時間を外で過ごし、祖国には時折帰るのみとなっていた。そうして兄は、睡眠を削るようになった。
レオナが国を空けて最初の内は多少眠るものの、日が過ぎるごとに次第に眠れなくなり、レオナが帰国する予定日が近づくと殆ど眠らなくなる。少々交渉が長引いて帰国が二日遅れた時は三日寝てないと酷い顔で笑う兄に出迎えられて問答無用でベッドに放り投げた。レオナの力でも無理矢理引き摺っても碌に抵抗出来ないくらいに弱っていた兄は、ベッドに放り込まれた瞬間にレオナを抱き締めて眠りに落ちていた。
長年兄の隣に寄り添って来た義理姉曰く、それは兄の甘えなのだという。
幼少の頃より次期国王となるべく育てられた兄の苦労なぞ知らない。知りたくもない。レオナから見た兄はいつも余裕ある大人ぶった顔で、レオナを守る保護者のように振舞っていた。だからレオナは兄をひたむきに慕い、そして反抗期を迎え、最後にはどうしても捨てきれない血の繋がりを知った。
だがそれはレオナから見た兄の姿であって、本来はもう少し違うようだ。
まだ義理姉との距離を測りかねていた頃、「ファレナの睡眠が浅くてほんの少しの事で起こしてしまう、ゆっくり眠ってもらう為にはどうしたら良いか知らないか」と尋ねられた時に「部屋に来ては何をするでも無く人のベッドを占拠して眠る兄なのだから、どうせ暇さえあればどこでも寝てるのだろう、だから寝すぎて夜に寝れないだけなのでは?」と何も知らずに答えてしまった時の義理姉の顔は未だに忘れられない。驚き、何かを悟り、そうして諦めるまでの、美しい女の悲しい笑顔。その時は意味を分かっていなかったが、きっと、その悲しみの一端をレオナが握っている事だけは、何故かぼんやりと理解していた。
義理姉は、恐らく、レオナと兄の関係を殆ど正確に理解している。理解しているからこそ、何も口出しが出来なくなっている。兄のこんな姿を見たらそれは尚更だろう。
今日も城に帰ってくるなり出迎えた義理姉の瞳は凪いでいた。義理姉が出迎えているという事は、お互いもうどういう事かをわかっている。帰りの挨拶もそこそこに「陛下をよろしくお願いします」とつんと鼻を高く上げた義理姉がレオナに言い、レオナはその義理姉の細く華奢な指先を掬い上げ「仰せのままに」と頭を垂れて手の甲に口付けを送る。幾度も繰り返された儀式は、たったそれだけで済んだ。それだけ済ませたら、兄は十分な睡眠がとれるまでの時間、レオナだけの物になる。
執務室の奥にある、王が休息をとる為の部屋。滅多に使われないが毎日掃除が行き届いた此処には埃一つ無い。
殆ど倒れるようにしてベッドに投げ出され、圧し掛かる重みを受け止める。荒い呼吸が首に触れ、べろりと舌でなぞられては遠慮なしに啄まれる。中途半端に体力が残っているのは質が悪い。レオナの匂いだけで異様な興奮状態に陥る癖に、いつ電池が切れるともわからない。
「ファレナ、痕つけんな」
「つけてない、……っはあ、レオナ……」
しつこいくらいに耳の下から鎖骨までのラインを舐められ、しゃぶられ、匂いを嗅がれているのだと思うとレオナまで釣られてそうになるが、ゆっくりと肩を上下させて深呼吸することでなんとか込み上げそうなものを、逃す。レオナが今すべき事はファレナを寝かせる事だ。体温が上がったファレナの匂いに、寝ていない所為で本能のままにレオナを求める姿に、荒々しくレオナを暴こうとしている熱い指先に興奮している場合ではない。
引きちぎりそうな勢いで服が剥がされ、露わになった肌からファレナが舌と唇で丹念に濡らされて行く。まるで食べられているみたいだった。
「ファレナ」
「レオナ、……ッれおな、」
呼びかけてもレオナを味わう事に夢中な兄は自分の欲を満たす事に夢中だった。すっかり裸に剥かれた足の間に、ファレナの熱く猛った物がぐりぐりと押し付けられて腰がぞわぞわとするのを眉を潜めて抑え込む。
「……ファレナ、キスしたい」
髪を引いて、注意を引く。これすらも聞いてくれなかったらどうしようかと思いながらも、兄が、レオナを見た。
「そうだね、うん、キスしよう、レオナ。私のレオナ」
大きな掌に頬を包まれて唇が塞がれる。余裕も何もなく押し込まれた舌が絡みつき、口内を荒す。普段の丁寧さを何処において来たのだと問いただしたいくらいに拙く、雑な動きに余計な興奮を呼び起こしそうになるのを抑えつけて、ただそっと兄の舌を宥めるようにしゃぶる。
「んん、っふ、……」
「っふは、……れおな……んんん」
「は……んむぅ、……」
ただひたすらにレオナを求めるファレナに、ふつふつと心の奥底が満たされていた。かつてあれほど大きかった兄が、まるで幼子のようにレオナだけに縋り甘えているという事実に喜ぶ気持ちが抑えられなかった。夕焼け色の豊かな髪に指を入れてゆっくりと頭を撫でる。滴り流れ込む兄の唾液を飲み下し、もっととせがむように、だが緩やかに舌を絡ませて強請る。
不意に、レオナの口内を思うがままにまさぐっていた舌先が止まった。それから、ずしりと身体に圧し掛かる重みが増す。
「………やっとか」
溢れた唾液を舐め取り、ちゅ、と口付けを一つ落としてゆっくりと息を吐く。目を閉じれば眠り易くなるだろうと思い仕掛けた事だったが、上手くいって良かった。もう少し時間が掛かってしまえば、レオナまで抑えきれない熱に流されてしまう所だった。レオナとて、兄と離れていて飢えているのは事実なのだから。
早く寝てくれたのは助かったが、服を着たままの兄の下、手足に中途半端に服を絡みつかせたまま殆ど剥かれているのがなんとも虚しい。下手に身じろいで再び起こすような事もしたくなかった。今はただ、兄を眠らせてやりたい。
レオナの顔の横に、髪に顔を埋め突っ伏すようにして兄の穏やかな寝息が聞こえる。吐息一つで集まりかけた熱を逃して兄の背をそっと抱き締めた。少しでも、兄が穏やかに眠れますように。
-------------------------
久方ぶりにすっきりとした目覚めに瞼を開ける。まだ外からは太陽の光が差し込んでいた。
腕の中には無防備な顔で眠る弟の姿。中途半端に服が脱げて絡みついた格好のまま、窮屈そうに身を縮こまらせつつもファレナにすり寄り寝ているのを見て、さて寝る前に自分は何をやらかしたのだったかと思い返してみるが、レオナが扉を開けて部屋に姿を現した記憶の後はあやふやだった。
そっと抱き締め、つむじに顔を寄せて深呼吸をすれば肺一杯に広がる弟の香り。ほんのりと甘さが混じっているのは香水だろうか。国内にいる時は自然体を好む弟が纏う、知らない香り。己が命じた職務を全うする為の手段の一つだと知っていてもなんだか妬けてしまう。小さな頃から大切な大切な弟だった。ファレナが唯一、全てを曝け出せる相手だった。
王という、国の頂点に立つ地位は、周りからはとても恵まれた豊かな場所だと思われがちであるが、実際にはファレナの手の中に持てる物は殆どない。十分すぎる程の衣食住を与えられ、大勢の人に愛され、慕われ、莫大な富をファレナの意思一つで動かす事は出来るが、その代わりにファレナの個は一切尊重されない。常に清く、正しく、この国の王である姿を求められる。心から愛し合い、何よりも大切な物としてこの腕の中に抱き締めた筈の妻も、二人の愛の証である息子も、所詮は国の為の生贄だ。誰よりも愛している事は確かだが、二人はもう、ファレナの物であってファレナの物ではない。
だが弟だけは違った。存在を忌み嫌われていた弟だが、忌み嫌われていたからこそ、彼は国の物にはならずに済んだ。
歳の離れた、可愛い可愛い弟。いつかは王家の枷を外し、外へと飛び立ってしまうかもしれない自由な生き物。手放したく無くて、愛し方を間違えた事もあった。傷つけた事もあった。争った事もあった。憎しみを向けられた事もあった。それでもファレナの傍から弟が居なくなる事だけは我慢ならずに酷い事を、たくさん、した。
その弟が、散々ファレナの犠牲となり傷付いてきた筈の弟が、自らの意思で王家の首輪を嵌めた。なけなしの理性で逃げ道は残しておいた筈だった。寮というファレナの手の届かない外の世界で数年を過ごしてしまえば、きっと賢い弟はファレナの元を去っていくと覚悟の上で見送った筈だった。弟を手放したく無い気持ちと同じくらい、弟の幸せを願っていた。
それなのにファレナの元へと帰って来た弟は、最後の最後に「今を逃せば二度と逃げられなくなるぞ」と忠告したファレナに、美しい雄へと成長した顔に少しだけ憂いを帯びた笑みを浮かべて「俺もキングスカラーだ」と応えた。
外に出れば遺憾なくその大人びた美貌を発揮する弟ではあるが、寝顔は案外、幼い。
まだ無邪気にファレナを慕っていた幼少期を思い出して思わず口元が緩んでしまう。こんなにまじまじと弟の寝顔を眺めるのも随分久しぶりの事だった。このまま寝顔を堪能していたい気持ちもあるが、いかんせん、寝起きで股間が昂っている。起こさぬようにつむじに鼻を押し付けながら、そっと弟の背を撫でる。滑らかな肌がの下で、確りとした筋肉が呼吸に合わせて静かに動いていた。その、筋肉の合間にある背骨の窪みを辿りゆっくりと指先を滑らせればたどり着く柔らかな肉。中途半端に脱がされたベルトに押し上げられそこは指が埋まる程に柔らかい。その感触が心地よくて、ベルトの下に掌を潜らせて手の中に収まってしまう小さな尻の感触を存分に楽しむ。今は柔らかいこの肉が、奥を突いてやる度に堅く収縮してファレナを絞り上げる快感を思い出してつい、吐息が漏れる。目の前で、擽ったげに耳がぴるぴると震えていた。
「ん……」
弟はぴくりと眉を寄せて喉を鳴らすが、まだ起きてはいないようだった。ならばもう少し、と指先を尻の割れ目へと潜り込ませばしっとりとした感触に包まれる。谷間の奥深くへ指を埋めてたどり着く場所。散々ファレナの熱を咥え込んで形を変えてしまったそこを爪先でそっと撫ぜて感触を確かめると早くも股間がその奥に包まれることを期待して疼いていた。弟の安らかな眠りを妨げたくは無い、だが早くこの熱を埋めて熱い内側を味わいたい。つい急いた指先が、乾いた入り口にめり込む。
「……あに、き……?」
ぽつりと弟の声がして、顔を覗き込めば眠気を纏わせたエメラルドがとろりと瞬いていた。久方ぶりに呼ばれる呼称がなんだかくすぐったい。まだ覚醒しきっていないようなのを良いことに、埋めた指先でゆったりと縁を内側からなぞればぴくりと震えた筋肉に指が挟み込まれた。
「なに、してんだくそあにき……」
「どうせならおにーたんと呼んで欲しいな」
「アホ抜かせ」
はふんと欠伸を溢してから弟がファレナの胸元に懐いて笑う。
「今、何時だ」
「たぶん、三時間くらいしか経っていないよ」
「体調は?」
「お陰様でこの通り」
ぐ、っと鷲掴んだ尻を引き寄せて猛る熱を押し当ててやれば弟が吹き出した。
「ほんと元気だな」
「レオナに飢えてたんだ」
「ちゃんと規則正しく睡眠取って良い子に待ってられたならすぐにでもご褒美やったんだがな」
「お前を堪能する前に寝たのだから誉めて欲しい」
「気絶って言うんだ、それは」
頑なに許可をくれない癖に、弟の舌がファレナの喉仏をべろりと舐め上げ、ちゅ、と音を立てて啄まれる。揺れる尻尾が、尻を掴む腕にくるりと絡みついて、まるで逃さないとでも言うような。
「……レオナ」
これは許されているのだろうかと問いたいのだが、太い血管の上を唇でなぞるように首に顔を埋めた弟の表情は伺えない。その代わりに布の上からそっと触れる掌が、ファレナの物の輪郭を確かめるように爪先を滑らせていた。強請るように押し付ければ首筋に笑う吐息が触れ、そして望通りに布越しにぴったりと掌の中に包み込まれて息を呑む。
「仕方ねえおにーたんだなあ?」
そう言って、ファレナを見上げたレオナの顔が、揶揄するように笑っていた。ファレナの全てを見通すエメラルドがとろりと蕩けてファレナだけを映していた。たまらずに弟へと圧し掛かるように体勢を変えて唇を塞ぐ。
「っん、夕食には間に合うように控えろよ」
ちらと時計を確認すれば、夕飯の時間まであと二時間程と言う所だろうか。そんな時間で足りるわけが無い。
最後までお小言のような可愛くない事を言う唇を啄み舌を潜り込ませながら、ファレナは夕飯をすっぽかす言い訳を考え始めた。

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おもいでばなし2

2.それから三年後の思い出
本来、レオナは学校と呼ばれる場所に通っている年齢らしい。
でもレオナは特別だから、学校へ通う事は許されない、らしい。
その特別というのが決して良い意味では無い事は、もうわかっている。
全てを砂にしてしまう、レオナのユニーク魔法。
それから、兄の母とは別の、レオナを産み、そしてレオナの記憶に残る前に亡くなってしまった母親。
もしかしたら、父すらも、兄とは異なるかもしれない事。
色々な、本当に色々な事があって、レオナは外へ出る事を禁じられている。
城の人たちに、兄に対する物とはあからさまに違う態度を取られる事は悲しかったけれどもう慣れてしまったし、外の世界は少しだけ憧れてはいるけれど、何が何でも行きたい、と思う程では無いから不満は無かった。今のレオナと同じ年の時に学校に通っていたという兄は「きちんとユニーク魔法をコントロール出来るようになればレオナも学校に通えるようになるさ」と励ましてくれたが、正直、どうでも良かった。
外に出れず、城の人も怯えて近づかないから、と兄が時間の許す限り一緒に居てくれるようになっただけで、レオナにとってはむしろ学校に行けない事は良い事だとすら思っていた。
兄は誰よりもレオナに優しくて、レオナを愛してくれて、レオナの事をわかってくれる。
兄さえレオナの事を愛してくれるのならば、他には何も要らなかった。
椅子に座った兄の膝の上に座り、家庭教師に出された宿題を解く。上にはチュニックを羽織っていたが、下には何も身に纏っていなかった。最初は恥ずかしいとも思ったけれど、今ではこの解放感が楽で良い。何より、兄が喜んでくれる。本当は上だって脱いでしまっても良かったのだが、風邪をひくと行けないから、と兄が許してくれなかった。
兄の右手がチュニックの下に潜り込んで腹から胸を撫で、左手は膝から足の付け根まで内腿をゆっくり往復していた。ずっと昔から変わらない、兄の定位置。擽ったいけれど、これももう慣れてしまった。レオナの肌は触っていて気持ち良いんだ、とふわふわの笑顔で言われてしまったら、止めさせる事なんて出来ない。
「レオナ、それは答えが違う」
「ええ……正解は?」
「それは自分で考えなさい」
レオナの肩に顎を乗せて後ろから覗き込む兄に指摘され、ぞくりと肌が震えた。間違えた答えを消しゴムで消しながら問題文へと目を落とす。
だがそうしている間にも、兄の指先がただ肌を撫でるだけの動きから、胸の薄い皮膚の部分を擽るような動きへと変わる。足の付け根の、普段人に触られるような場所を撫でられる。くすぐったくて、ぞあぞあして、レオナはあまり好きじゃない。
「問題を、良く読んで。何を、どうするのか、ちゃんと考えて」
ヒントはくれるのに、兄の指先が胸の先の小さな突起を爪先でかりかりと引っ掻くから、ぞあぞあが止まらない。逃げたくても兄の太い腕が絡みついているから身動ぎするのがやっとで、すぐに逃げようとした事すら咎めるようにぎゅっと強く胸の先をつねられた。
「っひゃ、」
「ほら、ちゃんと考えなさい。じゃないと、いつまで経っても終わらないよ」
つねられた場所が、じんじんと熱い。じわあ、と身体に熱が滲んで、頭までぼんやりしてしまうから上手く考える事が出来ない。きっと、兄だってレオナに考えさせる気なんて、無い。兄の指がじんじんする先っぽをぴん、と弾くだけで思考なんて簡単に霧散してしまう。
「ふぁ、あ……」
「ほら、早く。……あと十秒」
そう言ってカウントダウンが始まる。ゼロになる前に何か書かなきゃと思うのに、必死に考えようとしているのに、胸の先を摘まんだり捏ねられたりするだけで脳みそがとろとろに蕩けてしまう。
「っぁ、あ……っふ、おにい、ちゃん……ッ」
「ん?」
「おっぱい、やだ……ッぁ」
「嫌でも、仕方ないだろう?間違えたのだから」
「っあ、あ、ぅ……ぅう……ッ」
「ほら、もう時間がないよ。……さん、に、いち……ぜろ」
「っっひゃぅぅ……っっ!」
ゼロ、の瞬間に小さな胸の先を指の間に思い切り擦り潰されて身体が跳ねる。痛くて、熱くて、ぞあぞあが止まらない。身体の中に、もやもやとした何かが渦巻いて息苦しい。
「残念、答えられなかったね」
そう言って笑う兄は楽しそうだった。レオナの汗ばんだ首筋を背後から舐めて、ちゅうと水音を立てて啄まれる。その全てが、身体の中のもやもやを膨らませる。なのに身体はとても重くて、兄の為すがままだった。
逃げようと、思った事すらなかったけれど。
「それじゃあ、罰として下のお口で飴を舐めようね」
「やだあ……」
「嫌じゃないだろう?前に食べた時はあんなに気持ち良さそうだったじゃないか」
「やだ……こわい……」
「大丈夫、慣れたらきっと好きになるから」
「うぅ……」
ほんのささやかな抵抗をしてみるが、弾んだ声の兄が止まる様子はなかった。
レオナが広げた勉強道具の奥に並べられたガラス瓶、一つはいつもの色とりどりの飴玉が入っているが、もう一つの瓶には飴玉よりも一回り小さなピンク色の塊がぎっしりと詰まっていた。その、ピンクが詰まった瓶を取った兄の手が一粒だけ、ピンクの塊を取り出してレオナの唇に押し付ける。思わず顔を顰めながらも大人しく口に入れて一度舌先で転がせば、何も味を感じないそれの表面がぬるりと溶け始めて滑りを帯び、それをそのまま受け取るように待ち構えた兄の掌の上に吐き出す。それから、兄の胸元に背中がぴったりと着く程に深く腰掛けていた身体を前にずらされ、レオナの膝をひっかけたまま兄の足が開かれる。間から落ちる、という程ではない。だがその隙間は兄の腕が忍び込むには十分な隙間だった。
「……力を、抜いて」
無防備に晒された尻の合間に兄の手が入り込み、本来出す為の器官にぬるりとした物が押し当てられる。滑りを擦り付けるように周辺を撫ぜられた後に、ゆっくりと窄まった入口にめり込み、小さなそこを押し広げ、一杯に広がったと思った時にはつるりと奥へと飲み込まれる。
「……ぁ、……」
それと共に潜り込んだ、兄の骨ばった指。太く長い指が、ピンクの飴をゆっくりと奥へと押し込んで行くと一層もやもやが強くなり、腹の底が重くなったような気がする。決して急ぐ事無く、いっぱいに押し開かれた中を確かめるように指先が丹念に内側を撫でる。太い関節が、入口に引っかかり、緩やかに出し入れをされると、込み上げた何かでくふんと鼻から息が漏れる。
「ッん、……っふ、ぅ……」
兄の指が、面白がるように念入りに入口をひっかけては、ぬるり、ぬるりと出し入れをされ、少しずつ兄の指先がレオナの身体に埋め込まれて行く。何度も関節で入口を撫ぜられながら、ついに一番奥まで到達する。その頃には先に押し込まれた塊はすっかりと溶けて形を無くしていた。体温で溶け、ぬるぬるの液体になった物を、兄の指がゆったりと内側に塗り込めて、時折くぷりと水音が立つ。
「っひぅ、……んんぅ……」
身体の中心を掴まれてしまったかのように何かが込み上げて、机の端にしがみついて身体がきゅうと丸まる。少しでもその不思議な感覚から身を守りたくて足を閉じたいのに兄の足が邪魔をして閉じられない。それどころか震える内腿が兄の膝によってぐい、と更に大きく開かれる。
「っや、ぁあ、あ……ッ」
中に埋まった兄の指の存在感が増す。レオナの中が、兄の指を締め付けているのだと気付いて顔に血が上る。しっかりと兄に片腕で抱きかかえられて落ちる事は無いが、広がった隙間の所為で姿勢が不安定になり、きゅうきゅうと指を締め付けているのに兄の指はそれを押し開くようにぐにぐにと中を広げるように蠢いていた。そして、丁寧に塗り付けられたものが、じわじわと効果を発揮し始める気配。
「さて、今日はどれにしようか」
「あ、……」
ずるりと、指が抜けて、ほっとすると同時に不安になる。身体の内側が熱い。それどころか先程まで撫でられていた場所が、じわじわと痒くなってきている。あのピンクの飴玉の効果だ。溶け出した中身が触れた場所が痒くなる不思議な飴玉。レオナが宿題を間違え、兄が指定する時間内に正解を導き出せなかった時に使われるそれは今回が初めてではないが、何度味わっても慣れる事は無かった。それどころか恐怖すら感じでいるというのに、兄は楽しげに机の引き出しを空けて、中から首飾りを並べていた。真珠や、色とりどりの小石、ごろごろと大きな石等が連なるいくつもの首飾りがレオナの前に並ぶ。
あれを、レオナの中に入れるつもりなのだと、もうわかっていた。嫌だ、怖いと思うのに、あれで掻いてもらえるのかと思うとますます痒みが増すようで、無意識に腰が揺れる。痒くてじっとしていられなかった。
「前はこのパールだったから……今日はこっちの石にしてみようか」
そう言って兄が手に取ったのは、ご褒美の飴玉ほどもある大きさの石がごろごろと繋がった首飾りだった。表面はつるりと磨かれているものの、不規則な形をしたそれに思わず、ごくりと唾を飲む。
「や、やだぁ……」
兄の指よりもずっと太いそれにふるふると首を振る。そんなものじゃなくて、兄の指で撫でて欲しかった。
「大丈夫だよ、きっと気持ち良いから。それに……っふふ、こっちは待ちきれないみたいじゃないか」
じくじくと痒さで疼く入り口を、そっと兄の指先が掠めるだけで驚くほどに気持ち良くて頭が真っ白になり、かくんと身体が仰け反る。
「ーーぁ……!」
「ほら、もっと強く擦られたいだろう?」
問われて、思わず頷く。熱くて、痒くて、怖くて、早く楽にして欲しかった。
兄に軽々と持ち上げられると、物を適当に押し退けた机の上に背中を預けて寝転がらせられる。座る兄の目の前に、レオナの尻があった。つい恥ずかしくて閉じようとした膝をそっと両手で押し広げられ、服の裾を捲り上げられてしまっては、もう何も兄に隠せなかった。幼くまだ排泄以外に使った事の無い性器も、自分でも見たことの無い、痒みにひくひくと震えている穴も、早く中を掻いて欲しくて揺れる腰も、全て兄に見られている。
「怖がらなくて平気だから、力を抜いて」
震える内腿に兄が口付け、そして痒い場所にひんやりと固い感触が宛がわれた。
「ぁ、あああ……!」
すっかり慣らされたその場所が驚くほどにすんなりと石を飲み込み、痺れるような感覚が走り抜ける。痒い場所を、ぎちぎちに押し広げた石に撫でられるだけで信じられないくらいに気持ちが良かった。さらに一つ、二つと石を押し込まれるとあまりの気持ち良さに身体がガクガクと震える。
「っやぁあああ!待って、待……ぁあああ!」
必死に止めようとしても、次々に押し込まれる度に頭が真っ白になってしまう。内腿を舐めて啄む兄の頭を掴んでも、気持ち良さに強張る身体はそれ以上何も出来ない。
「大分、中も広がって来たね」
「っゃ、っあぅ、ああ、あ、あ」
「あと少しで全部入っちゃうよ」
「っひぁあ、っあん、あ、っやらぁっ」
ぷつりぷつりと石が押し込まれる度に腹の中が押し広げられてずっしりと重さを増す。苦しいのに、満たされていて、ごりごりと中が抉られるだけでどうしようもなく身体から快感が溢れだす。
「あと三つ、二つ、一つ……全部入ったね」
「っゃ、ぁぁあああ……」
ぐ、と兄の指で最後の一つを押し込まれると腹の中で石がぶつかり合って不規則に内側を抉り、もうわけがわからないくらいに気持ちが良くて身体が跳ねるのを止められない。
「さて、それじゃあ頑張ったレオナにはご褒美を上げないとね」
そう言って、兄がレオナを抱き抱えると、今度は向き合うように膝の上に乗せる。
「っっひぁああああん」
体勢が変わるだけでも中で石が容赦無く擦れて悲鳴を上げることしか出来ない。だが、気持ち良すぎて疲れ果てた身体を休めたくて動きを止めればまた気がおかしくなりそうなくらいの痒みがレオナを襲う。
「っぁ、あう、あ、やらぁ、あ、」
「可愛いね、レオナ。すごく可愛いよ」
もう気持ち良くなりたくないのに、じっとしていると痒くて、兄の足に尻を押し付けて腰を揺らす。もう嫌なのに、石がめちゃくちゃに中で暴れる度に気持ち良くて、終わりが無くて、兄にすがりついて鳴く。  
「っふふ、もうご褒美どころじゃ無さそうだね。好きなだけ気持ち良くなって良いよ」
「っにゃ、ぁああ、あ、っっふぁぁああ!」
尻に敷いた兄の足が上下に揺すぶられるとレオナが腰を振る度に溢れる快感がずしんと身体中に広がり、頭が真っ白になっていた。とん、とん、と足が上下に揺らされるリズムに頭まで突き抜けるような快感が休む間も無く襲いかかり、気持ちが良いのが辛くて涙がぼろぼろと溢れる。
「っあ、ゃらあ、にいちゃ、っぁ、あ」
ご褒美が欲しい。飴を味わう余裕なんて無いけれど、兄からのご褒美が欲しかった。言葉にならない声の代わりに、必死に兄を見上げて舌を差し出す。甘い飴玉も好きだけれど、例え飴玉が無くたってレオナにとってはご褒美だった。兄の匂いに、味に、温もりに包まれて呼吸すらも奪われるようなあの時間が、レオナにとってのご褒美だった。
「……いい子だね、レオナ」
涙でぼやけた視界の中で、兄が優しく笑っていた。足を揺らすのを止めた兄が顔を寄せ、レオナの舌先をちゅうと吸い上げる。
「っふぁあ、あ……ッ」
それだけで心も体も、じんわりと満たされて行く。過ぎる快感で込み上げていた恐怖を、ゆるりと絡みつく兄の舌が舐めて溶かしてくれる。
「っは、ぁん……んむ……」
必死に兄の胸にしがみつき、兄の舌を追いかける。痒みは未だレオナを苛み、必死に腰を振って兄の足に尻を擦り付ければ擦り付ける程に中の石がぐちゃぬちゃと水音を立てながら、絶えず真っ白になりそうな程の快感を連れて来る。
気持ちが良すぎるのは、怖い。
自分でもわけがわからなくなって、怖いのに逃げる事も追い払う事も出来ず、ただ気持ち良い事を追いかけ続けるしかなくなってしまうのは、どうしようもなく怖かった。
けれど、それで兄が喜んでくれるから。
良い子だね、とレオナを褒めて、愛でて、ご褒美をくれて、たくさん触って抱き締めてくれるから。
だから、今日も、レオナは間違える。
兄に喜んで貰う為に、わざと、違う答えを書いて、兄を誘うのだ。

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おもいでばなし1

1.一番古い思い出
小さい頃、絵本を読む時は兄の膝の上がレオナの定位置だった。
胡坐を組んだ、右の太腿の上。兄の大きな掌が安定させるようにレオナの腰に回り、服の下に潜り込んだ指先がレオナのお腹を撫で、もう一つの手はレオナの内腿の合間に挟まっているのがいつもの姿勢だった。暖かくて、でも柔らかな肌を熱い掌で撫ぜられるのは少し、擽ったい。
「……そおして、おおじさまと、おひめさまは、いつまでも、しああせに、くらしました。めでたし、めでたし」
「上手に読めたな、レオナ」
凄いぞ、と頭を撫でられ、太い腕でぎゅうと抱き締められ、おでこに、鼻に、頬にたくさんのキスの雨が降って来る。
それだけで幸せだった。お返しに、兄の腕の中で身体の向きを変えほっぺたを重ねてぐりぐりと押し付ける。
「可愛いなあ、レオナ。食べてしまいたいくらいだ」
そう言って、嬉しそうに笑った兄が頬をべろりと舐める。まるで大型犬にじゃれつかれているような気分でおかしくて、やだあ、と笑いながら兄を押しのけようとするも、全く敵いやしない。
「おや、上手に読めたご褒美も要らないのかい?」
「いる!!!」
突っぱねていた手を慌てて兄の首に絡ませて抱き着く。レオナが何かを上手に出来た時にもらえるご褒美。それ自体は、ただの何の変哲もない飴玉だ。乳母にでも強請ればいつだってすぐに食べさせてもらえるような、何処にでもある飴玉。
だが、それを兄から「ご褒美」としてもらう事に意味があった。レオナが認められた証。兄が、レオナを褒めてくれた証。
「今日は何色が良いかな」
「んー……きいろいの!」
兄が傍らのテーブルに置かれたガラス瓶を手に取り、中に詰められた色とりどりの飴玉の中から黄色い飴玉を取り出す。レオナの口には入りきらないような大きな大きな飴玉。これかい?と確認するように片眉を上げて問われ、こくこくと何度も頷くと、その飴玉は兄の口の中に放り込まれる。からり、ころり、舌で転がすような音の後に、ぬるりと唇の合間から黄色の飴玉が覗く。
どうぞ、と言わんばかりに兄が笑ってから、漸くレオナは身を乗り出して兄の唇に挟まれた飴玉へと舌先を伸ばす。この飴玉は大きいから、間違えてレオナが飲み込んでしまったら窒息死してしまうから、直接舐めるのは駄目だと教わっていた。その代わりに、兄の口からだったら幾らでも舐めて良いとも。「上手に」舐める事が出来たら、もう一つくれることだってある。だからレオナは、兄に教わった通りに、兄が上手だと褒めてくれるように、一生懸命に飴玉を舐める。
ぺろりと舌の腹で舐めれば柑橘系のような、爽やかな味がした。美味しい。つるりとした表面にぺろぺろと舌を這わせるとどうしても兄の唇にも触れてしまい、くすぐったげに兄が笑っていた。
「あ、」
ころりと、飴玉が兄の口の中に消えて行く。兄曰く、ずっとあのままにしていると口の中が乾いて飴玉が張り付くからちょっと休憩が必要なのだという。でもレオナはもう、そうやって飴玉を仕舞い込んでいる時の兄の口の中がとても甘くておいしい事を知っている。
「っは、んんん、……ん」
閉じられた兄の唇を舐めれば、いとも簡単に開いて小さな舌が吸い込まれる。絡みつく分厚くて大きな舌が、甘い。とろとろと流れ込む甘い唾液をちゅうちゅうと吸い上げてはこくりと飲み下す。美味しい。
「っふぁ、……ぁ、んん……」
兄の首に縋りついて夢中で甘い味を追いかけていると、大きな掌がレオナの小さな尻を包み込み、やわやわと揉んでいた。柔らかな子供の肉が心地良いのだと、兄は言っていた。兄が喜ぶなら、レオナも嬉しい。でも普段、自分でも触れないような尻の合間を、布越しとは言え太い指先が撫ぜるのはどうにも落ち着かないし、何度されても慣れない。くすぐったいような、恥ずかしいような、きゅう、と身が竦むとお尻の間に兄の指を挟み込んでしまうのも、なんだか居心地が悪い。
ふ、と、飴玉を歯で挟み込んだ兄が吐息で笑っていた。なんだか馬鹿にされたようで、悔しくて、何でもない振りをする。
とろりと、兄の口の端から甘い蜜が垂れ落ちていた。勿体ないから、顎先に滴る場所からぺろりと舐め上げて、また飴玉に齧りつく。二人の間で少しずつ溶けた飴玉はだいぶ小さくなっていた。そろそろ、レオナが口に入れてもきっと大丈夫だと思うのに、咥えようとしても、舌を潜り込ませてもぎ取ろうとしても兄は中々飴玉を渡してはくれない。
「っは、ふ、……ぅ……おにー、たん、……」
早くその甘い飴玉を、レオナが上手に出来たという証を受け取りたくて、兄にせがむ。ぎゅうと首に回した腕に力を込めて、兄の掌にお尻を擦り付けるように揺らして、尻尾を兄の腕に絡みつけて、ちょうだい、とアピールするように口を開けて、舌を差し出す。そうすれば、兄はいつもレオナのおねだりに応えてくれたから。
レオナの目の前で、兄が、ふわりと笑みを広げていた。
喜んでもらえた、と嬉しくなるころには差し出した舌が兄の唇にぱくりと飲み込まれてちゅうと吸われる。ぞわぞわと肌が粟立って、思わず尻尾がぴんと立つ。
「ふぁ、ああ……あ」
それから、兄の舌ごとレオナの口の中に押し込まれた飴玉は随分と小さくなっていた。分厚くて大きな兄の舌はそれだけでレオナの口の中がいっぱいになってしまい、隙間から伝い落ちて注ぎ込まれる甘い液体を一滴も逃さぬように夢中でしゃぶりついて飲み下す。短い下衣の裾から潜り込んだ兄の掌が、下着の中にまで潜り込んで直接ぴったりと肌を揉んでいた。少ししっとりとした指先が何度もお尻の間を撫でていてなんだかぞくぞくと背筋が震える。
分厚い舌が抱え込んだ飴玉は、レオナの小さな舌では中々奪えない。どうにか飴玉に触れてもすぐに兄の舌先が器用に飴玉を掬い上げてしまう。その代わりとでもいうようにとめどなく甘い液体がレオナの口に注ぎ込まれ、飲み込みきれずに口の端から溢れてしまう。
「っはふ、……は、……ね、おにい、たん……欲しい……っ!」
絡まる舌の合間に、ねだる。もうすぐ飴玉が溶けて全てなくなってしまう。レオナのご褒美が、消えてしまう。
きゅう、と目の前で兄の目が細くなり、それから、ゆるりと綻んだ。ちゅうと音を立てて舌を吸われ、顎から喉まで滴る甘い唾液を舐め取り、そうしてすっかり小さくなってしまった飴玉を見せつけるように口を開けた後、がり、と噛み砕かれる。
「……!」
無くなってしまう、と悲しい気持ちになったのは一瞬だった。すぐに、兄が再び飴玉の詰まったガラス瓶を取るのに、期待が高まる。
「ごめんね、つい意地悪し過ぎてしまった。今日はもう一つご褒美を上げようね、何色がいい?」
おかわりがもらえる。つまり、レオナは上手に出来たのだ。兄に喜んでもらえたのだ。
嬉しくて、幸せで、ほっぺたがふにゃふにゃに緩んでしまう。もしかしたら、今度も上手に出来たらもっとご褒美をもらえるかもしれない。
ガラス瓶の中に詰まったカラフルな飴玉をじっと見つめて、考える。さっきは柑橘系の爽やかな甘みだったから、今度はべたべたに甘いものが欲しい。兄がお代わりをくれるのは、緑色の飴玉の時が多い気がする。
「……みどりの!」
レオナが告げると、兄はにっこりと笑って緑色の飴玉を口の中に入れた。

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アイスクリーム

欲を吐き出した後の倦怠感に包まれて、弛緩する身体をシーツに預ける。遅れてゆっくりとレオナの上に預けられる体重をそっと抱き留め、荒い息を吐く。胸の上にぺとりと預けられた頭を撫でれば、レオナの物とは違う、真っ直ぐで癖の無い髪がしっとりと指に絡み付いた。まだレオナの物はジャミルの中に埋められたまま、ジャミルの息遣いを感じている。
「……アイス、食べたい」
ぽつりと胸の上に落ちた声に、冷凍庫の中身を思い出す。確か以前買い物に行った時、ジャミルが勝手にカゴに忍ばせたアイスクリームのパッケージがまだ残っていた筈だ。
「……持って来るか?」
アイスと、スプーンと、それから水分補給にビールもついでに持ってくるか。肘を付いて身を起こそうとするレオナの肩にするりと腕が絡み付き、押し止めるように体重が乗せられる。圧し掛かり、見下ろすジャミルの双眸が笑みに細められていた。
「違う、ダッツの、新しいやつ」
「はあ?んなもん、うちに無えだろ」
「コンビニに売ってた」
「今から買ってこいって?」
「うん」
「ふざけんな」
ぐしゃぐしゃと綺麗な髪をかき混ぜてやるも、ジャミルはけらけらと笑っていて全く堪えた様子が無い。
「コンビニまですぐだろ」
「なら自分で行けよ」
「ヤダ」
「俺だって嫌だ」
「なあ、レオナ」
「あ?」
「アイス、食べたい」
額を合わせて、キスをするような至近距離で、ジャミルがねだる。外では何でも一人で出来てしまう優等生として知られるジャミルが、交渉術も何も無く、ただ望めば何でもレオナが叶えてくれると信じて甘えているのだと思うと、それ以上拒絶するのは難しかった。先に惚れた方がなんとやら、思わず深い溜め息を吐いてやれば勝利を確信したジャミルが幼い顔で笑う。どの道、そんな無防備な笑顔を見せられてしまったらレオナに勝ち目は、無い。
「何処のコンビニだ」
「駅前の、ポストがある方の」
「遠い方じゃねぇか」
レオナが身を起こせば、楽しげに笑うジャミルがゆっくりと膝を立てて体重を浮かせる。ずるり、とすっかり力を無くした物が抜け落ちて満足げに喉を鳴らしていた。ついでとばかりにジャミルの細い指が萎えたレオナのものに絡みつき、被されていたゴムを器用に抜き去ると、くるりと丸めて結んでティッシュで包んで放る。
「ナイッシュー」
すとん、と綺麗な放物線を描いてゴミ箱に吸い込まれたのを見届けて上機嫌な声を上げるのを聞きながら、レオナは床に落ちていた下着やらスウェットやらを拾い上げては身に付けて行く。汗で気持ち悪いが、深夜のコンビニに行くだけなら許されるだろう。
「で?何味だ?」
「アーモンドのやつ」
「んなもんあったか?」
「出たんだよ、つい最近」
ベッドの上、シーツに絡まりながら猫のように伸びをする姿を横目に、さすがにTシャツは脱ぎ捨てたものを再び着る気にならずにクローゼットを漁り、洗剤の香りが残る新しいものを頭から被る。乱れた髪を適当にかき揚げ、財布を尻ポケットにねじ込み、スマホを探す辺りでもぞりとシーツにくるまったジャミルがベッドから降り立ちぺたぺたとレオナの後を着いて来るようになった。床の上に丸まったジャミルの下着に埋もれていたスマホを発掘し、電池の残量を確かめてから玄関へと向かう。サンダルを突っ掛けながら、ぺたぺたとマイペースな足音を頭だけで振り替える。
「ダッツのアーモンドな、他にはないな?」
まあ何かあればスマホで連絡してくるだろうと、礼儀として一応聞いておいた、程度のものだった。だがすぐ返ってくると思われた返答はなく、不審に思って見下ろした先には、先程まではえらく上機嫌だった筈のジャミル尖った唇があった。
たぶん、これは、ジャミル自身でも理解しきれない感情に戸惑っている時の顔。はっきりと本人からそうだと言われた事は無いが、それなりに長い付き合いだ、間違ってはいないと思う。すぐにでも扉を開けようとしていたのを一旦止めて、ジャミルに向き直る。下手に急かせば、ジャミルは処理しきれなかった感情を飲み込み無かった事にするだろう。今までのように、優等生らしく、聞き分けの良い振りをするのだろう。
ずっとそうやって生きてきたジャミルを、長い時間をかけてようやくここまで懐かせ、レオナにだけは甘えるようになったのに、今さら我慢はさせたくない。
「……なんか他にもあるなら、言ってみろよ。待っててやるから」
ことさら優しく声をかけて、頬に張り付いている黒髪を指で掬い、耳にかけてやる。迷うように揺れた夜の色の瞳がじっとレオナを見上げ、それからきゅ、とまるで拗ねたような顔をする。
「……やっぱり一緒に行く」
「……なら、服着て来い。流石に裸じゃ外に出せねえな」
何を言い出すのかと思いきや、また随分と可愛らしい事を。ぱたぱたと急ぎ足に部屋に戻る背中を見送りながら、レオナは一人密やかな笑いを漏らした。



既に日付も変わった時刻の住宅街はしんと静まりかえっていた。素肌に薄手のパーカーと膝下までのパンツを履いただけのジャミルに、乳首透けてるぞと言おうかどうしようか悩んで、止めた。どうせ会うとしたらコンビニ店員くらいのものだから気にする事も無いだろう。つい突いてやりたくなる気持ちを我慢すれば良いだけの話だ。
人目が無いからと、堂々と手を繋いでやればジャミルの機嫌は戻ったようだった。ふんふんと何か鼻唄を歌っている。
月は明るく、通りすぎる風は少し、生ぬるい。繋いだ手が汗ばんでいた。少し力を入れて握ってやれば、絡んだ指に同じように力が籠り、そしてジャミルがレオナを見る。目があうと、闇に同化してしまいそうな瞳が、満足げな三日月の形になっていて、釣られたようにレオナの顔も緩む。
言葉は無かったが、なんとなく、それで良いのだと思う。広い夜空をまるで二人だけのものにしたかのような満たされた気持ち。知らない歌を歌うジャミルの何処か弾んだ声を聞きながら、繋いだ手を頼りに、二人で夜を歩いた。



辿り着いたコンビニの扉が開くと、汗を纏った身体がひんやりとした空気に晒されて心地が良い。繋いだ手を離し先に店内へと入っていくジャミルの後を追う。
一直線に向かったのはお菓子のコーナー。袋詰めになったスナックをじっくり吟味しているのを見て、レオナは入り口に戻って籠を手にした。時間にして大した時間をかけずにジャミルの元に戻った筈だったが、戻った時には既にいくつか選び取られた菓子が無言で籠に放り込まれる。新商品と書いてある物、ジャミルが良く好んで食べている物、それからもう一つ見覚えのある袋にレオナは片眉を上げた。
「……お前、これ嫌いだって言って無かったか?」
「そうだったか?」
「チーズが臭いって言ってただろ」
「でもレオナ、それ好きだろ」
このチーズ味のポテトスナックは、以前やはり何かのついでにジャミルが勝手に籠に放り込み、そして帰るなり開封して食べ始めた物の、一枚食べたきり顔を顰めてレオナに残りを押し付けて来たと記憶している。あえてジャミルが苦手な物を次も買うことは無いだろうと、特に感想も告げずに黙々と消費することに専念していた筈だったが、しっかりバレていたらしい。どうだと言わんばかりに笑うジャミルを誉める代わりに髪をかき混ぜてやれば、止めろと笑いながらパーカーのフードを被られてしまった。



飲み物の並んだ冷蔵庫の前で、一人一本ずつ缶入りのアルコールを選び、あとは目当ての物を籠に入れれば終わりかと言う頃に、あ、とジャミルが声を上げる。
「なんだ?」
「こっち」
問いには答えずに腕を捕まれ、引っ張られるままに着いて行くと、そこは店を入ってすぐに通り過ぎた場所だった。ジャミルの視線の先に並ぶ品物を見て、レオナは首を傾げる。
「……まだあるだろ?」
「味付きとか、イボ付きだって」
「あんま良いもんじゃねえと思うが」
「レオナ、どれなら入る?」
「買うのかよ」
「変なやつ試してみたい」
これかこれ、と二種類を指差されて渋々パッケージに書かれた情報から入るかどうかを考える。両方ラテックス製なら、まあ、多分、なんとか入るだろう。まるで玩具を買ってもらう前の子供のように目を輝かせてレオナと一緒に覗き込むジャミルがおかしくて、つい、伸ばした手でジャミル背中からパンツの中へと手を滑り込ませる。ウエストがゴムで出来たそれはいとも容易くレオナの侵入を許し、生肌の尻を掴めた。
「っっ!……おい、」
咎める声には構わず、小さな尻を育てるようにやわやわと肉を揉み、先程までレオナを咥え込んでいた場所に浅く指先を埋め込んでやれば息を飲むような音と、ぴくりと震える肩。下手に暴れて目立つことを嫌ったのか、身動ぎはするもののレオナから逃れられる程には至らない。それを良い事にもう少し深くまで指を差し入れぐるりとかき混ぜてやれば、流石に危機感を覚えたらしいジャミルに思い切り太股を叩かれた。
「お前の中に入るもんだろうが。こっちにも聞いておかねえと」
「オヤジくさ……」
「後で泣かせるから覚えてろよ」
可愛げの無い事を言う罰とばかりに軽くジャミルの好きな場所に指先で振動を送ってやれば、ひぅ、とか細い悲鳴が上がり、ビクンと肩が跳ねさせた身体がたまらず、と言った様子でレオナにしがみついたので、満足して指を抜いてやる。
それから、先程適当に選んだ箱を籠へと放り込む。どうせ一個使えば飽きるか、むしろ封を開けただけで満足して結局使わずにゴミになるのが目に見えている。
「あとはもう無ぇな?」
聞けど、先程よりも目深にフードを被ったジャミルはレオナの背後に回って執拗に脹ら脛をサンダルの爪先で蹴っていて表情を窺うことは出来なかった。痛いという程では無いが鬱陶しい。だがまあ、そうされるようなことをした自覚はあるので子供染みた仕返しに笑いを誘われながらも、甘んじて受け入れることにする。



レジに向かい、店員が出てくる頃には脹ら脛への攻撃は止まったがジャミルはレオナの背に隠れたままだった。下手に情事の名残を纏わせたままの顔を人目に晒すのはあまり良い気分では無いからそれは良いのだが、会計を済ませ、店の外に出てもレオナの背中に張り付いたままなのは少々居心地が悪い。
「おい」
歩けばついてくるが、返事は無い。
「ジャミル」
呼べば、軽く背中を殴られた。今度は一体なんなんだと振り向こうとするも、それを阻止するようにTシャツの裾を掴まれ、腿の裏を膝で蹴られる。
「お前な、言いたい事は口で言え、口で」
振り返ることは出来なかったが、足を止めて待つ体制に入る。時間にすればほんの数秒の間、それからトドメとばかりに背中に額が勢い良くぶつかる感触。
「……アンタのせいでシたくなってきたのでキリキリ歩いてください」
一瞬意味を考えてから、思わず声を上げて笑ってしまった。もう一発背中を鈍く殴られたが可愛いものだ。買い物袋を持たない手で背中を探り、ジャミルの手を掴んでも逃げられはしなかった。指を絡ませ、ぐい、と引っ張り歩き出す。
「帰ったらたっぷり可愛がってやるよ」
漸く歩き出したジャミルの顔はフードに隠されて見えない。だがきっと耳まで真っ赤になっているのだろう。普段、したくなったら勝手にレオナの物を舐めて跨がるくらいの事をしでかす癖に何を今さら恥じらっているのか、何処で羞恥心を覚えたのかわからない。だがわからないからこそ、ベッドに押し倒してやるのが楽しみになる。

帰りの道は、行きよりも随分と早く家に辿り着く事となった。

拍手[1回]

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